1 営業マンの技術
営業の話法は大変研究されており,説得の技術として,営業以外の様々な場面に当てはまります。
弁護士の仕事とは直接関係しませんが,中村信仁著「営業の魔法」から説得の技術を紹介したいと思います。
2 売らない営業
商品を売るのが営業であり,「売らない営業」というと矛盾のように思われるかもしれません。
「売らない営業」とは,商品を売ろうとするのではなく,お客様の問題解決のお手伝いをするということです。
法律事務所にも営業の電話がかかってきますが,どうしても身構えてしまいます。商品やサービスの説明をされても,警戒感が強くなるばかりです。
そんな営業が大多数ですが,時々,「話を聞いてみようかな」と思うことがあります。それは,自分が悩んでいる問題について,解決策を提案されたときです。
一生懸命に売ろうとして,商品やサービスの説明ばかりしていても,顧客は後ずさりするだけです。売ることをやめて,顧客が悩んでいる問題に集中し,その問題の解決策を一緒に考えていくことが大切です。
「売らない営業」や「誘わない勧誘」は,相手の心を動かすときに大切なことです。
3 既成概念
昔,靴のセールスマンがアフリカへ行き,靴の市場調査をしました。その結果報告は,「アフリカはダメです。全員裸足で誰も靴を履いていません。アフリカでは靴はまったく売れないと思います」というものでした。
同じ時に,別のセールスマンもアフリカへ行っていました。その報告はまったく反対でした。「アフリカは最高の市場です。ここでは誰も靴を履いていません。裸足という文化を変えることができれば,全員がお客様になります。靴の安全性を広く伝えましょう」
二人のセールスマンは同じ時に同じ場所に立ち,同じ風景を見ていましたが,まったく反対の発想をしています。
「靴を履く人に対して靴を売るのであり,靴を履く文化のないところでは靴は売れない」という既成概念にとらわれていると,新たな可能性は開けません。
私たちは,「これはできる。これはできない」と考えていますが,すべて既成概念の中で考えていることです。過去の知識や経験を一旦白紙にして,物事を考える訓練をしていくことが必要です。
4 二者択一話法
相手に質問をするときに,二つの選択肢を提示して選んでもらうようにすると相手は答えやすくなります。
「趣味は何ですか?」と尋ねるよりも,「読書とスポーツはどちらがお好きですか?」と聞く方が答えやすいのです。相手が「読書が好きです」と答えたら,「小説とビジネス書ではどちらを読まれますか」と聞きます。「最近は,歴史小説にはまっていて,司馬遼太郎を読破しようと思っています」などと,話が膨らんで行くのです。
次回の約束を取るときも,「次回はいつがいいですか」と聞いたり,「来週火曜日の午後1時30分から○○で会いませんか」と言うよりも,「来週ですと,前半と後半とどちらが都合よいですか」と尋ねるようにします。大抵はどちらかを答えてくれます。
「前半がいい」となれば,具体的な日時を調整します。「前半がいい」と答えておきながら,断ることはしにくいので,次の約束が取れる可能性が高くなります。
また,来週前半と後半を提示して,前半と答えた相手は,かなり興味を持ってくれていることが分かります。
「来週後半」と答えた相手には,約束を忘れてしまう可能性もあるので必ず,2,3日前に確認の電話を入れるようにしましょう。
5 質問話法
相手が「分かりました。検討してみます」と答えることがあります。これは相手が一つの決断をしたということです。「今は決めない」という決断です。
それに対しては,「分かりました。ご検討下さい。もう売り込みませんから,本当のところを聞かせてもらえませんか」と質問します。
一旦白旗を上げてしまい,お客様の本心を尋ねるのです。
「もう少し安ければいいんだけど」とか「デザインがちょっと気に入らないから」という本音を聞くことができます。問題点が分かれば,そこに焦点を絞った解決策を提示することができます。
6 肯定暗示法
営業ではクロージングが重要になります。大切なのは肯定暗示法です。これは「言い切る」技術です。曖昧な言葉を一切排除して,すべて「イエス」を前提に話を進めます。
やってみませんか?→やりましょう!
いかがですか?→素晴らしいでしょう!
お時間はありますか?→お時間を作って下さい!
行きませんか?→ぜひ,行きましょう!
すべてポジティブに言い切ってしまいます。
そして,クロージングには大切な基本があります。
(1) あわてない
(2) 余計なことをしゃべらない
(3) 「間」をとる
(4) 悲壮な表情,態度をしない
(5) 物乞い調にならない
(6) 悠然と
(7) ジッと待つ
(8) クロージングをかけているという意識を強く持つ
「営業の魔法」に書かれていることは,色々な場面で役に立つと思います。