1 裁判に時間がかかる

 

「思い出の事件を裁く最高裁」という川柳は,司法制度改革推進本部顧問会議において,当時の小泉総理大臣が引用したものです。平成14年7月5日の議事概要にも書かれています。

 

ニュースなどで最高裁判所の判決を知った時,多くの人が「ああそう言えば,昔そういう事件があったなあ」と思うように,事件が起きてから最高裁の判決が出るまで長い時間がかかることを皮肉った川柳です。

 

当時から比べれば,裁判のスピードは速くなったと思いますが,世の中の動き,特に企業経営者の感覚からすると,とても速いとは言えません。

 

2 判決が出るまで21ヶ月

 

原告と被告の双方に弁護士がついて,証人尋問を行って判決があるという一般的な事件の場合,平均期間が21ヶ月となっています((第8回「裁判の迅速化に係る検証結果の公表」参照)。

 

変化の激しい現代において1年後や2年後に世の中がどうなっているか,とても予想ができません。即断即決を信条としている企業経営者が,1年も2年も気長に裁判に付き合っていることはできないのです。

 

したがって,企業が何かの紛争に巻き込まれたとしても,1年や2年かけて裁判をして解決しようということにはなりません。

 

3 どうして時間がかかるのか。

 

裁判に時間がかかるのはどうしてでしょうか。原告と被告が主張を出し合い,また,相手の主張に反論するなどして,裁判の争点を整理するのに平均14ヶ月かかっていますが,この期間が長すぎます。

 

原告の訴状に対して,被告が答弁書を提出し,答弁書に対して原告が準備書面で反論し,さらに被告が反論します。これを繰り返して争点を整理するのですが,弁護士が提出した書面に基づいて行われる弁論準備期日が1ヶ月から2ヶ月の間隔で開かれますので,1年の審理といっても8回程度の期日があるだけです。

 

期日と期日の間隔が,開きすぎているのですが,これを半分にすれば,ほとんどの裁判は1年程度で終わることになります。

 

4 弁護士時間

 

被告の主張に反論する準備書面を原告側弁護士が作ることになった場合,裁判官は原告側の弁護士に対し,「準備書面を作成するのにどれくらいかかりますか」と質問します。

 

これに対して,ほとんどの弁護士は「1ヶ月かかります」と答えます。この感覚が企業経営者には理解できないところなのです。弁護士や裁判官の時間の流れは月単位です。

 

普通,会社で上司が部下に,「今度の会議の資料をどれくらいで作れるか」と尋ねた場合,部下が「1ヶ月かかります」などと答えることはあり得ません。

 

一般的に「3時間です。」とか「5時間です」という時間単位で答えるでしょう。弁護士の場合,時間単位はありえず,「3日です」という日単位でもなく,月単位となっているのです。

 

では,実際に1ヶ月もかかって準備書面を作っているのでしょうか。そのことについては次回に書くこととします。