1 昔の経営判断
昔の会社経営は,KKDと言われました。経営者は,経験(K)と勘(K)と度胸(D)で判断をしていました。時代もよかったのかもしれませんが,会社は成長していきました。
2 次の経営判断
やがて,KKDではよくない。もっと科学的な経営をする必要があると言われるようになりました。○○分析や○○ツール,○○ワーク,○○モデルなど、色々な手法が推奨され,多くの会社が取り入れるようになりました。
ところが,多くの会社が同じ手法を使うものですから,最終的な判断が似たり寄ったりのものになり,新味がなくなってきました。
3 現在の経営判断
そこで,やはり直感は大事であるということが言われるようになりました。役員会でほとんどの取締役が反対した商品が大成功を収めるという事例もよく紹介されています。
数字を持ち出して細かな分析をすることもよいが,美意識を鍛え,感性を磨いていくことが経営に必要であり,直感を大切にすべきだとも言われます。
4 直感は正しいか
直感が大切と言っても,私たちの直感はあまり当てになりません。
「不合理な地球人」(ハワード・S・ダンフォード著)に書かれている内容を紹介します。
5 二人組のテロリスト
二人組のテロリストが入国しました。そのうち一人は女性であることが判明しました。もう一人のテロリストが女性である確率はどれだけでしょうか。
人口に占める女性の比率は2分の1ですから,確率は2分の1だと思いますよね。
しかし,正解は3分の1です。
どうしてなのかを解説します。
男女の組み合わせは以下の4通りあります。
A 男 男
B 男 女
C 女 男
D 女 女
今回,一人目が女性ということですから,Aはありません。
B,C,Dのいずれかであり,確率はそれぞれ3分の1です。
もう一人も女性というのはDですので,確率は3分の1になります。
これに対し,もう一人が男性である確率は3分の2ですね。
このように私たちの直感は外れるのです。
6 3枚のドア
もう一つ,「不合理な地球人」から事例を紹介します。
A,B,Cの3枚のドアがあり,その中の一つのドアの向こう側に人がいます。残りの2枚のドアの向こうには誰もいません。
「人がいるドアを選んで下さい」と言われて,あなたがBのドアを選んだとします。そうすると,「私は正解を知っています」という人が,Aのドアを開けました。Aのドアの向こうには誰もいませんでした。
その人から「ここで選び直すチャンスを与えます」と言われました。さて,あなたはBのままにするか,Cに変えるか,どうしますか。
これはBかCかの確率の問題です。直感的には,BもCも2分の1の確率のように思いますよね。
確率は2分の1ではありません。Bの確率は3分の1,Cの確率は3分の2となります。
AとBとCの中の1つですから,それぞれ確率は3分の1です。あなたがBを選びましたが,Bの確率は3分の1で,「AまたはC」の確率は3分の2となります。そこで,Aではないことがハッキリしましたから,Cの確率が3分の2となるのです。
なんか煙に巻かれたように感じられるかもしれませんので,もう少し分かりやすい事例にします。
ここに100枚のドアがあります。その中の1枚のドアの向こうに人がいます。あなたが1つのドアを選びました。
正解を知っている人が,残り99枚のドアのうち,98枚を開きました。すべて人はいませんでした。
残っているのはあなたの選んだドアともう一つのドアの2枚です。
あなたはどうしますか。当然選び直しますよね。
人間の直感は当てになりません。これを行動経済学でヒューリスティクスと言います。
美意識,感性を大切にしながらも,直感にも頼りすぎず,最善の選択をしていくことは難しいことです。
ある程度のリスクを織り込んだ上で,色々なことに幅広くチャレンジして、ダメなら撤退するというやり方がよいと思います。