1 夢のこと
先日のブログで「夢疲れ」と書きましたが,今日,「ドリーム・ハラスメント」という言葉があることを知りました(高部大問著「ドリーム・ハラスメント 「夢」で若者を追い詰める大人たち」)。
2 夢を持つこと
昔から「夢を持つようにしよう」と言われるように,夢を持つことは大切なことです。
ところが,最近は,「夢の義務化」とか「夢の強制」という状況になっています。
多くの大人が若者に対して,
あなたの夢は何ですか
あなたは夢を持っていないのですか
夢をしっかりと持ちなさい
という発言をしています。
その結果,若者たちは「夢を持つことを強制されている」とか「夢のない人間はダメな人間だ」と感じています。
3 夢とは
夢とは自由なものです。子どもの頃は「将来は仮面ライダーになりたい」という夢がありました。「優しい旦那さんと結婚して幸せな家庭をつくりたい」という夢もありましたし,「マイホームを持ちたい」という夢は一般的でした。
このように自由であったはずの「夢」が,現代はかなり様相が変わってきました。「将来は安定した公務員になりたい」と言うと,「そんなものは夢ではない」と否定されます。
小学校の教科書には,「夢に届くまでのステップがある」というテーマで,イチロー選手と自分の夢を対比するワークシートがあるそうです。
いきなりイチロー選手と比較されたら,戸惑いますよね。
4 大人が若者に求める「夢」
大人たちが若者に向かって「夢を持て」と語るときの「夢」とはどんなものでしょうか。
YouTubeなどのネットや多くの本では,起業家となって成功すること,プロスポーツ選手になること,オリンピックで金メダルを取ること,歌手や俳優になること,政治家になることなど,「目立つ人間になること」を想定している人が多いようです。
おそらく「社会的に影響力を持つ人間になれ」ということですね。
しかし,このようになれる人はごく少数であり,若者全員がそのような夢を目指しても,ほとんどの人は「夢破れる」という結果になります。
5 「夢は必ず叶う」
夢に向かって努力すれば,努力しただけの結果が現れることは間違いありませんが,全員の夢が必ず実現するものではありません。
ところが,「夢は必ず叶う」と多くの人が言います。裏返して言えば,「夢が叶わないのは努力が足りないからだ」ということになります。
また,夢は必ず叶うから「絶対に夢をあきらめてはならない」と言われることもよくあります。これは夢の強制になって,相手を苦しめ続けることになります。
6 夢を実現するための犠牲
夢を実現するために,犠牲を伴うこともあります。
昨年開催されたラグビーワールドカップで日本代表が活躍しましたが,インタビューで多くの選手が「犠牲」という言葉を口にしました。
日当1万円と引き換えに,年間240日を合宿に費やしたそうです。仕事や家族との時間,自分の時間を犠牲にしたのは,夢を叶えるためでした(前掲書)。
私にはとてもそんなことはできません。
7 「幸せになりたい」
「私は,幸せな人生を送りたい」という素直な夢を,大人たちは認めてくれません。
「会社の中で,誰でもできるような仕事をしていてはいけない。そんな人は安い給料で働き続けなければならない」などと言う人もあります。
その人は「給料が高いことが幸せであり,給料が低いことは不幸だ」と考えているのでしょう。しかし,収入の多寡で幸せが決まるものではありません。
8 「幸せ」とは何か
日本人は,高度経済成長の時期に,どんどん便利な生活を手に入れていきました。
しかし,バブル崩壊後は,経済的に諸外国に遅れをとるようになり,「日本人は起業家が少ない」とか「もっとリスクをとってチャレンジしろ」と言われるようになりました。
リスクをとってチャレンジしなければならないのは企業経営者であって,すべての人がそんなことをする必要はありません。リスクのない安定した生活は非常に大切です。
「何が幸せなのか」という問いに対して答えを持たないまま,「夢を持て」とか,「リスクをとってチャレンジしろ」と煽ることは危険です。
9 指を自分に向けて
大人たちは「夢を持て」と言いますが,そう言う大人たちはどうだったのでしょうか。そもそも「夢を叶えた」という大人がどれだけいるのか疑問です。
「夢」ブームから,「夢」ハラスメントになり,若者を苦しめています。
大人も若者も,「夢」から目を覚まし,現実を直視して,自分にとって悔いのない人生とは何かを考えなければならないと思います。