1 司法権とは

 

憲法には,「すべて司法権は,最高裁判所及び法律の定めるところにより設置する下級裁判所に属する」と定められています(76条1項)。

 

司法とは,具体的な紛争が生じた際に,裁判所が事実関係を認定し,法律を当てはめることによって,紛争を解決する国の作用のことです。

 

分かりやすい例で言うと,売主が買主に対して,「私は売買代金を請求する権利があるからすぐに支払え」と主張し,買主が「不良品だったから支払う義務はない」と主張している紛争がある場合,裁判所は不良品であるか否かを調べ,法律に当てはめて支払義務があるか否かを判断します。

 

当事者のどちらの言い分が正しいのか,勝ち負けを決めて紛争を解決するのです。

 

2 紛争とは

 

そもそも紛争とは,どちらか一方が悪く,他方はまったく悪くないというものではありません。

 

何らかのボタンのかけ間違えによって,行き違い,思い違いが生じ,紛争に発展するケースがほとんどです。

 

ですから,本来,勝ち負けという単純な判断で終わるものではありません。

 

前述の売買の例では,買主が考えていた品質のレベルと売主が思っている品質のレベルに齟齬があったためにトラブルになったと考えられます。

 

3 紛争解決とは

 

裁判という仕組みがないと,声の大きい方とか腕力の強い方の言い分が通ってしまうことになります。

 

第三者である裁判官が,公平に審理を行って判決するという裁判制度が,紛争解決のために必要な制度であることは間違いありません。

 

ここでいう「紛争解決」とは,権利と義務について強制的に決めてしまうということです。

 

言い換えれば,裁判官の権力によって白黒をつけ,それ以降は文句を言えないという仕組みなのです。

 

しかし,当事者にとっての「紛争」の「解決」とは,そういうことでしょうか。

 

4 納得ということ

 

判決が出たとしても,納得が得られるとは限りません。

 

負けた側の多くが不満を持ちますし,場合によっては勝った方も納得しないということがあります。

 

心の中のモヤモヤした不満が解消できてこそ,本当に「紛争」が「解決」できたとなるのではないでしょうか。

 

示談交渉や訴訟のプロセスを通じて,自らを振り返り,ボタンのかけ間違いがどこにあったのかを理解し,過去の紛争に終止符を打って未来に向かって歩きだそうと,当事者双方が納得できれば,本当の意味で「紛争」が「解決」できたと言えると思います。

 

5 和解が一番

 

そのような解決のためには判決よりも和解が適切です。

 

和解とは,双方が互いに譲り合って,合意によって紛争を終わらせるものです。白黒をつけるものではありません。

 

実際にも多くの事件は和解によって終了しています。司法統計によると,判決が41%,和解が37%,取り下げが14%などとなっています。

 

互いが,紛争の実態と自らの落ち度も理解した上で,和解によって円満に解決することが理想です。

 

訴訟は判決のための主張や証拠の整理手続を中心として進められていきますが,これと併行して和解に向けたプロセスとして位置づける必要があります。

 

私は,民事や家事の紛争は,和解による解決が最良であると考えています。

 

もっとも,事故によって我が子を亡くした両親にとっては,加害者との和解は難しく,判決で責任の所在をハッキリしてもらうことで納得されるという場合もあります。

 

当事者の心情に寄り添い,納得という形の紛争解決を目指したいと思います。