一般的に高PERの銘柄は、

・誰でも知っている有名な企業

・高い成長率を期待されている企業

であることが多い(著しく利益が下がった企業を除いて)。

 

PERの意味は、その銘柄への投資額を何年で利益回収できるかというものだ。

(PERが20なら20年で利益回収ができる)

つまり、PERの逆数は利回りである。PER20なら年間5%の利益というイメージで良い。

 

せっかく個別株をやるので、年利20%という高い目標を設定するとしよう。

となると、PER5の銘柄が条件を満たすことができる。

世間一般に知られておらず、業績もパッとしないバリュー銘柄と言われるものだ。

 

更に話を広げて、

PER20や30の銘柄で、PER5に匹敵するのはどういった性質の銘柄だろうか?

 

成長率の高い銘柄である。

では、どの程度の成長率が必要だろうか?

 

以下の表を参考にしてみてほしい。

企業の時価総額を一律100と仮定する。その場合、利益はPER5銘柄で20、PER20で5

になる。横軸にはPERと成長率の条件、縦軸には経過年数を取っている。

成長率は10%から20%で条件を設定する。

 

 

 

累積利益比較

まず、表の中の青文字に注目してみよう。

これは、累積利益=時価総額となる年を表している。

つまり、投資した金額分のキャッシュを生み出すのに必要な期間という意味だ。

 

単純に、時価総額分のキャッシュを稼いだら株価は2倍相当と考えていいだろう。

 

この場合はPER5銘柄、無成長モデルが5年で最も短い。

成長モデルは投資回収まで6年から9年かかる。

 

 

PER5と累積利益が並ぶのに何年かかるか?

今度は、緑でハイライトされた部分を見てほしい。

緑の部分の利益を全て足すと、その年のPER5の累積利益に初めて並ぶことを表している。成長モデルはどれも10年以上保有して初めてPER5を超えるのである。

 

 

利益が倍になるまで何年かかるか?

オレンジの文字に注目しよう。

成長モデルの利益が初年度から倍になるのにかかる期間を表している。

 

成長率が15%以上を維持できれば、5年以内に株価が2倍になることがわかる。

つまり、利益率が20%以上ということだ。

 

累積利益の点で、成長モデルはPER5、無成長モデルの後塵を拝していたがここでは逆転することができる。

 

 

  結論

 

個別株で20%以上の利回りを求める場合を調査した。

高PER銘柄を選ぶならば、15%以上の成長率を維持できることが絶対の条件である。

また、累積利益の点では期待してはならない(10年以上の超長期投資では別だが)。

 

そして、市場平均以上の高PER銘柄を選ぶ場合には注意が必要だ。

このような銘柄は成長率を維持できないと市場に判断された場合、株価には大きな下落を伴う調整が入る。

バフェットのいう、「ほどほどの値段で素晴らしい企業を買う」はそういったことを表現しているのだと私は考えている。

 

 

 

これから個々の銘柄分析にチャレンジしよう、と思っている人には、
・一般的な人々の日常生活に近い範囲での投資
から入るのが一番だと考えている。

 

極端な例を挙げると、バイオ株や半導体株がその時点でホットだからという理由で買ったとする。その初心者は業界のリスク、ビジネスの仕組みをなんら理解していないだろう。仮に一時大きく利益を出したとしても、次に教訓が活かされる投資ではないので長期的に上手くいくはずがないのは明らかである。

 

株式投資においては質的、量的側面から銘柄を分析することで、如何にリスクを下げた投資ができるかが重要である。

分析能力の継続的な向上こそが投資家としての成長と言える。なので親しみやすい分野から裾野を広げていくというのは理にかなっている。

 

今回は、特に読み物としても面白く理解しやすい書籍を選んでいるので是非手に取ってみてほしい。

 

  ピーターリンチの株で勝つ

 

ピーターリンチは、たったの13年間で運用資産を1800万ドルから140億ドルにまで増やしたという伝説のファンドマネージャーである。これは彼の実践から得た投資哲学を紹介する書籍である。
一体どんな手法で儲けたのかと蓋を開けてみれば、妻がスーパーで買ったストッキングを絶賛していたことや自分が泊まったモーテルが良かったという理由で投資した話、また凡庸でいかにも人気のなさそうな名前の株が狙い目など、至極単純なものである。しかし、随所でなるほどと唸らせる彼の経験を交えた話は飽きずに楽しめるだろう。

 

 

 

  テンプルトン卿の流儀

 

ジョン・テンプルトンは生粋のバーゲンハンターである。株式に限らず日常生活品でもバーゲン価格を求めてきたという徹底した倹約家で、偉大な投資家の姿勢を垣間見ることができる。
またバリュー投資家として個別銘柄を判定するためのチェックリスト、世界がパニックになったときこそが最大のチャンスとして実際の経験を紹介しており、メンタルコントロールの面でも重要な教訓が多い。

 

 

 

特定の株式の情報を調べる場合、PERなどの指標や企業概要をまとめているWebサイトを見る人が多数派だろう。今回、そうした場所に表示されている情報が投資家にとって正確でないケースがあることを紹介し、財務諸表を読む必要性を強調したい。

 

ケーススタディ:1771 日本乾溜工業(株)の例

 

以下はYahoo!ファイナンスに記載されている参考指標である。
ざっと見ればごく標準的なバリュー株であるが、発行済み株式数に注目してほしい。

 

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そしてこちらは四半期報告書(第86期第3四半期(2023/04/01-2023/06/30))の第3章【提出会社の状況】である。上場していない優先株式が存在していることがここで判明する。
優先株式とは大抵の場合、普通株式に比べ配当や会社清算時の資産を優先的に受け取れる一方で議決権に制限があるという特徴を持つ。金融機関などが保有するもので一般には流通しない。

 

 

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この優先株式の説明として、投資家に解りづらいように長い注記がつけられているが要約すると、

  • 一株当たりの価値は普通株式の価値を基準として決まるため、時差はあれどほぼ等しくなる。

  • この優先株式は、10億円の債権と引き換えに発行したものである(つまり1株あたり500円)

この優先株式は元々は借入金であった。借入金のままならバランスシートに記載されるのだが、このように形を変えることでBSの負債の部から消失している。つまり優先株式を考慮していない現在の状況は、企業の実態を正確に反映していないと言える。
これを資産のオフバランス化といい、ROA等の指標を良く見せることができる経営テクニックである。

 

現在の日本乾溜工業の株価は730円(2023/8/12現在)である。


優先株式も普通株式と同様の扱いとすれば、実質的な1株当たりの価値は522円まで希薄化される。株を買った瞬間に200円の損をするということである。一株当たり利益EPSも希薄化されEPS120円だったところが、86円となってしまうのである。PERもまた、6と表示されているが8.5に上昇する。

 

 

このように経営陣が会計のルールを巧みに用いて投資家を惑わせる例は今でも存在する。投資先を検討する際は財務諸表を注意して読もう。

例えば以下のような特定の領域で人間を凌駕する投資判断を下すAIが普及した場合、市場にどのような影響が及ぶだろうか?

①人気投票型AISNSや板情報を分析し、人気が過熱している銘柄に投資する。株価に悪影響を与えうる情報が出た場合は瞬時に持ち株を売る。

既に似たようなシステムは存在しているだろうが、チャート分析を専門にしているような短期投資家にはますます勝ち目はなくなるはずだ。

②バリュー投資型AI財務諸表の数値情報を瞬時に分析し、市場評価に対して企業価値(株価)が低い会社を順位付けする。定量的な分析を得意とする若き日のバフェットやベンジャミングレアムが用いた戦略を真似たものだと思ってくれればよい。数値情報の分析はAIの得意とするところである。

明らかなのは、個々の投資家の技量の差が一気に縮まることだ。誰もが同じAIを使えるために、株式投資の自由度が狭まるだろう。では市場を上回りたい個人投資家はどうすれば良いのか。

バフェットがそうしたように、定性的な情報を投資判断に役立てるスタイルにシフトするのが一つの回答になる。AIでさえ判断が難しくなる領域を主戦場とし、現在の数値情報では見えてこない将来的なキャッシュフローの成長を見通すのである。

AIの出現により、株式市場も例外なく大きな影響を受けるだろう。2023年現在では、グレアムがバリュー投資の効果に気付いた1930年代のような掘り出し物の株が見つかりにくくなっている。全体的な投資家のレベルが上がったためだ。そしてAIの登場により、今後の市場は更に難しいものになりそうだ。しかし、それでも株式市場は突き詰めれば市場心理との闘いであるから、投資家の努力によって個人目標が達成できる余地は残っているはずである。

常に全ての投資家を上回る成績を残せる、完璧な投資判断を下せるAIが生まれることはあるか?

 

答えはNoである。なぜなら株式市場は将棋や囲碁と異なる不完全情報ゲームであり、市場心理との闘いでもあるからである。

市場にある情報は、数値だけでは測れない文字情報に溢れている。また、未だに株価と因果関係が未知な経済的状況にも左右される。そのため、市場参加者の評価する会社価値(株価)にはブレが存在する。

株式投資は人気投票的な側面を持つ。また、空売りや成長株に賭けるなど他者を出し抜くためにあえて不利に見える戦略を採用する者さえいる。

経験的に、株式市場のマジョリティが見ている方向とは逆の売買をする者が大きなリターンを得ると言われている。これは、ポーカーで言う攻撃的なプレイヤーばかりのテーブルでは消極的にプレイし、消極的なテーブルでは攻撃的にプレイせよというセオリーと一致する。

但し、理想的なAIが全く役立たずということにはならない。現在の株式市場は、参加者それぞれが限られた市場に関する情報を持ってゲームを行っているが、誰でも同じAIを使えることで、全ての株式の価値がより平等に評価されるようになると予想できる。つまり、安すぎる株や高すぎる株が見つかりにくくなるだろう。

次回は、具体的な投資戦略を採用したAIの出現で市場にどのような影響が出るか?考えていこう。