1 弁護士が提供する納得
弁護士の仕事は安心と納得を提供することだと以前にブログに書きました。
裁判で勝ったとしても,納得ができなければ,本当の意味で解決したとは言えません。
十分に納得して,円満に和解ができれば,とてもよい解決と言えます。
しかし,「納得を提供する」ということはそれほど簡単なことではありません。
2 裁判
原告と被告の主張が対立して裁判になります。原告も被告もそれぞれ自分の言い分があります。
裁判では,多くの事件で和解の協議が行われます。原告と被告が話し合いにより,互いの主張を譲り合って解決することを目指します。
和解を進めるに当たって,原告も被告も自分の感情が邪魔をすることがあります。頭では和解をした方が得であることは分かっているのに,相手に少しでも譲るということが感情的にできない場合です。
このようなケースでは弁護士が,依頼者の感情を受け入れながら,その納得を導いていくことが求められます。
3 納得してもらうには
依頼者に納得をしてもらうためには,話し方をよく勉強する必要があります。営業マンの営業話法については,様々な研究がされており,大変参考になります。
「営業の魔法」(中村信仁著)からいくつか紹介したいと思います。
4 人間力
弁護士が,依頼者に納得してもらうには,まず依頼者から好かれること,信頼されることが大切です。
「営業の魔法」では,嫌われる人と好かれる人が紹介されています。
嫌われる人
- 横柄な人
- 嘘をつく人
- 不潔な人
- 知ったかぶる人
- 場の空気を乱す人
- 人の話をさえぎる人
- 話を横取りする人
- 話を聞かない人
- 人を否定する人
- 人を不安にさせる人
好かれる人
- 謙虚な人
- 正直な人
- 清潔な人
- 感動する人
- バランスのよい人
- 順番を守る人
- 相手に敬意を払う人
- 聞き上手な人
- 認めてくれる人
- 安心させる人
嫌われる人の反対が好かれる人ですね。努力を重ねていかなければなりません。
5 集中力
依頼者から好かれていることを前提として,これから少し技術的な話になります。
納得をしてもらうには,集中力が必要です。これは,弁護士の集中力ではなく,依頼者の集中力です。
気が散るような環境では,話に集中できませんし,思考も深まりません。浅い思考に止まっていると,今まで抱き続けてきた感情が優位に立ってしまいます。
事務所の遮音された部屋で話をするのが最適ですが,裁判所での和解や調停の待ち時間に,結論を出さなければならないこともあります。
そのような場合,大勢の人が待機している待合室では,周りの人が気になり,話に集中してもらうことはできません。そんな場合は,人の少ないロビーの隅や廊下の端で話した方がよいことがあります。
6 瞬間の沈黙
結論を導く場合に,考えるべきことは複数あります。多くの問題を同時に考えようとしても,うまく整理できません。いくつかの問題を一つずつ考えて結論を出し,それから次の問題に進んでいきます。
いくつかの選択肢から一つを選ぶという決断を順を追って繰り返していくこととなります。弁護士は考慮すべき問題点を整理して,一つ一つ提示して,一つ一つ依頼者に選択をしてもらいます。一度に沢山の問題を提示すると依頼者は混乱してしまいます。
このように話をするときに大切なのが「間」です。ある問題を提示したとき,必ず依頼者は頭で考えます。その時間帯は黙っていなければなりません。
多くの人は頭で考えるときには相手から目線を外します。ですから,相手が目線を外したということは考えているということですから,私は沈黙します。やがて目線が私の方へかえってきます。それは考えがまとまったということですから,私は話を始めます。このように「間」というものは非常に大切です。
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