ワタシの名前は、ピエールデース。フランスのピエール社で作られたレーザープリンターだから、ピエールと呼ばれてイマース。小川家には、パパさんに買われてやってキマシター。はじめの頃、ママさんは、「なんで、こんな高い物を買ってきたのよ。必要ないじゃない!」と怒っていましたが、今ではパパさんよりママさんの方が、ワタシを使ってくれてイマスネー。PTAの書類やら趣味の印刷なんかデース。小川家の家電の中では、ワタシは新参者デース。デスから、古参の皆さんの話はよく聞いてオリマース。ケッシテ、新しい方が性能がいいなんて、ハナにかけたりはシマセーン。ワタシ達は、主である小川家に仕える仲間達デスからネー。今日は、日曜日デース。ケレドモ、朝からパパさんはカイシャに行きマシター。休日出勤と言うヤツデース。ママさんも用事があって、出かけて行きマシター。ダカラ、今日は子ども達2人だけで、お留守番デース。ママさんは、「いい子にしてるのよ。」と言い残して、出て行きマシター。ツマリ、ワタシ達、家電に課せられた使命は、3つありマース。1つは、子ども達に危険が及ばないようにするコト。1つは、子ども達が叱られないようにするコト。1つは、自分達が壊されないようにするコトデース。簡単なようですが、これがなかなか難しいコトなのデース。ガンバリマース!今は子ども達は、2人とも2階の子ども部屋にイマース。子ども部屋は、ワタシが置かれている書斎のお隣デース。ワタシは、こっそりと様子を見ることにシマシタ。コンセントを抜いて、ドアを出て、こっそりとノゾキマース。秋奈ちゃんは、犬のエンリケさんと遊んでイマース。お兄ちゃんの冬馬君は、図鑑を読んでいるようデース。ワタシはほっとして、寝室にいる2代目に様子を伝えに行きマシター。2代目は、ルンバデース。名前の由来は、確か小川家にとって、2代目のルンバだったからだと思いマース。様子を伝えたところ、2代目はこう提案してくれました。「そうか。それなら、ひとまずは安心だね。でも、今後どうなるかはわからないね。下にいる先輩達に相談してみよう。」
1階のリビングでは、すでにテレビのパナシャニーさんとスチームアイロンのアイロンメイデンさん、そして炊飯器のとらちゃんが話し合ってイマシター。皆さんの話題は、もちろん。どうやって子ども達を飽きさせないかということデース。ママさんの影響でパナシャニーさんは、子ども達がゲーム漬けになることは望んでイマセン。デモ、このままだと子ども達は遅かれ早かれ飽きてしまいマース。飽きてくると怖いのは、冬馬君デース。冬馬君は小学校4年生にして早くも、機械いじりの知識と技術を身につけてイマース。以前、とらちゃんは魔改造されマシター。それ以来、とらちゃんはチョット性格が変わりマシター。とらちゃん自身は、「魔改造はいいぞ!」と周りに勧めていますが、ワタシ達はかなり警戒してイマース。2代目が「朝のこの時間は、いい番組がないんだよね。」と失言をして、パナシャニーさんに謝ってイマース。結局、やっぱりゲームが最適だろうということになりマシター。パナシャニーさんが、ワタシ達にこっそり明かしマース。「実は、私はパパさんにだけ正体を知られているんだ。ああ、大丈夫、みんなのことは言ってないから。それで、パパさんから、今日はよろしく頼むと託されているんだ。だから、1人1時間と考えて2時間までOKにしましょう。」パナシャニーさんと2代目とワタシは、嫌がるゲーム機さんを説得しまシター。ゲーム機さんは冬馬君がコントローラーを乱暴に扱うので、かなり渋っていましたが、最終的には折れてくれマシター。シカシ、思い通りにならないのが世の常でありマース。ドタドタドタと音が聞こえたかと思うと、子ども達がすごい勢いで階段を駆け降りてキマシター。ワタシは、テレビ台の下に、サッと隠れマシター。アイロンメイデンさんは、カーテンの裏に隠れマース。パナシャニーさんと、とらちゃんは、定位置デスから、隠れる必要はありませんネー。2台目もルンバですから、どこにいても不自然ではありませんネー。
駆け降りてきた子ども達は、キッチンに用意されているお昼ごはん用の野菜炒めを見て、えーとか、いやだーとか、言ってイマース。「よし!お兄ちゃんが、作ってやる!」ざわざわ。ざわざわざわ。家電達が囁き声で、ざわめき始めマース。子ども達が、料理だって?そんなの見たことないぞ。これは、もう何かが起きる予感しかしまセーン。「まずは、と。フライパンを温めて。」冬馬君が、フライパンを火にかけマース。そのまま冷蔵庫を開けて、卵を探し始めマース。あ、あ、あ、あ。家電の目が、フライパンと火に集中しマース。冬馬君は卵を取り出して、ボウルに割り落とし始めマシター。モチロン、火は点いたママデース。ガシャンガシャン。とらちゃんが、変形を始めマシター。あれは、冬馬君に魔改造されたロボット変形機能デース。ロボットとらちゃんは、こっそり火を止めマース。デモ、魔改造バージョンの体は、回路にめちゃめちゃ負担がかかりマース。案の定、とらちゃんから煙が上がりマース。とらちゃんは、いきなり暴走を始めマシター。かと思うと、ドカン!とらちゃんは大爆発して、天井に吹っ飛びマシター。危機感を覚えた家電達は、同時に動き始めマース。パナシャニーさんは、無茶をしたようデース。パナシャニーさんも、暴走しマース。そして、バッタリと倒れて動かなくなりマシター。アイロンメイデンさんは、くるくると回り始めマース。もう大惨事デース。2代目が子ども達の気を逸らそうと、足元を動き回りマスが、遅かったデース。天井のとらちゃんにこそ気付いていませんが、子ども達は家電達の暴走を目を丸くして見てイマース。ワタシは慌てて、メモリーに入っていた妖怪アニメのキャラクターを印刷しマース。それをエンリケさんが、機転を利かせて、子ども達のところに持っていってくれマシター。これで今回のことは、全て妖怪の仕業になったはずデース。とにかく、料理を止めることには成功しまシター。それ以上に、大変なことになったカモしれませんガー。
料理を諦めた子ども達は、また2階に上がってゆきマース。ワタシと2代目は、静かに後をついていきマース。パナシャニーさんと、とらちゃんは、1階に残って、補修材料を探しマース。アイロンメイデンさんは、2機を手伝いマース。寝室に入った2人は、なんとケンカを始めマシター。発端は、秋奈ちゃんの1言デース。「この家、妖怪がいるんだねー。」これに、冬馬君が噛みつきマシター。「妖怪なんか、いるわけねーだろ!」ここから、いるもん、いない、いるもん、いないのケンカへとエスカレートしマース。コレは、ワタシ、責任を感じマース。その場しのぎとは言え、不用意に妖怪を印刷してしまいマシター。ワタシ、全身全霊を懸けて、責任を取りマース。メモリーにある妖怪アニメの種類は、まだまだアリマース。ワタシの性能をフル回転して、100枚連続印刷デース。シカモ、紙が宙を舞うように、勢いをつけて印刷しマース。寝室内を、妖怪達が乱舞しマース。喜ぶ秋奈ちゃん。信じられないという顔の冬馬君。ケンカはうやむやになったようで、良かったデース。ソシテ、全身全霊を賭したので、ワタシも熱暴走シマシター。全身が光り輝きマース。電力も0になったので、逃げる余力もアリマセーン。光り輝くワタシを見て、秋奈ちゃんはハシャギマース。「わーい、妖怪ボックスだー。」秋奈ちゃんは「もっと妖怪を探そうよー。」と、冬馬君を誘って、またまた1階に行きマース。その隙に、2代目がワタシを乗せて、書斎へと運んでくれマース。ワタシは、充電しマース。2代目もホームが書斎にあるので、そこで充電しマース。ワタシ達、家電は離れていても、テレパシーのようなもので以心伝心ができマース。1階では、ガムテープで補修を終えたパナシャニーさんと、とらちゃんがイマース。アッと!アイロンメイデンさんが、リビングに撒き散らされている危険物に気づきマース。アレは、ママさんが趣味で使っているサイコロデース。4つしか面がないから、トンガってマース。このサイコロが、なんと10個以上転がってイマース。これを子ども達が踏んだら、ケガをしマースネ。
アイロンメイデンさんが、ガンバリマース!子ども達が危険物に近づく前に、トンガった部分を溶かしてゆきマース。タダ、数が多いので、無茶シマシター。異音を上げ始めマース。異音はすさまじく、近くにいたパナシャニーさんと、とらちゃんにヒビが入りマシター。補修したばかりナノにデース。冬馬君がその異音を聞いて、工具を取りに行きマシター。アノ顔は、マズイデース。改造する気マンマンデース。ワタシと2代目は、充電もそこそこに1階に駆けつけマース。「さあ、歌の時間だよー。」どこからともなく、大人の男の人の声が聞こえてキマシター。この家には、今、秋奈ちゃんと冬馬君しかいないはずデース。驚いて見回すと、パナシャニーさんが録画データを再生してイマース。シカモ、かなりの大音量デ。その後に流れ始めたのが、アレデース。ナイスチョイスですネー。妖怪アニメのめちゃめちゃ踊る曲デース。とらちゃんは、踊り始めマース。2代目は、ルンバ調にあっちへ行ったりこっちへ行ったりして踊ってイマース。ワタシは、パラパラ漫画風に踊っている妖怪を印刷しマース。秋奈ちゃんが踊りマース。冬馬君も工具をほっぽり出して、踊りマース。「よ〜かいの〜せいなのね!」はちゃめちゃデスが、楽しいデスネー。10回ぐらい繰り返しで踊ると、2人はさすがに疲れたようで肩で息をしてイマース。そこで2代目が、エンリケさんに語りかけマース。「エンリケ。散歩に行ってきてくれないか?このままじゃママさんが帰ってきた時に、2人が怒られてしまうよ。」「しかし、おるすばんを頼まれている2人を連れ出して良いものだろうか。」「ママさんは、エンリケの散歩なら、構わないと言ってたよ。」それでも渋るエンリケさんに、アイロンメイデンさんも説得に加わりマース。「さっき、カーテン裏に隠れた時、小川家の守護霊が言っていたんだ。今日、招かれざる者が来るって。もしかしたら、危険な奴かもしれない。2人は、外に出ていた方がいいだろう。」さすが古参のアイロンメイデンさん、守護霊と話せるナンテ!と言うよりも、本当に妖怪がいたんデスネー。
「よし!そういうことなら、わかった。では、2代目よ。君は、掃除を頼むぞ。」そう言うなり、エンリケさんは兄妹達に上手にお散歩をおねだりしマシター。2人とエンリケさんが出かけて、2代目が掃除を始めたのも束の間、その者は本当にやってキマシター。掃き出し窓の鍵を軽く解錠して、慎重に侵入してキマース。大柄で、髭面のいかにも悪人らしい目つきをした男デース。「ふむ、留守か?やけに散らかった家だな。まあ、いい。金目の物を探そうか。」男はそう独り言を言うと、家の中を物色し始めマース。ワタシ達は、しばらく成り行きを見守ってイマシター。パパさんとママさんはしっかりしているので、そこら辺に高価な物は置かないのデース。ソノウチ、男がガッカリして出て行くものだと思ってイマシター。デモ、男はこんなことを言いマス。「なんだ、なんもねーな。しょーがない。じゃあ、家のもんが帰ってくるのを待つか。帰ってきたら、金目の物を出してもらえばいいだろう。」ワタシ達に、戦慄が走りマシター。この男は、ここで待つつもりデース。もし、子ども達が帰ってきたら、とても怖い目に遭いマース。そんなことはサセマセーン!させてはイケナイノデス!ワタシ達は、決意シマシター。この男を捕まえるか、追い出すト!ウゥー!ウゥー!突然、パトカーのサイレンが聞こえマース。続いて、「おい、そこのお前、逃げられないぞ。」という声がしマース。パナシャニーさんの録画データ、第2弾デース。パナシャニーさんも、なかなかの古株なので、色々なデータが蓄積されていルンですネー。男がビクッとして、立ち上がりマース。「なんだ?テレビか?脅かしやがって。」と男が悪態をつくのと、パナシャニーさんが本日2回目の熱暴走をしたのは、同じタイミングデシター。パナシャニーさんは、テレビ台座の上でクルクルと回転しマース。こ、これは、まるで回転灯のようですネー。2代目が張り切って、男の足元を動き回り、転ばせマース。モチロン、熱暴走しマース。加熱に加熱を重ねて、もうすぐ火を吹きそうデース。
2代目は加熱したまま、パナシャニーさんにぶつかりマース。パナシャニーさんは、2代目の熱をモロに食らって、3回目の熱暴走デース。今度は、ナント縦に回転し始めマシター。ワタシも、ヤリマスヨー!ワタシは、男の顔にスキャン画面を押しつけマース。ヤリマシター。男の顔を、何枚も印刷してやりましたネー。次は、アイロンメイデンさんの番デース!最古参アイロンメイデンさんは、やはり小川家への愛が違いマース。かなり怒ってマース。直接攻撃に出ましター。アイロン部分を肌に押しつける気デース。デモ、心配していたトオリのことが起きマシター。ワタシ達、家電は相手がたとえ悪人でも、直接痛めつけようとすると、心のどこかでセーブがかかるのデース。アイロンメイデンさんも一瞬動きが鈍って、空振りに終わりマシター。サラニ、またまた異音を発しマース。ワタシはさっきのスキャンの時に閃いたことを、とらちゃんに叫びマース。「とらちゃん、アナタを頭にして合体シマショー。」とらちゃんは、ほい来たとばかりに、頭になりマース。パナシャニーさんが胴体。ワタシが腰。2代目が足。アイロンメイデンさんが腕。五体合体デース。合体家電ロボットは、さっき補修に使ったガムテープで男をぐるぐる巻きにしマース。パナシャニーさんは、また異なる録画データを流し始めました。麻雀漫画のワンシーンデース。ざわ、ざわ、ざわ。ワタシは普段は滅多に使われないFAX機能を、2代目に言われて思い出しマース。さっきスキャンした男の顔のデータと小川家の住所を、最寄りの警察署に送りマシター。その後、家に警察官が来て、男は無事に捕まりマシター。荒れ果てた家の様子も、全部男のセイになったのでメデタシメデタシデース。パナシャニーさんは、深夜こっそり、パパさんに感謝されたそうデース。とらちゃんは最後の合体が気持ち良かったらしく、魔改造をさらに周りに勧めるようになりマシター。2代目は散歩に連れ出してくれた感謝の気持ちを込めて、自分の上にエンリケさんを乗せて掃除していマース。ワタシは今回の体験を、ママさんが趣味で作っているTRPGシナリオシートのデータに上書き印刷シマシター。アイロンメイデンさんは、ひっそりと押し入れにしまわれてイマース。シブいですネー。(完)