僕のこれまでの人生はそれなりに充実していた。
学生時代はやりたかったことをやり抜き、進みたい道に進み、希望通りの就職先で今も働いている。
給料は平均から少し上くらいの水準でもらってもいるし、決して裕福とは言えないが生活に苦労しているわけではない。
妻とは大学時代から交際を始め、若くして結婚し、すぐに子どもも授かり、僕にそっくりな元気な息子と、今日も一緒に楽しく遊んでいた。
特に不満はなかった。
一年前までは。
一年前の4月から、あるきっかけから僕と妻の関係は音を立てて崩れていった。
途中で止められたかもしれない。
回復できるタイミングはいくつもあったと思う。
でもできなかった。
今では完全に崩壊しきっており、手を繋いでデートに行ったあの頃を思い出すのが難しいほどだ。
会話もなく、夫婦としての営みもない。冷えきった、という表現が正しいのかどうか。
そして今日、ふと目が行った。
妻の薬指には僕のものとつがいになった結婚指輪が存在していなかった。
これが何を意味するのだろうか。僕はわからなかっ。見たときは少なからず動揺した。
「何故?」
しかし、その場でそれを追求することはできなかった。
単になにもしていないだけならまだわかる。
「はずしてつけ忘れたのかな?」とか思える余地はある。
しかし、妻のその指には見たことのない指輪がはめられていた。
僕と交換した結婚指輪ではなく、付き合ってるときに揃えたペアリングでもない。
ましてやプロポーズの時にあげた婚約指輪出もない。
左手の薬指で光輝くその指輪は、見れば見るほど嫌味のように輝きを放っていた。