1 喫茶店から窓の外を眺める
喫茶店でコーヒーを飲みながら,窓の外を眺めると,街を行き交う車が見えます。
「車は動いていて,私は止まっている」と思います。
しかし,これは間違いです。
2 何を基準にするか
急に何を言い出したのかと思われるでしょうか。
動いているとか止まっているというのは,基準との比較の問題です。この大地を基準にすれば,私は止まっていますし,車は動いています。ですから,「車は動いていて,私は止まっている」は正しいことになります。
3 地球の自転
しかし,大地は止まっていませんね。地球は自転していますので,座っている私は秒速約460メートルで動いていることになります(緯度0度の場合)。
時速に換算すると1656kmになりますので,大谷翔平投手が投げるボールの10倍以上のスピードです。地球の自転軸(地軸)を基準にすると私たちは,目にもとまらない速さで動いていることになります。
したがって,車も私も動いているのです。
4 地球の公転
皆さんご存じのとおり,地球は太陽の回りを公転しており,太陽を基準とすると地球が動いているスピードは秒速30kmとなります。
私たちにはとても想像できない速さですが,間違いなく,そんなスピードで私たちは動いているのです。
5 太陽の公転
地球は太陽の回りを公転していますが,太陽も公転していることをご存じでしょうか。
太陽は,銀河系の真ん中を中心として,公転しています。その速さは秒速220kmと言われています。
銀河系を基準にすると私たちは秒速220kmで動いていることになります。だんだん訳が分からなくなってきましたね。
6 銀河系の移動
もう少し訳の分からない話を続けます。
実は,銀河系も動いています。宇宙は膨張を続けており,銀河系もその膨張に従って秒速630kmで移動しているそうです。
膨張の基点から見ると私たちは秒速630kmで動いています。
7 たとえてみると
遊園地にあるティーカップの遊具を想定して下さい。カップの中のイスに座って足下を見ていると自分は動いていませんが,回りを見ると,カップが回転していることが分かります。
そして,もっとよく観察するとカップだけでなく,カップが乗っている円盤も回っています。
(この後は想像力を働かせて下さい)
更にその円盤が巨大な観覧車の一つの車になっていて,カップを載せた円盤が回転しながら,高くまで持ち上がったり,下がったりしています。(おかしな絵になりますね)
更にその観覧車が巨大ロケットにくくり付けられていて,宇宙へ向かって飛んでいるのです。(めまいを覚えそうです)
宇宙から見ると,私というものは,本当に小さな存在です。人生80年と言っても一瞬の出来事です。そう考えると,得した,損した,如何に儲けるか,如何に出世するかなど汲々としていることが小さな問題だと気づきます。
8 視点や見方
話が広がりすぎましたが,何を基準にするかによって,私の存在の見え方はかなり変わります。
自分で「これが正しい」と思っていることでも,視点や見方を変えれば間違いになることがあるのです。なかなか自分では気づかないので,人の意見を謙虚に聞くことが大切だと思います。
弁護士の依頼者も,ある見方にこだわって苦しんでいることが少なくありません。その人の経験や環境からものごとを見るのは当然ですが,別の視点を提供することによって,苦しみがおさまってくることがあります。
「視点の提供」と言いますが,「このように見て下さい」と言っても伝わりません。ご自身で別の視点に気づいてもらうことが必要です。