クラン・マ逢軍が結成されてから、早いものでひと月が経った。占い処こくり庵も表装を手がける四季山水も、ぽつぽつと客が訪れるようになってきた。ぼくは再生センターの仕事にも慣れ、ピスカはこくり庵だけでなく、ウラアキバでもマスコットの仕事を順調にこなしている。レオは念願の高校生になり、都立新令高校に通い始めた。そんな7月のある休日の朝のこと。クランの唯一のルールに従って、ぼくらは一緒に朝食の卓を囲んでいた。テーブルに並んでいるのは、トースト、エッグベネディクト、茄子の味噌汁、コーヒー。一見バラバラに見えるメニューだが、みんなはそれぞれに味の調和を楽しんでいる。特に、エヴリンはやけにご機嫌に見えた。1枚の紙切れをくるくると回しながら、歌らしきものを口ずさんでいる。骨助が、コーヒーをすすりながら尋ねた。「うむ。やっぱり茄子の味噌汁には、コーヒーが合いますな。ところで、エヴリン殿は、今朝はやけに気分上々のようにお見受けいたすが、何かありましたかな?」「ふっふーん。聞いちゃう?それ、聞いちゃう?」エヴリンの触手が、怪しくうねうねと蠢く。「ジャーン!見て見て!これ!」触手のうちの1本が、紙切れを高々と掲げた。「ついに、手に入れたのよー。このライブのチケット!最後の1枚だったんだから〜。」みんながポカンとする中、シグレだけが反応する。「ああ、なんか今、人気みたいだね。この歌手?アイドル?お客さんの中でも、好きだって方がいるよ。」「でしょでしょ!ニャル様は、既存の枠を超えた凄い方なのよ〜。あ〜、もうめっちゃライブ楽しみ!」「ライブって、何ですかの?」骨助がシグレに聞く。「ライブっていうのはね、うーん、そうだな。お祭りかな?」シグレの答えに、ピスカがぷにぷにの触手を振り始める。入都時にはなかったが、前回の一件を経て成長した部分だ。「お祭り!楽しそう!ぼくも行きたい!」エヴリンが嬉しそうに、提案する。「お?お?ピスカ君も興味あるかね?でもな〜、チケットは1枚しかないしな〜。あ、でも、ピスカならバッグに入るか〜。マスコットのふりをしてれば、ばれないよね。行く?」
ピスカがぷにぷに触手を振り回して、ぴょんぴょんと飛び跳ねる。「今夜は、天気予報も魔力予報も良好のようだ。楽しんでこいよ。さて、オレは皿を洗って、宿題しないとな〜。」レオが体の前で手のひらを組んで、大きく伸びをする。「それじゃ、あっしは1回り散歩に出かけますかな。」と、骨助。ぼくは再生センターが休みなので、よろづ屋の片隅で開いている珈琲コーナーの準備に取り掛かる。お好みの焙煎具合で、すぐに美味しい1杯が飲めるということで、密かに人気を集めているコーナーだ。四季山水はお休みだが、休日こそ占いは繁盛するため、シグレもこくり庵の開店準備を始める。看板娘のエヴリンは、当社比3倍の笑顔で接客に取り掛かった。カランカラン。吊り下げ式のドアベルが、客の訪れを告げる。有難いことに、ぼくの焙煎目当ての方だった。その後も、立て続けに4匹のマモノが、その場で珈琲を飲んだり、浅煎りの豆を求めたりしにやってきた。5匹目のマモノは、占い目的だった。「え?あ、占い?へぇ、珍しいね。てっきり珈琲目当てかと思ったよ。」シグレが一瞬どきりとする言い方をするが、別に拗ねているわけではない。ひと月過ごしてみてわかったが、シグレはこういう言い方を時折するのだ。特にお客さんには、冷たく突き放す話し方をわざわざしていた。どうも、これがシグレのスタイルとかいうやつらしくて、媚びずにズバズバ核心をつくので、かえって信頼できるとかなんとか。そうこうしているうちに昼が過ぎ、日が暮れると、エヴリンはいそいそとピスカをバッグに詰めて、「お先に〜。」と言って出かけて行った。と思ったら30分もしないで、バタバタと足音をさせて戻ってきた。「ちょっとちょっと!本所界隈から出られないんだけど!どういうこと?」「出られないとは、どういうことかな?昼に散歩した時は、浅草まで行けたんだがのぅ。」骨助ののんびりした口調に、エヴリンがイライラして答える。「だから、出られないのよ!5分ぐらい歩くと、また同じ場所に戻って来ちゃうの!」
「このあたりは、ほら碁盤の目だからのぅ。似たようなところを通って、ぐるぐる回ってる気になったんじゃないかの?」「そんなんじゃないわよ!骨助、あんたが江戸時代にこのあたりに住んでたのは知ってるけど、最近の本所ならあたしの方が長いんですから、バカにしないでよね。」2匹がぎゃあぎゃあやっていると、朝と同じようにレオがスマホから仕入れたであろうニュースを口にした。「ああ、どうやらエヴリンの言ってることは本当らしいぜ。本所界隈から出られない、もしくは本所界隈に入れないってつぶやきが、ネットにたくさんあがってやがる。電車でも、船でも無理なようだな。おっと!なになに?現在、東京都に広く魔力乱気流が発生中だとよ。」それを聞いて、シグレが顎に手をやる。「ん?それって、ちょっとおかしくない?このあたりは、穏やかだよね。よし!ちょっと占ってみようか。」シグレはしまいかけていた占い道具一式を、再び広げ始めた。「うーん、どうも魔力乱気流は、本所を中心にして渦巻いてるようだね。本所がちょうど台風の目みたいになっていて、だから穏やかなんだよ。いや、これは、どうも怪しいね。たぶん、マモノの仕業だよ。しかも、この辺に犯モノが潜んでいる可能性が高いかもね。」「許せねぇ!」エヴリンの触手という触手が、すべて立ち昇った。まるで、ぼくのメラメラのように揺らめいている。「あたしとニャル様の恋路を邪魔する奴め!見つけ出し、とっ捕まえてやる!」エヴリンは叫ぶと同時に、店から駆け出していった。ぼくらは、慌てて後を追った。レオはいつの間にか獣化していて、先頭を走っている。「こっちだ!こっちから強い魔力のにおいがする!ついて来い!」しばらく走ると、裏路地でレオが止まる。「おかしいな。ここらで1度、気配が途切れてるぞ。もしかして、気配を消してやがるのか。」「ぼくに任せて。」ここは、ぼくが成長したところを見せる場面だと思った。前回の件を経て、ぼくは燻るという新たな身体的な特性を身につけていた。それまではただ燃やすことしかできなかったぼくだが、微妙な火加減を覚えたことで、煙を発生させることができるようになっていた。
もくもくと煙が立ち込めて、裏路地に充満していく。これで隠れているモノもたまらなくなって出てくるだろうと思ったが、一向にその感触はなかった。あ、まずい。エヴリンが、今にも痺れを切らしそうだ。そんなエヴリンのバッグから、ぴょこんと飛び出たモノがいた。ピスカだった。あ、忘れてた。ピスカは、ぷにぷにの触手を体の前に突き出し、右に左に大きく広げた。そして、そのままふらふらと歩き始める。ピクッ!ピクッ!と触手の先端が、小刻みに震える。「こっちみたいだよ。」ついていくと、通りの先に屋台が見えてきた。ただ、屋台にしては、おかしな点が2つある。1つは、お店の者らしきモノがいないこと。もう1つは、明かりがついていないことである。ろうそくがあったので、ぼくは何の気なしに火をつけてみた。ポッと、明るくなった。と思ったら、すぐに消えた。ぼくは何度か繰り返したが、結果は同じだった。そうこうしているところに、パタパタと足音を立てて近づいてくるモノがいた。「あ、すんまへーん。お客様ですかー?待たせちゃいましたねー。」タヌキのマモノだった。「はいはい、今ご用意しますからねー。」「親父。ここは、蕎麦屋なのかい?」シグレの問いに、タヌキが何かを茹でながら返事をする。「へい、さようで。あてるんやって言います。ほら、看板にマトが描いてあって、今にも矢が当たりそうでしょ、へへっ。」タヌキが茹でているものから、何やら不思議なにおいが漂ってくる。だが、暗くて何が茹でられているのかは、よくわからなかった。ぼくはなぜか頭がぼーっとしてきて、その不思議なにおいが美味しそうなにおいに思えてきた。ズッキューン!!突如、銃声が鳴り響き、ぼくは我にかえった。銃声は、レオが魔銃を撃ったものだった。空に向かって撃ったので、威嚇射撃だ。「おい!親父!オレ達を騙そうたって、そうはいかねぇぞ。」「だ、だ、騙すなんて。そ、そんな、マモノ聞きの悪い。」「じゃあ、今茹でてるものは、なんだ!明らかに、蕎麦のにおいじゃないよな!」「え、え、いや、そ、蕎麦ですよ。そこらの草を、臼で挽いて粉にしたものですけど。蕎麦なんて、そんなもんでしょ?」
「蕎麦なめんな!」今度は、骨助が銃声に負けずとも劣らない怒鳴り声を出した。「お前さん、アレだな?江戸の頃、本所界隈でよく流行った、アレだ。」レオが、骨助のアレを引き取る。「そうそう。オレ、こないだ歴史の授業で習ったんだよ。本所七不思議の1つだろ?」「おー、そうじゃそうじゃ。レオは、よく勉強してるのぅ。本所七不思議の1つ、あかりなしそばじゃ。」タヌキが、バツの悪そうな顔をして頭を掻いている。シグレが呆れたように声を発する。「なーんだ。じゃあ、マモノ違いかー。一応、聞いとくけどさ。親父、今、東京で起きてる魔力乱気流は、君のせいじゃないのかい?」「へ?魔力乱気流?いやいやいやいや。あっしにそんな力はございやせんやー。あっしは、ふるーい怪談を、今でも地でいっているマモノですわー。いやいやいやいや、バレちゃあしょーがありませんね。あっしは、ここらで退散しますわ。」言うや否や、タヌキは屋台ごとドロンと音を立てて、どこかへ消えてしまった。というわけで、仕切り直しだよ。あらためて、ぼくらは犯モノ探しを再開した。エヴリンが特性を使って、念写をする。犯モノに繋がる手がかりかと思ったら、なんとニャル様の現在の姿だった。「あ〜、生ニャル様が上手に念写できたわ!あ、まずい。楽器のチューニングを始めてるみたい。早く行かなきゃ。」レオが舌打ちをして、スマホをいじり出した。「ちっ。しゃあねぇ。高校の仲間に聞いてみるか。でも、十中八九、アイツに繋がっちまうんだよな〜。」レオは前回の件で身につけたコミュ力を発揮して、スマホで今の状況を聞いてみているらしい。プルルルルル。プルルルルル。突然、レオのスマホの着信音が鳴り始める。「あ〜、やっぱりか〜。ま、そうなるわな〜。」とぼやきながら、レオはスピーカーにして通信を開始した。スマホから、底抜けに明るい声が聞こえてきた。「やあやあやあ、新入生のレオ・クルーガー君じゃないか。ぼくは、ご存知の通り新令高校生徒会長の久灯アイラだよ。何か困っているみたいじゃないか。」
「うっス!」レオが不機嫌そうに短く答えたが、アイラは構わずに続けた。「みんなから、今、君が置かれている状況を聞いたよ。そこに、東京都全体を覆っている魔力乱気流のことを重ね合わせると、1つの結論に達することができるね。」「はぁ。」「その結論というのはさぁ、おそらく犯モノは、その本所にいる誰かをそこに閉じ込めるために、今回の件を起こしていると考えられるね。」「はぁ。目的は何ですかね?」「うーん、そこまでは、まだわからないよ。でも、これで終わりってことはないだろうね。きっと、閉じ込めるために次の手を打ってくるだろうね。」「はぁ。わかりました。」「ごめんねー。今夜は、生徒会でイベントがあるからさ。手伝えるのは、ここまでだよ。何かの役に立ったかな。また困ったことがあったら、いつでも頼ってくれていいからねー。」「いや、遠慮するっス。どうも、ありがとうございました。」レオがやや強引に通話を切ると、ピスカがなぜか喜んでいる。「今のマモノ、ぼくに声が似てたね。忙しいのに、わざわざ情報を伝えるために電話してくれるなんて、いいマモノだね。」レオが鼻を掻きながら、応じる。「あ?ああ、まあ、いいマモノには違いないんだろうけどな。なんかアイツに借りを作っちゃいけない気がするんだよなー。ところで、アイツが言ってた次の手ってのが気になるよな。どうだ?何か周りに変化あるか?」ぼくらは、キョロキョロと周囲を見渡した。そして、あることに気づいた。み、道が歪んでる?骨助やエヴリンがさっき喧嘩していたように、本所界隈は碁盤の目になっているから、道はどこまでも真っ直ぐになっていて遠くまで見渡せるはずなんだ。実際に、さっきまではそうだった。それが今は、道がグネグネしていて、20メートル先すら見渡せない。骨助が鼻で笑った。「ほほう。本所を迷宮化しようというわけですな。ちょこざいな。こちとら江戸っ子でい。まあ、見てな。」骨助は、巻き紙を道端に放り投げて広げた。それから、筆に墨をつけて、さらさら、さらさらと何かを描き始める。
「よし!できたぞ!魔力を込めた本所界隈の墨絵地図だ。こういう地形変化は、実際に地形を変化させてるわけではなく、見る者の心を歪ませているだけのことが多いから、みんなこいつをよく見るんだ。」ぼくは言われた通りに、地図をよく見た。その上であらためて周りを見回してみる。すると、不思議なことに、さっきまでグネグネだった道が、しっかりと一本道に戻っていた。ぼくは、そこでピンと来た。この真っ直ぐな道を利用すれば、犯モノを追い込めるんじゃないかな。ぼくはもう一度墨絵地図を見て、ある1点を指差す。もちろん、炎の指を近づけ過ぎないように注意を払った。「みんな、この公園に追い込もうと思うんだけど、どうかな?」みんなが頷き返してくれたので、ぼくは早速、道という道に豪火を放った。道が真っ直ぐな本所だからできることだ。建物に火を当てないようにだけ気をつけて、縦横無尽に炎柱を延ばし続ける。あはははは。あはははは。煙を起こすより、楽しいなぁ。骨助が仰天する。「こいつは、とんだボンバー野郎がいたもんだぜ。」その時、燃え盛る火の海から、逃げていく影があった。ぼくらはその影を追いかけた。影は、錦糸公園に逃げ込んだ。そこで、ぼくらは影を見失った。錦糸公園は、運動場やらコート、総合体育館、広場などが設置されている大きな公園だ。ピスカがまた、ぷにぷに触手による探知を始める。広場の中央にある大きな噴水まで来ると、どこからともなく声が聞こえてくる。「・・・け。・・てけ。」「てけって、何のこと?」ピスカが首らしい部分を傾げる。「・いてけ。おいてけ。ニャル様のチケットを、置いてけー!」噴水の近くの木の裏から、わしゃわしゃと植物の生えたマモノが飛び出してきた。明らかに、ぼくらに敵意を向けている。エヴリンが戸惑う。「え?え?もしかして、あたし、ピンポイントで狙われてた系?」戦闘開始を察知して、お店の方からマオウフィギュアが飛んでやってきた。ぼくはぐんと力強さを感じて、さっきの炎柱よりもさらにパワーアップした最大火力を、わしゃわしゃマモノにぶつけた。
効果的面!やっぱり植物系のマモノには、火が効くよね。あちゃちゃちゃ。あちゃちゃちゃと、植物マモノが飛び跳ねる。そこへ、もう1つの炎が襲い掛かった。今度のは、ぼくじゃない。ピスカの得意とする初級魔法だ。植物マモノが、完全に火だるまになる。「おのれ〜、こうなったら、お前も道連れにしてやる〜。」やけくそになった植物マモノが、エヴリンに組み付いた。炎がエヴリンに燃え移る。「ぐぎゃあああああっ!」エヴリンが悲鳴をあげて倒れる。「こいつは、まずいね。こっちの攻撃が利用されちゃうなんてね。」シグレが、前回の件から常に持ち歩くようになった刀に手をかける。「シグレさん、あそこを切るといいですな。」2秒先の未来が見えるという骨助の助言に従い、シグレが燃えているところを根こそぎ切り落とした。「ピスカ!あの技を試してみようぜ!」レオの号令で、ピスカがぴょーんと大きく宙を跳んだ。空中で、ピスカの体が丸く変形したかと思うと、そのままレオの魔銃ハルベルトの弾倉に収まった。ズガン!!レオがピスカをぶっ放す!植物マモノにまともに当たり、植物マモノはもうふらふらだ。「ほれ。これで、どうじゃな?」骨助が先程のエヴリンの念写をもとに、アイドルの墨絵をさっと描きあげた。ひらひらと飛ぶ墨絵を、ふらふらのまま植物マモノが追いかける。そこへ、ぼくらは容赦なくクランの大技、スクランブルを叩き込んだ。植物マモノがドサリと倒れると、本所の外側を分厚く覆っていた雷雲のようなものが一斉に引いた。さっき燃え尽きたはずのエヴリンが、根性だけで立ち上がる。「はあはあ。ニャル様。はあはあ。待ってて。今、行くわ。」エヴリンはポケットに手を突っ込んで、チケットを取り出した。しかし、それはもはやチケットとは呼べなかった。すっかり黒焦げの灰になっている。それとともに、エヴリンの意識が灰になった。ぼくは責任を感じて、恐る恐る近づいた。「ねぇ、エヴリン。」そこからぼくが言おうしたことを、エヴリンに代わりに言われてしまった。「そうよ。フィフィ。あなたがいるじゃない!お願い!あなたの再生の力で、このチケットを元通りにして。」
エヴリンが道の上に置いた元チケットだった物を、ぼくは焼き尽くした。元チケットだった物は完全に灰になり、みるみるうちに再生した。「やりぃ!ありがとう、フィフィ。行くよ!ピスカ。」再生されたチケットを手に取ると、エヴリンはピスカをバッグに詰めて、駆け出していった。「あ、ちょ、ちょっと。」ぼくは再生時に何か違和感を覚えたので、それを伝えようとしたが、そんな暇はなかった。まっ、いっか。お店に戻った後、ぼくとレオは疲れたので、寝ることにした。骨助は、ニャル様の墨絵を描いたら売れるかもしれないと言って、試し描きを始めた。シグレは、白葉さんに電話をしてみるという。本所七不思議の一角を担う古い妖怪「おいてけぼり」が、東京都を巻き込む魔力乱気流を生み出せる訳がないのではないか。こんな疑問を相談してみると言っていた。翌朝、食卓を囲んだぼく達は、エヴリンが昨日とは打って変わってどんよりしていることに気がついた。ぼくらが、何を聞いても答えてくれない。ぼくらは、代わりにピスカに尋ねた。「え?ライブ?うん。楽しかったよ。すごい盛り上がってた。でも、エヴリンが念写したマモノは出て来なかったよ。ぼくと声が似ている女性のマモノが出てきた。」「え?ちょっと待て。それって、うちの会長じゃねーか?ピスカ、他になんか言ってなかったか?」レオが慌てる。「あ、うん。なんか生徒会をよろしくー。とか叫んでたよ。」「あ、それ。間違いないわ。会長だわ。マジかよ。イベントって、それか。アイツ、ニャル様の人気に嫉妬してるみたいなこと噂で聞いたことあるからな〜。ニャル様ライブに当てつけて、生徒会ライブ開いたんだな〜。」ぼくはチケットの再生に失敗したことに気づき、下を俯いた。レオが、ぼくとエヴリンを慰めるように言った。「今度さ、オレがコミュ力で、ニャル様のチケットを手に入れてやるから元気出せよ。じゃあ、オレ学校行くわ。」「あ、ぼくも今日はウラアキバで働く日だから。」と、ピスカ。ぼくも、再生センターに出勤する準備をした。ぼくらが玄関を出る時、シグレが気になることを口にした。「そうそう。昨晩、白葉さんが言ってたんだけどさ。町の人の願望をくすぐって、大規模なテロを起こそうとしている連中がいるみたいなんだ。昨日の件も、それじゃないかってさ。みんな、気をつけてね。」シグレはぼくらを送り出しながら、まだ立ち直っていないエヴリンの代わりに、エヴリンの等身大パネルを店の前に準備した。(完)