1 話題になった漫画

 

ネット上で「100日後に死ぬワニ」という漫画が話題になりました。4コマ漫画が1日に一話ずつ掲載されます。ワニといっても擬人化されたものであり,若い男性の日常生活が描かれているのです。ワニは100日目に死んでしまったのですが,この漫画を読んで感じたことを書きたいと思います。

 

2 自分が死ぬとは思っていない

 

ワニの日常生活は99日間続くのですが,自分がまもなく死ぬことをまったく自覚していません。仕事へ行き,友達と遊び,女性に好意を寄せます。

しかし,1日1日と終わりに近づいていきます。たわいもない日常の生活と残酷な現実が非常に対照的で,読者の心をかきむしります。

 

3 終わりは突然やってくる

 

100日目にワニが死んでしまうのですが,何の前触れもありませんでした。それはこのワニだけではなく,多くの人に共通することです。「今日が自分にとっての最後の1日だ」と自覚して終わりを迎える人はありません。何でもない日常が,突然,プツッと糸が切れたように終わってしまうのです。

 

4 悲しい相談


 交通事故や医療事故,労災事故などによって家族を亡くされた方から相談を受けることがあります。何の前触れもなく,大切な人との別れに直面し,深い悲しみと戸惑いの中に沈んでおられます。

いつもと同じように,「行ってきます」と言って,家を出かけていったのに,変わり果てた姿で帰ってきたのです。残された家族にとってもショックですが,なにより突然の終わりを迎えたご本人の気持を思うとやりきれません。

 

5 「ガンで余命宣告を受けた人は幸せだ」

 

これはある医師の言葉です。脳卒中や心臓疾患でなくなる人は,人生を終えるのに何の準備もできませんし,家族に別れの言葉や感謝の言葉を残すこともできません。

 

しかし,ガンで余命100日と言われたならば,自分の財産を整理したり,家族や友人知人に対して別れの挨拶をすることもできます。だから,ガンで余命宣告を受けたら喜ばなければならないというのです。

 

 ワニも100日後に自分が死ぬことを知っていたら,かなり違う生活をしていたでしょう。これまでと同じように仕事に行くだろうか,ゲームに没頭するだろうか,女性に告白するだろうかなど色々と想像してしまいます。

 

6 私のこと

 

私も○○日後には人生の終わりを迎えます。もしも,あと何日かを知っている人があって,私の日常生活を見ていたとしたら,何と言うでしょうか。「おまえ,そんなことしていてよいのか」と叱られるかもしれません。あと○○日は間違いないことです。今日という日は二度とありませんから,後悔を残さないようにしたいと思います。

 

 

(以下は余談)

 これまで依頼者が突然亡くなるということを何度も経験しました。記憶に残っているのは,遺言を作成したいと言われながら,遺言を作る前に亡くなった方です。

 

公正証書遺言を作成するために公証人役場に行く日も決まっていましたが,その方は突然亡くなられました。遺言が残せなかったので,遺志とは異なり,法定相続分による遺産分割となってしまいました。

 

それ以来,公正証書遺言を作成する案件では,依頼者に対しこの経験を話して,万が一のために、自筆証書遺言をその場で作成するようにしています。

 

また,交渉事件において,何回かのやりとりをして相手方本人との間で話がまとまった場合に,まとまった内容を書面にしようとすると,「わざわざ書面を作らなくても,約束は必ず守ります。私を疑っているのですか」と言って難色を示されることがあります。

 

そんなときに「あなたが約束を破るような人でないことはよく分かっています。しかし,世の中何が起きるか分かりません。万が一,事故であなたが亡くなるということも絶対にないとは言い切れません。そのような場合に,何も書面が残されていないと家族はどうしていいか困ることになります。弁護士は,万が一のことも考える人種なので,どうかご理解ください」と話をすると,ほとんどの場合,納得してもらえます。