魔法少女まどか☆マギカ
最終編 ひとつの物語

深夜2時。
月明かりと街灯しか明かりのない中、黒髪の少女が独り踊っている。

足元にはペンでくしゃくしゃと描いたような綿のイキモノが広がり、花の間を埋めて、少女と共に踊っている。


まだだめよ、
まだだめよ…


1
キーンコーンカーンコーン。
キーンコーンカーンコーン。

授業終了のチャイムが鳴り、生徒達は一斉に立ち上がり、途端にざわめいていく。

その中、くっきりと浮かび上がるようにひとりの少女が頬杖をついて座っている。
睫毛を伏せ、唇を固く閉じている。

明美さん?

目を見開くと、そこに、鹿目まどかがいる。
心配そうな目でこちらを見つめ、顔を少し近づけている。

よかった、ごめんね。
わたし、鹿目まどか。まどかって呼んでいいよ。
明美さん、転校してきたばっかりだよね?
ここのところ調子が悪いみたいだから、その、わたし、保健委員だし、声かけてみたの。明美さん、大丈夫?ここのところ元気ないみたいだけど
ほむらでいいわ

…っ、ほ、ほむらちゃん、その、
わたしは大丈夫だから。

…うん。わかった。

…あのね、ほむらちゃん
なに
こんなこと、いきなりだよね、ごめんね
…?
あのね、ほむらちゃんに頼みごとがあるんだ
……
その、

わたしのお家に、来てくれないかな。

2
こんなにも、緊張するものなのだろうか。

少女は生まれたての子鹿のような足取りで、鹿目まどかの家のインターホンを押した。

それにしても大きいお家だ。

ぐらぐらする目の前でドアが開き、

来てくれたんだね

わらったかおのまどかが、そこにいた。

うん、まどかはまどかだ。
変わらずそこにいて、いつだってわたしを包み込んでくれる。

思わず唇が開いた。

3

それでね、……

たわいもない話をした。
まどかは相変わらず明るくて、優しくて、わたしの全てを受け止めてくれる。

ああ、この時間が欲しかったのだ。

わたしはその幸せに、ただ浸っていた。

…あっそうそう、ほむらちゃんにね、見せたいものがあるの

そう言ってまどかがベッドから立ち上がった時だった。

ガタッ

膝が折れ、その場に横に倒れる。

目に光がない。

サア…と風が吹き、カーテンが揺れる。

気づけば、外は夕方だったはずが、今は何もない、真っ黒な景色になっている。

真っ黒。

どこともなく、声が聞こえて来た。


わたしは、この声の主を知っている。

4

なぜ?
なぜ今更?
奴らは私が抑えた筈。
いや、むしろ主従の関係にある筈だ。

なぜ

考える暇もなく、気づいた時にはまどかを結界で包み、弓を取る。

青い人魚の姿の魔女、
赤い果実の魔女。

なぜ、今更。

闇雲に進んでいたら、気がつけば大きな扉の前に立っていた。

赤い扉。

ガッ…

と音がしたような気がして、
扉が開いた。

そこには、
あの時
見た光景が広がっていた。

5
声がする。

声がするのだ。

目の前に迫り来るものが信じられない。

迫る、迫る、迫る。


そこで真っ暗になった。

6

目がさめた時には、恐ろしい色の光の中、浮かんでいた。

自分は服を着ているが、翼が無い。

ただ、浮かんで居る。


嗚呼、一生、永遠に此処に居るのだろうか


黒い雫が一粒落ちた。

7

それでね、ほむらちゃん、そう、この世界の魔女を、こんなのってないよ、あんまりだよ、カッコ悪いとこ見せられないしね!、わけがわからないよ、あんたはいったい何者なんだ、、、、、、

ジジジジ…

眼の中を、フイルムが廻ってゆく。

8

それでね、ほむらちゃん。

ふと気がつくと、目の前にまどかが立っていた。

ほむらちゃん、おいで。
抱きしめてあげる。

ああ、
そうよね。

そうよね、まどか。

まどかはいつだって、わたしを優しく、
包み込んでくれる。


わたしは弓で、自分の胸を貫いた。

9

ジジジジ…

レコードの擦れる音がする。

目が醒めたら、まどかの部屋のベットで寝ていた。

あ、ほむらちゃん、起きた?

そろそろ目が醒めるかなって、紅茶を淹れておいたんだ、

あ、そうそう
今度、わたしの友達を紹介するね


みんな、最高の友達だよ……

10

笑い声が聞こえる。
5人の少女の笑い声が。

わたしはただ、草むらでそれを見つめていた。

見つめていた。


みつめていた……。