中東クウェートとの関りが増え、クウェートが国家戦略として掲げるビジョンを調べていく中で、一つ印象的だったくだりがあります。
「レンティア(石油など天然資源への依存)国家」から「持続可能な生産的国家」への移行は、これまでの「富の分配」から「富の創造」へと国家の基本的機能の変革が不可欠である、とありました。
まさに今、このことは日本でも議論されているところであり、何が持続可能な真の成長につながるのか、その前提を考える上で学ぶべきことのように思います。
先日、在日クウェート大使館で大使やKDIPA(クウェート直接投資促進局)スタッフから直接伺った話も踏まえ、日本企業がクウェートでの事業を検討する時、「クウェートビジョン2035」の理解は欠かせません。
レンティア国家から脱却、持続可能な経済成長を目指すビジョンと実現に向けた施策は日本企業にも多くのビジネス機会の提供と合わせ、今後企業としてのあり方を考える上でも参考になることが少なくありません。
「クウェートビジョン2035」が目指す戦略を簡単にですがまとめてみます。
1. 経済の多角化と民間部門の拡大
クウェートでは石油依存を減らし、非石油セクター(金融、テクノロジー、観光、ヘルスケアなど)の成長を目指しています。特に、民間部門のクウェート人雇用を2035年までに23万人に拡大するとしています。
2. インフラ整備と都市開発
新空港、港湾、鉄道、スマートシティなど大規模インフラプロジェクトが進行中で、これらは外国企業との協力を前提としています。これまでは中国が先行していますが、日本としても積極的に関わっていきたい分野です。
3. 外国投資の誘致
法人税10年免除や最大500万ドルの投資補助など、外国企業に対する各種優遇策が打ち出されています。今後は、NEZ(北部経済特区)の開発など、投資環境の整備も急ピッチで進むと思われます。
4. 人材育成と教育改革
クウェート人材のスキル向上を目指し、教育や職業訓練の強化が進められ、特に、STEM(科学、技術、工学、数学)、デジタルスキル、起業家精神といった分野での人材が求められます。
上記を踏まえ、例えば日本企業としては以下のような事業機会とチャンスがあるのではないでしょうか。
1. 技術移転とイノベーション
日本の強みでもある先端技術(ICT、AI、再生可能エネルギー、スマートシティ技術など)の研究開発と展開
2. ヘルスケアと医療分野
クウェートは医療サービスの拡充を目指しており、特定の疾病治療のための医療技術や製品もニーズはありそうです。
3. 食品輸出とハラール市場
先日の日本産牛肉の輸出解禁をはじめ、ハラール認証を取得した食品の需要は拡大しており、日本食材とハラールとの相性はよいと考えられます。
4. インフラプロジェクトへの参画
現地メディアでも改めて話題に上がりつつあるクウェートで進むシルクシティ構想など、公共・民間とのパートナーシップを通じてのインフラ整備や都市開発にも参入していきたいところです。
5. 教育・人材育成支援
日本の教育モデルや職業訓練プログラム、クウェートの人材育成においても産学官の連携も有効な手段になり得そうです。
上記はあくまでも一例ですが、日本企業にとっても中東地域、そしてクウェートが置かれている今のポジションからも日本の技術、製品、サービスを活用、中長期に中東地域でのパートナーシップを築くにはよいタイミングと考えます。
特に、クウェートの経済改革と日本の技術を含めたユニーク性により、企業だけでなく、双方の地域にとっても有益で持続可能な取組みと成長を実現できるのではないか、そして、その一つひとつの取組みと実績が、両国家の国益にも繋がっていくのだと思います。
そしてもう一つ、長きに渡ってのクウェートと日本両国の互恵関係と、それぞれが危機的状況にあった時、お互いが思いやりの心で積み上げてきた実績とそこから生まれた信用と信頼があるからこそ、少々の課題や困難も乗り越え、次世代に向けて双方でできることがあるのではないでしょうか。
