1 医療界と法曹界   

 病気で苦しむ人を相手にする医療界と,財産や人間関係のトラブルに苦しむ人を相手にする法曹界には共通するところが多くあります。しかし,医療界と比較すると法曹界は圧倒的に遅れています。私たちは医療界に学ばなければなりません。

 

2 対人援助

 医療の世界では,対人援助に関する研究と実践がかなり進んでいます。キュア(治療)だけでなく,ケアの重要性が認識されています。

 

 法曹界はケアについて,ほぼ手つかずと言ってよい状況です(心がけている弁護士はいますが,体系的な研究はこれからです)。弁護士は,裁判で勝つことを目標とし,裁判官は証拠に基づいて権利と義務を確定することを目指してきました。しかし,それで利用者は満足するのでしょうか。利用者は弁護士や裁判所に何を求めているのでしょうか。勝ち負けで紛争は解決するのでしょうか。

 

 紛争の解決とは何かという問題については以前にブログに書きました。利用者が求めているのは納得であり,安心です。これはケアの概念を抜きにして成り立ちません。今後は特に力を入れて研究し,実践していきたいと思います。

 

3 学会

 医療界は新たな治療法などを探究し,その成果を共有する仕組みがあります。学会は全国規模のものから地方会まで,かなりの頻度で開催されています。医師や看護師などの医療者は論文を書いたり,学会で発表することを頻繁に行っています。

 

 それに対し,弁護士の世界では研修は行われていますが,受け身の勉強会がほとんどであり,自ら発表する機会はほとんどありません。やはり発表の場があった方が進歩向上します。地方において,そのような場を設けていきたいと考えています。

 

4 症例カンファレンス  

 病院では,医師などが集まり,患者の症例について意見交換をするカンファレンスが行われています。一人の医師の知識や経験は限界がありますので,見落としていることがないか,もっとも有効な治療法は何か,注意すべき点はどこかなどについて,意見を述べ合います。カンファレンスで得られた視点に基づいて検査をしたところ,原因が解明でき,治療につながったということも少なくないそうです。また,カンファレンスは先輩の知識や経験を若手医師に伝える貴重な機会ともなっています。

 

 私の事務所でも,これにならって毎週「事例検討会」というカンファレンスを行っています。所属する弁護士8名が,担当している事件の中で悩んでいる問題点などについて説明し,意見を求めます。法律の解釈の問題,判例の検討,証拠収集の方法など,様々な意見が出ます。

 

 また,技術的なことだけでなく,依頼者への説明の仕方や,相手方へのスタンスなど,弁護士として事件に向き合う姿勢についても意見が出されます。弁護士経験30年以上の私にとっても大変勉強になりますが,若手弁護士にとっても非常によい勉強の機会だと思います。

 

 医療界には学ぶべき点が沢山あります。これからもどんどん取り入れていきたいと思います。