1 句読点
分かりやすい文章を書くためには,句読点の使い方も重要です。
本多勝一著「日本語の作文技術」に書かれている具体例を紹介します。
渡辺刑事は血まみれになって逃げ出した賊を追いかけた。
血まみれになったのは,渡辺刑事なのか賊なのか分かりません。賊が血まみれになったのであれば,次のようにテンをうつべきです。
渡辺刑事は,血まみれになって逃げ出した賊を追いかけた。
ところが,次のようにテンをうったら,どうでしょうか。
渡辺刑事は血まみれになって,逃げ出した賊を追いかけた。
間違ったテンをうつことによって,刑事が血まみれになったということになってしまいます。
2 テンの原則
間違ったテンを打ってはなりませんが,あまり深く考えずに沢山のテンを打つ人があります。しかし,テンには原則があります。
(1) 長い修飾語が二つ以上あるとき,その境界にテンをうつ。
例として
病名が心筋梗塞だと,自分自身がそんな生活をしながらも,元気にまかせて過労を重ねたのではないかと思う。
という文章が紹介されています。テンを打たないと分かりにくくなりますね。
(2) 原則的語順が逆順の場合にテンをうつ。
先に紹介した文章で説明します。
渡辺刑事は,血まみれになって逃げ出した賊を追いかけた。
原則的語順では,長い修飾語の後に短い修飾語が来ますから,
血まみれになって逃げ出した賊を渡辺刑事は追いかけた。
となります。これを前後逆にするときには,
渡辺刑事は,血まみれになって逃げ出した賊を追いかけた。
とテンを打つのです。
3 不要なテンはうたない
教科書にも出てくる井伏鱒二著「山椒魚」の書き出しの文章は秀逸です。
山椒魚は悲しんだ。
彼は彼の棲家である岩屋の外に出てみようとしたのであるが、頭が出口につかえて外に出ることはできなかったのである。今はもはや、彼にとっては永遠の棲家である岩屋は、出入り口のところがそんなに狭かった。そして、ほの暗かった。強いて出て行こうとこころみると、彼の頭は出入り口を塞ぐコロップの栓となるにすぎなくて、それはまる二年の間に彼の体が発育した証拠にこそなったが、彼を狼狽させ且つ悲しませるには十分であったのだ。
句読点で区切りながら朗読すると,自然とリズムがでてきてかつ分かりやすいのです。テンが多すぎると,文章がぶつ切りとなって流れがなくなってしまいます。
4 ナカテン
本多勝一氏は,ナカテン(・)の効用を説いています。言葉を並列に並べる場合に,ナカテンをどんどん使う方が論理として分かりやすいと言っています。
私もそのように思うので,ナカテンを使うようにしています。
A社は,B社,C社,D社に対して協議を申し入れた。
と書くよりも
A社は,B社・C社・D社に対して協議を申し入れた。
とした方が,B社・C社・D社の並列関係がより分かりやすくなると思います。
5 テンとコンマ
縦書きの文章では「、」を使いますが,横書きの文章では「,」(コンマ)が使われます。
裁判所や役所では,コンマが使われていますが,これは昭和27年に内閣官房長官名で出された通知に基づいているものです。
裁判所ではコンマが使われていますので,私も横書きの文章にはコンマを使っています。