1 弁護士法の定め
弁護士法25条や弁護士職務基本規程27条,28条に,弁護士が受任してはならない事件が定められています。
その中に,「利益相反」があります。
具体的に言うと,AとBの間で紛争が生じ,弁護士がAから相談や依頼を受けた場合に,Bからはその事件に関して依頼を受けることも,相談を受けることもできないというルールです。
また,Aの事件が終わるまでは,Bから別の事件についても依頼を受けられないこととなります。
2 信頼関係
弁護士の仕事は依頼者との信頼関係の上に成り立っています。
依頼者は弁護士が自分の味方だと信頼していますので,有利なことも不利なこともすべて打ち明けます。
ところが,その弁護士が相手方の相談に乗るかもしれないとしたらどうでしょうか。
そんな弁護士には,怖くて相談も依頼もできません。
ですから,依頼者との利益が相反するような相談に,弁護士が関与できないというルールになっているのです。
弁護士業務の根幹に関わる重要なものが,「利益相反」に関するルールとなります。
3 地方ではよく起こりうる
東京のように弁護士が2万人もいるようなところでは,利益相反が問題となることは多くないと思いますが,地方では,かなりの頻度で起こりえます。
私の事務所でも利益相反を理由に相談をお断りすることが月に最低1件はあります。
4 複数弁護士の事務所
弁護士単独の事務所の場合は,弁護士の頭の中で利益相反のチェックができます。
「この名前聞いたことあるな」とか,「この話聞いたことあるな」ということになるからです。
しかし,弁護士が二人以上の場合,そうはいきません。
システム的にチェックしないと必ず漏れが出てしまいます。
また,事務所所属のある弁護士が利益相反を理由に受任できない場合は,事務所に所属するすべての弁護士も受任できないこととなります。
万が一,事務所のA弁護士が委任を受けている事件の相手方から同じ事件の相談をB弁護士が受けてしまった場合,B弁護士が依頼を受けられないのは当然ですが,A弁護士も辞任しなければならなくなってしまいます。
5 倫理研修でのこと
数年前に参加した日弁連の倫理研修は,「利益相反」がテーマでした。
そのとき東京から来られた講師が,利益相反のチェックの重要性を説明した後,具体的なチェックの方法として,「私の事務所では,新たに事件を受けるときは,依頼者と相手方の名前を書いたメモを他の弁護士に回覧しています」という説明をされたので,ずっこけてしまいました。
弁護士2万人の東京と,弁護士170人の石川県では利益相反の確率が100倍以上違います。
東京ではそんな原始的な方法でよいのかもしれませんが,地方ではあり得ない方法です。
6 データベースの利用
利益相反のチェックはデータベースソフトを使うことが不可欠だと思います。
私の事務所では,かつてマイクロソフトのAccessを使っていました。
依頼者の名前,住所などのデータと相手方の名前などを入力しておきます。
そして,電話などで相談の依頼があった場合には,応対したスタッフがデータベースを検索して利益相反のチェックをしてから,予約を入れるようにしています。
また,弁護士会などの法律相談でも,事前に予約リストを送ってもらってチェックしています。
せっかく弁護士会まで来てもらったのに相談できずに帰ってもらうのは酷だからです。
6 Kintone
最近はAccessに代わってサイボウズ社のKintoneをクラウドで使っています。
クラウドですから,外部からでも利益相反のチェックができます。
弁護士にとって依頼者のとの信頼関係は最も大事ですので,これからも「利益相反」には細心の注意をしていきたいと思います。
(以下は余談)
Kintoneは大変優れたデータベースであり,私のような素人でもほぼマウス一つで構築することができます。
事務所ではKintoneを使って,依頼者の名前,住所,電話番号,担当弁護士,担当事務職員,相手方,事件の種類,委任契約書の作成チェック,着手金の入金管理,事件終了後の記録の保管場所,廃棄の記録,廃棄しない記録のPDFなどを管理しています。
また,依頼者との電話や相手方との電話のメモなども記録でき,紙のファイルを取り出さなくても事件経過が分かります。
今後は,病院における電子カルテに近づけていきたいと考えており,実現すればテレワークも支障なく行えるようになると思います。
データベースの情報を元に,事務所報や年賀状の宛名印刷もできるのは当然ですが,Kintoneは,CTIと連動させることができます。
電話がかかったときに,誰からの電話であるかが即時にパソコン画面に表示されますので,大変便利です。
Kintoneの宣伝のようになりましたが,便利なものは何でも使っていくことが必要だと思います。