1 前回は薬物依存症について書きました。
今回は,アルコール依存症について書きたいと思います。
アルコール依存症は,日本で約300万人いると言われています。
アルコール依存は,薬物依存と同じ「物質依存」です。
酒の味が美味しいから依存症になるのではありません。
アルコール成分が脳の快感回路を活性化させるのであり,その仕組みは薬物依存と同じです。
依存症は徐々に進行していきます。
2 スタート(習慣的飲酒へ)
会社の飲み会や友達との会食など,何か機会があるときに飲むことから始まります。
やがて酒に強くなり,量が増えていきます。
酒を飲むと気分がよくなり,気分よくなりたいから飲むようになります。
3 依存症の入り口
ほとんど毎日飲むようになります。量が増えていき,ほろ酔い程度では飲んだ気がしなくなります。生活の中で次第に飲むことが優先になってきます。
4 依存症の初期段階
仕事をしていても夕刻の飲酒が待ちきれず,落ち着かなくなったり,イライラするようになります。酒が原因で仕事上ミスをするようになります。
5 依存症の中期
朝起きると手が震えたり,恐怖感が生じたりすることから,迎え酒をするようになります。家庭内でトラブルが多くなり,隠れて飲むようになります。
6 依存症の後期
アルコールが切れるとうつ状態や不安になるため,飲まざるを得なくなります。幻覚が生じたり,肝臓疾患などによって日常生活が困難となり,家族や仕事の信用を失ってしまいます。
7 自己診断
アルコール依存症は,本人が深く自覚しないまま進行していきます。
AUDITというスクリーニングテストがありますので,自己診断されることをお勧めします。
キリンビールのサイトにも掲載されています。
8 家族の支援
アルコール依存症になると本人だけでなく,家族が大きな影響を受けます。
最初は,本人が立ち直れるように支援しようとしますが,依存症から回復することは簡単にはできないので,何度も裏切られることになります。
やがて,精神的,経済的に苦しくなって,本人を非難するようになってしまいます。
そうすると余計にアルコールに向かってしまうことになるのです。
本人の立ち直りには,家族の支援が必要ですし,家族にも支援者が必要です。
支援者は多いほどよいので,医療機関,断酒の会,家族の会など,沢山の関係を持つことが大切です。
9 回復
アルコール依存症は治る病気です。
適切な治療を行い,回復プログラムを実践し,同じ境遇の仲間と励まし合い,周囲の支援を受けて,少しずつ回復していきます。
途中,失敗することもありますが,決して非難してはなりません。
完全にアルコールを遮断することができ,「昔はひどい状態だったな」と笑って振り返る人を私は何人も知っています。
10 弁護士の役割
弁護士のところへ相談に来るということは,何らかの事件を起こしたということです。
飲酒運転で交通事故を起こしたとか,仕事で大きな失敗をしたというような場合です。
多くの場合,家族や勤務先は,本人を強く非難します。
その気持ちは大変よく分かります。
「非難してはいけない」と言っても,受け入れられません。
弁護士としては,アルコール依存症とはどういうものかということを,よく理解してもらうことが必要となります。
正しい理解によって,正しい行動ができるようになります。
みんな明るい未来を望んでいるのです。
悪循環に入ってしまったら,みんなが不幸になってしまいます。
この場合,急がないことが何よりも大切だと思います。