ギターの調律では、クリップ式のチューナーが登場してからは、殆どの方が、チューナーを使って、調律を行うようになっています。その場合、チューナーは、通常、平均律の音階で調律するようになっています。
一方、昔から、ギターの調律では、チューナーを使わない方法として、各弦のハーモニクスを使う方法がよく知られています。特に、ギターの初心者用の教則本には、ギターの調律の仕方の基本として、5弦を音叉で合わせた後、順番に2弦ずつのハーモニクスを鳴らして、音程が一致するように、調律する方法が記載されています。
しかし、ギターを弾かれる方の間では、ハーモニクスを使う方法で調律すると、チューナーの調律した場合と音がずれることは、周知の事実となっています。
そこで、実際、どれくらい、ずれるのか、計算してみました。
まず、ギターの弦は、6本で、各弦の音階は、低い方から、
E-A-D-G-B-E
となります。通常、5弦Aを基準にして各弦の音程を調律します。
その場合、平均律では、
2^(x/12)
という式で各音階の音程(周波数比)を決定します。
E,A,D,G,B,Eについて、それぞれ、x=-5,0,5,10,14,19
を代入して計算します。そうすると、
{E,A,D,G,B,E}={0.749, 1, 1.335, 1.782, 2.245, 2.997}
となり、そして、5弦A=220[Hz]とすると、各弦の周波数は、
{E,A,D,G,B,E}={164.8, 220, 293.7, 392.0, 493.9, 659.3}[Hz]
…(1)
と算出されます。
ハーモニクスを使う調律方法では、5弦Aを基準にして、隣り合う2弦ずつのハーモニクスを使って、倍音が一致するように、例えば、
5弦の4倍音(5フレット・ハーモニクス)が4弦の3倍音(7フレット・ハーモニクス)に一致するように、
調律されるので、結果として、周波数比が下記のように決定されます。
{E,A,D,G,B,E}={3/4, 1, 4/3, (4/3)^2, (4/3)^2*5/4, (4/3)^2*5/4*4/3}
これを小数で表すと、
{E,A,D,G,B,E}={0.75, 1, 1.333, 1.778, 2.222, 2.963}
となり、5弦A=220[Hz]とすると、各弦の周波数は、
{E,A,D,G,B,E}={165, 220, 293.3, 391.1, 488.9, 651.9}[Hz]
…(2)
と算出されます。
上記の結果(1)と(2)を比較すると、結構ずれていることがわかります。
添付の図は、更に、上記の計算結果に基づいて、平均律調律とハーモニクス調律とのずれ具合を示したものになります。
1枚目は、それぞれの調律法の周波数の絶対値
2枚目は、それぞれの調律法の周波数の差分(平均律-ハーモニクス)
3枚目は、それぞれの調律法の周波数の比(平均律/ハーモニクス)
4枚目は、ハーモニクス調律による音階の周波数比(紫▲)を音律分布上でプロットしたもの
となっています。
これらの図を比較して、全体として、ハーモニクス調律は、平均律調律よりも低めに調律されてしまうことがわかります。特に、G~Bの調律で、平均律のずれが顕著になることがわかります。(なので、ギター、特に、高級なギターの場合、2弦のブリッジの弦の当たる位置が他の弦の当たる位置に対してずらされていることが多いようです。)
また、音律分布上でのハーモニクス調律による音階の周波数比のプロットを見ても、Bが平均律からかなりずれており、別の純正律ポイントにも一致していないことがわかります。
これは、G~Bの調律では、3弦の5倍音と2弦の4倍音と合わせるということをやっており、これが、平均律調律と整合していないことによっているといえます。
このことから、ギターの調律をする場合には、ハーモニクス調律は、そのままでは使えず、調律後に、更に、平均律に合わせた調律が必要ということがわかります。
では、チューナーがないとき(電池が切れたとき)、或いは、他の楽器がないときには、どうすればよいか、が問題となります。
その場合、3弦の5倍音と2弦の4倍音による調律をやめて、6弦の3倍音(7フレット・ハーモニクス)、つまり、5度上と2弦の1倍音(つまり、そのまま)と合わせ、5弦の3倍音(7フレット・ハーモニクス)と1弦の1倍音とを合わせれば、よいと考えます。
この場合、4倍音(5フレット・ハーモニクス)は、元々、一倍音の2オクターブ上の音階であり、これと別の弦の3倍音を合わせるということは、3倍音と1倍音とを合わせることと同等になります。
従って、このやり方であれば、ギターの調律が、全て、周波数比3:2で調律できることとなり、5倍音と4倍音の調律を使わずに、2弦B、1弦Eの調律が精度よくできることになります。



