1 プロセス依存
依存症には物質依存とプロセス依存があります。
物質依存は,物質(薬物,アルコール,ニコチンなど)が直接脳に作用するものです。
プロセス依存は物質ではなくプロセス(行動)が脳内の快感物質放出に作用します。
今回はプロセス依存の一つであるギャンブル依存について書きたいと思います。
2 ギャンブル依存症
ギャンブル依存症は,日本で500万人以上と言われています。
外国では考えられないことですが,日本ではギャンブルが私たちの身近に沢山あります。
パチンコ好きの弁護士,競馬好きの弁護士も沢山知っています。
ギャンブル依存症が原因となった事件では,平成22年から23年にかけて約100億円をギャンブルにつぎ込んだ大王製紙事件が有名です。
会長の井川意高氏は,東大法学部卒業の秀才であり,有能な企業経営者でしたが,そんな人であってもギャンブルに飲み込まれてしまうのです。
ギャンブル依存症は決して他人事ではありません。
3 薬物依存とギャンブル依存
薬物は直接脳の快感回路に作用しますが,ギャンブルも同じ快感回路が働いています。
ギャンブルをしている時,脳内にドーパミンが放出されるのです。
ギャンブルというのは,結果が分かりません。
丁半博打であれば,丁が出るか,半が出るか,やってみなと分からないのです。
私たちは不確実性を快感とします。
再びラットによる実験を紹介します。
緑ランプが光ると,シロップが出る,赤ランプだとシロップは出ない,青ランプの場合は,シロップが出たり出なかったりするという実験装置を使います。
それぞれのランプが光ったときの,ラットの脳内のドーパミン量を測定しました。
すると,青ランプが光った瞬間から,ラットの脳内にドーパミンがどんどん増えていったのです。
「シロップが出るかな,それとも出ないかな」
この不確実な状態のときに脳は快感を感ずるのです。
5 スロット
パチスロ店では,スロットが流行っているそうです。
ボタンを三つ押して,7・7・7が出れば大当たりです。
我々の脳は,7・7と二つ続いた段階で最高の快感を感じます。
「次は7か」という期待と緊張がドーパミンを大量に放出させるのです。
そのときに7が出なかったとき,非常に悔しい思いをしますが,これが記憶に残ります。
同じ外れでも,2・5・6よりも,7・7・5が圧倒的に強く記憶され,この「おしかった」という経験が,全体の30%を占めると,「またしたい」,「もっとしたい」という強い感情が生まれます。
スロットマシンメーカーは,30%の最適頻度になるようプログラムしているのではないでしょうか。
科学的,計画的にギャンブル依存症は生み出されています。
6 多重債務
ギャンブル依存症のために,パチンコが止められない,パチンコ店に自然と足が向いてしまう,持ち金がなければ,借金してでもパチンコをしたいという人が少なくありません。
最後は多重債務となり,弁護士のところに相談に来ます。
借金の整理自体は困難ではありませんが,借金が整理できたからと言ってギャンブル依存症が治るものではありません。
実際に,再びギャンブルをやり始めて借金を膨らませる人も少なくありません。
必ずギャンブルをする背景があります。
家庭や仕事場に居場所がない,生きがいが感じられないために,ギャンブルにのめり込んでしまうのです。
ギャンブル依存症から立ち直るためには,周りの人たちの温かい支援が必要になります。
そして,ギャンブル依存症を治療しなければなりません。
医療機関,自助グループがありますので,弁護士は,適切な橋渡しをしなければなりません。
7 ギャンブル天国
日本はギャンブル天国と言われます。
世界的にはギャンブル規制が進んでいますが,日本は野放しに近い状態です。
更にカジノまでも作られることになりました。
ギャンブル依存症を減らそうという考えが広まることを期待しています。