自分の小さな「箱」から脱出する方法 (大和書房)

アービンジャー・インスティチュート著 金森重樹監修,冨永星訳

 

1 23万部突破のベストセラー

 

日本では平成18年に発売された本です。私の持っている本には「世界的ベストセラー 23万部突破」と書かれた帯が巻かれています。

 

キャリアアップを重ね,ザグラム社の上級幹部として入社したトムが副社長のバドによる1対1の研修を受けるという形式で物語は進んでいきます。

 

2 小さな箱

 

「小さな箱とは何のことか」と思われることでしょう。比喩的なものであり,抽象的な説明をしていても分かりませんから,具体例として書かれているものを紹介します(かなり脚色を加えます)。

 

 Aさんは特急電車の自由席車両に乗り込みました。席は半分以上が埋まっています。窓側と通路側の席が並んで空いているところはなさそうでした。車両の中程まで進むと,両方空いている席を見つけ,Aさんは窓際に座りました。

 

そして,通路側の席に鞄を置いて,新聞を広げて読み始めます。通路を通る人間を横目で見ながら,自分の隣に座ったりしないように,新聞を大きく広げて邪魔をするような格好になっています。

 

 高齢の夫婦がその車両に乗ってきましたが,並んで座れる席がありません。座っている人に声をかけて,席の移動をお願いしたりしていますが,中々うまくいかないようです。

 

そのとき,Bさんがその夫婦のところへ来て,「私の隣の席が空いていますから,来て下さい。私が移動します」と言って,席を譲りました。

 

3 同じ行動

 

このAさんとBさんは,①席に座っている,②自分の隣の席は空いている,③人を観察している,という点においてまったく同じ行動をしていました。

 

しかし,Aさんは人のことを「邪魔だ」とか「嫌なヤツ」と見ています。それに対してBさんは,人をそのまま見ています。自分と同じようにニーズや望みを持った人間として見ています。このとき,Aさんは箱の中にいて,Bさんは箱の外にいると説明します。

 

4 自分と自分以外の人

 

自分が中心であり、自分以外の人を邪魔なものと考えている場合,自分は箱の中にいます。

箱の中にいると,自分を正当化し,心の中で人を非難しています。

 

上司が部下のミスを注意するとき,多くの場合,「なんてことをしてくれたんだ。この前も同じミスをして注意したばかりじゃないか。おまえみたいなヤツがいるからチームの成績が振るわないんだ」と思っています。

 

そのまま口に出して言う人は多くありませんが,心の中でそのように思っています。これが箱の中にいる姿です。箱の中にいる場合は,どれだけ優しく言ったとしても,相手は反発,反抗することとなります。

 

箱から出ているとき,相手を一人の人間として尊重している場合,仮に厳しい言い方をしたとしても,相手は反発も反抗もしません。すっと受け入れてくれます。

 

5 自己欺瞞

 

本書では箱のことを自己欺瞞とも説明されています。しかし,何か少し違うようにも思います。箱を正確に言い表す言葉はおそらくないでしょう。そのためだと思いますが,本書には具体例がいくつも出てきます。

 

もう少し説明しないと理解して頂けないと思いますので,次回に続けます。