今まででいちばん強烈だった海外旅行です。
昨年、ロサンゼルスで映画製作を勉強していた私たちクラスメイト。
卒業制作の撮影のため、車で約5時間の距離にあるDeath Valley (死の谷)へと向かったのでした。
主な登場人物
私
マーク(プロデューサー兼監督:次々と問題を引き起こすトラブルメーカー)
ジェン(親友。私が正気を保つための精神的支柱)
ロイ(ゲイのヘアメーク)
クリス(カメラ:この撮影のために、マークが前に住んでいたニューヨークから召喚)
他にも数人クルーはいますが、ややこしくなるので省略。
荒野での撮影となるので、休憩所その他の拠点とするため、LAを出発する前に、キャンピングカーをレンタル。
マーク、ジェン、私の3人で、レンタカー屋へ行きました。
マークは自分のジープに乗っていくので、私かジェンのどちらかにドライバーになってほしいとのこと。
私は、そんなデカイ車を運転したことないので、嫌だと言い張った結果、ジェンが運転することに、当初はなってました。
が。
ジェンが21歳未満のため、年齢不足でドライバーとして登録できず。
おのずと、私が登録され、運転するはめに・・・。
私のみ失意のままレンタカー屋から出て、とりあえずガソリンスタンドへ。
今までに運転した最大の車はオデッセイなので、キャンピングカーの車幅とかまったくわからず。
ゴリゴリゴリッッッ
まさかの破壊音とともに、わずか200mで運転資格剥奪(非公式に)。
小さな支柱を擦っただけで、機械等はいっさい傷つけていないので、大事にならずに済みました。
おのずとジェンが私に取って代わるはめに。
が、ジェンは正式なドライバーではない。
このことが、まさかのちに大問題になるとは、このときは知る由もありませんでした。
他のクルーとの待ち合わせ場所に着き、予定よりも5時間遅れて出発しました。
このときすでに夕方の5時、デスバレーへは4時間かかります。
まあ、すべて無計画なマークのせいですが。
とにかく急ごうとキャンピングカーに乗り込もうとした私に、マークが投げかけた一言。
「おい、お前はあれを運転するんだ」
彼の指差す方向には・・・
機材を積んだトラック(2トンくらいの)
・・・キャンピングカーを擦った私が、トラックを運転しているとはおかしな話です。
が、他のクルーはすべて自分のクルマで行ったり、免許がなかったり。
機材がないと撮影もへったくれもないので、泣く泣く運転しましたよ。
まあ、都市部を抜ければ、カリフォルニアの道路はだだっ広いので、運転するのもそこまで苦ではなかったですが。
まあ、そんなこんなで夜中10時過ぎにデスバレー到着、モーテルへチェックイン。
マーク、クリス、女優以外のメンバーはすべて先に着き、彼らの到着を待つことに。
が、待てど暮らせど来ません。
ケータイの電波もないような荒野のど真ん中。
公衆電話からなんとかマークに連絡。
が、なんと、私たちを差し置いて、自分たちだけ途中のレストランで食事していたのです!!
マークの段取りが悪いせいで出発が遅れ、腹ぺこのままこんな荒野のど真ん中。
隣町までクルマで30分。
全員ブチキレでしたが、うち3人がマクドナルドに買い出しに行ってくれました。
私はその間に、自分の仕事(カメラのメンテ)をしようと思いました。
16ミリフィルムで撮るので、事前のメンテがものすごく大事なのです。
すぐに撮り始められるよう、フィルムもセットしておかなくてはなりません。
そう思って、トラックの荷台を開けようとしたら、鍵がかかってました。
南京錠です。
機材を積んだのはマークだから、おそらく鍵は彼が持っている・・・。
初めて人を本気で殴りたいと思いました。
そんなこんなで買い出し組と、私が本気で殴りたい相手が到着。
鍵を奪い取り、トラックの荷台を開けると、信じられない光景が。
機材が入り乱れ、台風のあとのような状態に。
もちろん私は、途中で横転したわけでもない。
機材は本当に高価なのです。
見かけガムテープのようなクラフトテープが、一巻き1500円もするような世界。
カメラなんて、ボディーだけで100万は下らない。
レンズだって数10万~100万以上します。
そして、ボディーが傷ついたら、レンズが傷ついたら、フィルムが傷ついたら、それで終わりです。
何も撮ることができなくなるんです。
一思いに砂漠に埋めてやろうかと思いました。
ゴミの山のような機材の山の中から、やっとカメラを引っ張りだし、すべて終わったのが深夜1時。
撮影開始は、明朝4時ですよ・・・。

ちなみにこれが、私たちの使った16ミリカメラです。
同じものがもう2台あります。
**********
翌朝4時。
開かない目を水でこじ開け、外に出ると、まだ真っ暗。
昨夜は空を見上げる余裕もなかった私の目に飛び込んできたのは、満天の星。
本当に降ってきそうな星、星、星。
古代ギリシャの人たちが空を見上げ、神話を思いついたのも納得がいきます。
こんだけ星が見えりゃ、ロマンチックな話も浮かびます。
それくらいの星。
私は眠気も何もかも忘れ、ただ呆然と見上げていました。
そして、頭に浮かんだことは。
死にたい。
決してネガティブな意味ではなく。
このまま、しがらみも、腰痛も肩こりも、貧乏アパートも、すべてから解放されて。
ただあの星の中に吸い込まれてしまえたらいいのに。
でも、死ぬわけにもいかないので現実に戻り、撮影予定地へ。
もういっぱしのトラック野郎ですよ私も。
予定地へ着くと、昨夜ざっと降った雨のせいでぬかるみが・・・。
この、雨の日が一年で5日くらいしかなさそうな荒野で、まさかの雨、そして水たまり。
もちろん、撮影できないよこれじゃ。
もう夜明けまで時間がない!!
代替地も、もちろん用意してあるはずもなく、東の空は白み始める。
私たちにはなす術もありませんでした。
だけど、それすらもどうでもいいと思えるような夜明けでした。

太陽の光がこれほどまでに神聖で、そして圧倒的なものだとは知りませんでした。
あれほど輝いていた星が、だんだんと姿を消していきます。
朝日が、夜空に取って代わろうとしています。
今日という日が生まれゆく瞬間でした。
ただ黙って、地面に座っていました。
私がどれだけがんばっても、ぜったいにかなわないと思いました。
所詮は地球の上で、生かされているだけの存在なのだと。

ロッキー山脈の間からこぼれる、温かい金色の光。
疲れも眠気も忘れるような、強烈な朝の光。
**********
モーテルへ戻り、一眠りしたあと、午後はリハーサルとなりました。
朝と同じ場所へ行き、カメラアングル等も細かく決め、明朝の本番を残すのみ。
演出部のリハの間に、荷台の機材を整理し、これで要るものがすぐ取り出せる。
・・・というか、最初からこうなってないとダメなんです。
夕方、仕事も区切りがつき、何となくみんなのところへ行くと、ヘアメークのロイが震えてました。
ジャケットを忘れたということなので、余分に持ってきた私のを貸してあげました。
砂漠は、ちょっとでも日が傾くととたんに肌寒くなるんです。
ロイは細身なので、私のジャケットもぴったりでした。
実は彼はゲイで、ゲイの人と知り合いになるのは初めてだったので、それまでなかなか話しかけることができませんでした。
でも、話してみるととっても気があって、年も近いし、あっという間に仲良く。
好きな服屋の話で盛り上がりました。
しばらくみんなで話していたのですが、たまたま会話が途切れたとき、その瞬間は訪れました。
完全な静寂。
静かな瞬間とかじゃなくて、風が止み、本当の無音。
クルマの音も、冷蔵庫のモーター音も、パソコンのファンの音も、聞こえない。
まるで音だけが消えてしまったような、一瞬でした。
山がオレンジ色に染まってました。

**********
翌日。
昨日撮れなかった夜明けのシーンを撮り終え、次のシーンに移るために待機してました。
そしたら、マークと女優がなんかもめている様子。
・・・すごぉぉぉぉぉぉく、嫌な予感。
というのが、マークは少しでも追いつめられると、暴言野郎と化してしまうからなんです。
にっちもさっちも行かなくなったので、朝食休憩に出たりして、なんとか持ち直すことを願ってたけど。
「私、クビになったから。バイバイ」
捨て台詞とともに、女優は旦那さんに迎えにきてもらい、去っていきました。
あのさ、わかってる?
役者がいないと、映画もへったくれもないのよ?
それからなんかいろいろもめてたみたいですけど、私はいっさい関わりませんでした。
というか、マークの段取りの悪さと、子どもじみた振る舞いにうんざりしてたんです。
そして、夕方。
「おい、ラスベガス行くぞ」
・・・(゜Д゜) ハア??
あーあ、ヤケになっちゃったよ。
撮影は完全にキャンセル。
撮影のために借りたキャンピングカーに乗って、いざ行かん、ラスベガス。
べガスでは、みんなもうやけくそになってスロットやりまくりました。
特に、ジェン、私、ロイは、バカな男どもを尻目に、次から次へとマシンを渡り歩く。
最終的に私は、約100ドル弱の儲けとなりました。


写真は、ホテル・ニューヨークニューヨークと、スロットにふけるロイ氏。
酒、たばこの規制が厳しいLAと違い、完全にフリーダムのべガス。
ビール片手にたばこを吸いながら、夜更けまでカジノを渡り歩いたのでした。
**********
翌日。
LAへ帰ることになりました。
来たときのように、ジープ、キャンピングカー、トラックの3台連なり、帰路へつきます。
しばらく走ると、人里へたどり着き、信号のない交差点へと差し掛かりました。
そこは、ただ一旦停止をして右折をすればいいだけのとこなんです。
アメリカは右側通行なんで、右折はまったくめんどくさいことじゃないんです。
なのに、先頭を行くマークのジープが、突然、曲がり角にあるお店の駐車場の中へとショートカットしました。
駐車場の手前には、そこのお店の屋根が大きく突き出ています。
ジープはもちろん高さは余裕だけど、続くキャンピングカーは大丈夫なのか?!
私は最後尾でじっと見守っていました。
そろりそろりと行くキャンピングカー。
あ、大丈夫みたい・・・。
トラックも同じ高さなので、私も続こうとアクセルを踏み込んだ瞬間。
ガンッ・・・メリメリメリ・・・
ガガガガッッッ・・・・・・ドォォォォォン
ものすごい轟音とともに
キャンピングカーの上から
謎の白くてデカイ、四角い物体が
もげて
落ちたよ・・・・・・
一瞬何かわからず、私は状況がよく飲み込めなかったけど。
次の瞬間、ものすごい笑いが、体の中からこみ上げてきました。
何あの白いの?!
つーか、いったいどこから落ちてきたんだ?!
もう、何が何だかよくわからないことがおかしかった。
もげて落ちる瞬間の光景も、ものすごいツボにはまってしまって。
トラックの中で、ひとりで大爆笑してました。
けど、青ざめた顔をして降りてくるみんなを見て、やばいと思いました。
トラックを端によせ、笑いの神様になんとかして去ってもらい、とりあえず顔だけ取り繕って降りました。
いろんなコードや金属片が飛び出て無惨になった、その白い四角い物体は・・・
キャンピングカーの空調設備。
背の高いキャンピングカーの上に突き出ていたため、誰もそれがあることに気づかなかったんです。

写真は、衝撃で内側がへこんだお店の屋根。
大して事件も起こらなそうなカリフォルニアの田舎町。
人が集まってくる集まってくる。
そして、ビルの持ち主という韓国系の老婆が登場。
さて。
ここで更なる問題発生です。
キャンピングカーの登録ドライバーは誰だ?!
・・・私です。
覚えてらっしゃるでしょうか。
ロサンゼルスを出発した当日、私とジェンが入れ替わったことを。
なぜか、みんなの視線が私の方へ。
そしてなぜか、私が運転してたことにする流れになってる!!
ちょっと待て、おい、待て!!
マークの方を睨みつけると、
「これだから女に運転させるのは嫌だったんだ!!」
とか言ってるし。
え、つーか、私とジェンは一度はっきり断ったのに、お前がむりやり運転させたんだろ。
本当にどこまでもつかえない男だな!!
もう肚を決めて、私がやりました、と、老婆に言いました。
そして、私の免許を老婆に渡し、キャンピングカーの中から書類をつかんで戻ってきました。
あ、そうだ、免許証渡したままだった。
私 「私の免許証どこですか?」
老婆 「は? 私は免許証なんて持ってないわよ。近眼で、免許が取れなかったのよ」
私 「違う、あなたが私の免許証を持ってるか聞いてるんです」
老婆 「そんなもの知らないわよ」
私 「あなたに手渡したでしょ。そこまでは覚えてるんですよ」
キャンピングカーの中を始め、思い当たるところを探したけども、痕跡まったくなし。
・・・・・・かなり嫌な予感がする。
老婆に渡したところまでは覚えてる。
でも、返してもらった記憶はない。
最初は申し訳ないなぁと思いながら、控えめに聞いていたけども、
そのババア(既にババア呼ばわり)、すっごく楽しそうな顔しながら、
「免許証は見つかったか~い、あら、まだなの。
私は取ってないわよ、こんなおばあさんが取るわけないじゃない」
などと、癪に触ることを言ってくるので、さすがにキレ気味になってきました。
だいたいそのババア、英語はたどたどしいわ、言ってるそばから忘れて聞き返してくるわ、
ものすごい近眼で、1cmの距離まで近寄らないとものが見えないわ・・・
ぜったいにお前がなくしたに違いない。
コナンでなくてもわかる。
しかも、ババアはそれだけでは物足りないらしく、ドタバタに乗じて警察呼んでたんです。
示談で済まそうとしてるこっちの努力皆無。
しかもその理由が、
「あんな大事故なのに、ケーサツ呼ばなきゃだめでしょ」
待ってよ、大事故ってあんた、お宅の被害はあのボロい屋根のかすり傷でしょ。
こっちはもげたんだよ、レンタカーの空調設備が!!
どっちかっていうとこっちのが被害のがデカイじゃない!!
しかし、時既に遅し。
ポリスが来ました。
しかし、ポリスはポリスでも、ハイウェイパトロールの彼は困り顔。
それでもひとしきり、クルマの保険や登録を調べる気のいいポリス。
「おばあさん、人身事故じゃないんで、僕たちにはどうすることもできないんですよ。とりあえず、このビルの保険登録証を見せてもらってもいいですか」
「いや、今日はね、ここのお店のオーナーがお休みなもんで、どうにもできないのよ」
「その人は関係ないです、このビルの持ち主はあなたでしょう。保険、入ってるでしょう」
「そうなの? たぶん、家にあると思うんだけどね、家には滅多に帰らないのよ」
「でも、それがないと、僕にはこれ以上どうすることもできないんですよ。取りに帰ってもらったりすることって、できますか?」
「私もこんな年寄りだしねぇ・・・それはちょっと」
さっきまでの、トラブルに食いつく(ピラニアのような)威勢はどこへやら。
急に年寄りぶるババア。本当ムカつく。
だいたい、こっちは、ポリスが到着する前に一度、レンタカーの会社の名前と住所、保険会社の名前と住所、登録ナンバーや私たちの名前と免許証番号(さらには私の免許証そのものまで)すべて書き出して渡して説明したというのに、
「で、私が連絡しないといけない保険会社はどれなんだい?」
と、しゃあしゃあとポリスに言ってのけるババア。
・・・モーロクしてるにもほどがあるぜ、ばあさんよ。
気のいいポリスがすべて説明し直してくれたあと、
「じゃ、運転していたきみ、免許証を見せてくれるかな」
「ないです。あ、学生証ならありますけど、見ます?」
「は?」
「そのばあさんに渡して、ちょっと目を離したすきになくなったんです」
みんなも、その通りだ、と同意してくれる。
ポリスはすっかり面食らって、呆れ顔の困り顔。
そしてババアは再び、私は触ってもないだの、彼女は信じてくれないだのと騒ぎ始めました。
マークは疲れきってて放心状態、ジェンはショックのあまり放心状態。
私は、起こしてもない事故で免許証もなくして、ああ、なんでこんなことに・・・。
頭を抱える私。
イーーーーーーーーーーっとなってきて、癇癪を起こしそうになりました。
ふと顔を上げると、ロイがいて、ぎゅっと抱きしめてくれました。
思わず緊張が解け、私、何もしてないのに、というと、
うん、わかってるよ、大丈夫だから、と何度も言ってくれました。
ロイは他の男の人に比べたらずっと細身ですが、それでも私よりはがっしりしていて、彼の優しい香水の匂いと、温かい腕のおかげで、私は正気を取り戻すことができました。
しかし、彼の腕の中で、私は、
ああでも、私は永遠にこの人のストライクゾーンの外なんだ。
と気づいて、何だかトホホな気分になりました。
ゲイの彼に恋をしても、発展する余地はまったくありません。
それは、砂漠に降った雨でできた水たまりのように、あっさりと蒸発してしまいました。
**********
夜8時。
珍道中もやっと終わりを告げました。
LAまで生きて帰って来れたのが、奇跡のように感じました。
デスバレーという名前はまんざらウソでもないようです、いろんな意味で。
でも、あの空調設備が落下したシーンは、思い出すだけで笑いがこみ上げてきます。
てか、この一連の出来事すべてがコントみたいですよね、よく考えたら。
キャンピングカー破壊、コリアンババア、免許紛失、ゲイに恋をしかけた私・・・。
どう考えてもネタですよこれ!!
ほぼ一年前の出来事なのに、ものすごく鮮明に思い出せます。
これほどまでにネタが満載だった旅行は、他にありません。
しかし、デスバレーの星空、夜明けは、本当にものすごいものを感じました。
地球の上で生かされているって思いました。
私の人生観を変えた星空でした。
トラブルメーカーのマークのおかげでデスバレーへ行けたことは、感謝しないといけないのかも・・・。
長文を、読んでいただいてありがとうございました。
旅ブロさんのキャンペーンに、参加させていただきます。

昨年、ロサンゼルスで映画製作を勉強していた私たちクラスメイト。
卒業制作の撮影のため、車で約5時間の距離にあるDeath Valley (死の谷)へと向かったのでした。
主な登場人物
私
マーク(プロデューサー兼監督:次々と問題を引き起こすトラブルメーカー)
ジェン(親友。私が正気を保つための精神的支柱)
ロイ(ゲイのヘアメーク)
クリス(カメラ:この撮影のために、マークが前に住んでいたニューヨークから召喚)
他にも数人クルーはいますが、ややこしくなるので省略。
荒野での撮影となるので、休憩所その他の拠点とするため、LAを出発する前に、キャンピングカーをレンタル。
マーク、ジェン、私の3人で、レンタカー屋へ行きました。
マークは自分のジープに乗っていくので、私かジェンのどちらかにドライバーになってほしいとのこと。
私は、そんなデカイ車を運転したことないので、嫌だと言い張った結果、ジェンが運転することに、当初はなってました。
が。
ジェンが21歳未満のため、年齢不足でドライバーとして登録できず。
おのずと、私が登録され、運転するはめに・・・。
私のみ失意のままレンタカー屋から出て、とりあえずガソリンスタンドへ。
今までに運転した最大の車はオデッセイなので、キャンピングカーの車幅とかまったくわからず。
ゴリゴリゴリッッッ
まさかの破壊音とともに、わずか200mで運転資格剥奪(非公式に)。
小さな支柱を擦っただけで、機械等はいっさい傷つけていないので、大事にならずに済みました。
おのずとジェンが私に取って代わるはめに。
が、ジェンは正式なドライバーではない。
このことが、まさかのちに大問題になるとは、このときは知る由もありませんでした。
他のクルーとの待ち合わせ場所に着き、予定よりも5時間遅れて出発しました。
このときすでに夕方の5時、デスバレーへは4時間かかります。
まあ、すべて無計画なマークのせいですが。
とにかく急ごうとキャンピングカーに乗り込もうとした私に、マークが投げかけた一言。
「おい、お前はあれを運転するんだ」
彼の指差す方向には・・・
機材を積んだトラック(2トンくらいの)
・・・キャンピングカーを擦った私が、トラックを運転しているとはおかしな話です。
が、他のクルーはすべて自分のクルマで行ったり、免許がなかったり。
機材がないと撮影もへったくれもないので、泣く泣く運転しましたよ。
まあ、都市部を抜ければ、カリフォルニアの道路はだだっ広いので、運転するのもそこまで苦ではなかったですが。
まあ、そんなこんなで夜中10時過ぎにデスバレー到着、モーテルへチェックイン。
マーク、クリス、女優以外のメンバーはすべて先に着き、彼らの到着を待つことに。
が、待てど暮らせど来ません。
ケータイの電波もないような荒野のど真ん中。
公衆電話からなんとかマークに連絡。
が、なんと、私たちを差し置いて、自分たちだけ途中のレストランで食事していたのです!!
マークの段取りが悪いせいで出発が遅れ、腹ぺこのままこんな荒野のど真ん中。
隣町までクルマで30分。
全員ブチキレでしたが、うち3人がマクドナルドに買い出しに行ってくれました。
私はその間に、自分の仕事(カメラのメンテ)をしようと思いました。
16ミリフィルムで撮るので、事前のメンテがものすごく大事なのです。
すぐに撮り始められるよう、フィルムもセットしておかなくてはなりません。
そう思って、トラックの荷台を開けようとしたら、鍵がかかってました。
南京錠です。
機材を積んだのはマークだから、おそらく鍵は彼が持っている・・・。
初めて人を本気で殴りたいと思いました。
そんなこんなで買い出し組と、私が本気で殴りたい相手が到着。
鍵を奪い取り、トラックの荷台を開けると、信じられない光景が。
機材が入り乱れ、台風のあとのような状態に。
もちろん私は、途中で横転したわけでもない。
機材は本当に高価なのです。
見かけガムテープのようなクラフトテープが、一巻き1500円もするような世界。
カメラなんて、ボディーだけで100万は下らない。
レンズだって数10万~100万以上します。
そして、ボディーが傷ついたら、レンズが傷ついたら、フィルムが傷ついたら、それで終わりです。
何も撮ることができなくなるんです。
一思いに砂漠に埋めてやろうかと思いました。
ゴミの山のような機材の山の中から、やっとカメラを引っ張りだし、すべて終わったのが深夜1時。
撮影開始は、明朝4時ですよ・・・。

ちなみにこれが、私たちの使った16ミリカメラです。
同じものがもう2台あります。
**********
翌朝4時。
開かない目を水でこじ開け、外に出ると、まだ真っ暗。
昨夜は空を見上げる余裕もなかった私の目に飛び込んできたのは、満天の星。
本当に降ってきそうな星、星、星。
古代ギリシャの人たちが空を見上げ、神話を思いついたのも納得がいきます。
こんだけ星が見えりゃ、ロマンチックな話も浮かびます。
それくらいの星。
私は眠気も何もかも忘れ、ただ呆然と見上げていました。
そして、頭に浮かんだことは。
死にたい。
決してネガティブな意味ではなく。
このまま、しがらみも、腰痛も肩こりも、貧乏アパートも、すべてから解放されて。
ただあの星の中に吸い込まれてしまえたらいいのに。
でも、死ぬわけにもいかないので現実に戻り、撮影予定地へ。
もういっぱしのトラック野郎ですよ私も。
予定地へ着くと、昨夜ざっと降った雨のせいでぬかるみが・・・。
この、雨の日が一年で5日くらいしかなさそうな荒野で、まさかの雨、そして水たまり。
もちろん、撮影できないよこれじゃ。
もう夜明けまで時間がない!!
代替地も、もちろん用意してあるはずもなく、東の空は白み始める。
私たちにはなす術もありませんでした。
だけど、それすらもどうでもいいと思えるような夜明けでした。

太陽の光がこれほどまでに神聖で、そして圧倒的なものだとは知りませんでした。
あれほど輝いていた星が、だんだんと姿を消していきます。
朝日が、夜空に取って代わろうとしています。
今日という日が生まれゆく瞬間でした。
ただ黙って、地面に座っていました。
私がどれだけがんばっても、ぜったいにかなわないと思いました。
所詮は地球の上で、生かされているだけの存在なのだと。

ロッキー山脈の間からこぼれる、温かい金色の光。
疲れも眠気も忘れるような、強烈な朝の光。
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モーテルへ戻り、一眠りしたあと、午後はリハーサルとなりました。
朝と同じ場所へ行き、カメラアングル等も細かく決め、明朝の本番を残すのみ。
演出部のリハの間に、荷台の機材を整理し、これで要るものがすぐ取り出せる。
・・・というか、最初からこうなってないとダメなんです。
夕方、仕事も区切りがつき、何となくみんなのところへ行くと、ヘアメークのロイが震えてました。
ジャケットを忘れたということなので、余分に持ってきた私のを貸してあげました。
砂漠は、ちょっとでも日が傾くととたんに肌寒くなるんです。
ロイは細身なので、私のジャケットもぴったりでした。
実は彼はゲイで、ゲイの人と知り合いになるのは初めてだったので、それまでなかなか話しかけることができませんでした。
でも、話してみるととっても気があって、年も近いし、あっという間に仲良く。
好きな服屋の話で盛り上がりました。
しばらくみんなで話していたのですが、たまたま会話が途切れたとき、その瞬間は訪れました。
完全な静寂。
静かな瞬間とかじゃなくて、風が止み、本当の無音。
クルマの音も、冷蔵庫のモーター音も、パソコンのファンの音も、聞こえない。
まるで音だけが消えてしまったような、一瞬でした。
山がオレンジ色に染まってました。

**********
翌日。
昨日撮れなかった夜明けのシーンを撮り終え、次のシーンに移るために待機してました。
そしたら、マークと女優がなんかもめている様子。
・・・すごぉぉぉぉぉぉく、嫌な予感。
というのが、マークは少しでも追いつめられると、暴言野郎と化してしまうからなんです。
にっちもさっちも行かなくなったので、朝食休憩に出たりして、なんとか持ち直すことを願ってたけど。
「私、クビになったから。バイバイ」
捨て台詞とともに、女優は旦那さんに迎えにきてもらい、去っていきました。
あのさ、わかってる?
役者がいないと、映画もへったくれもないのよ?
それからなんかいろいろもめてたみたいですけど、私はいっさい関わりませんでした。
というか、マークの段取りの悪さと、子どもじみた振る舞いにうんざりしてたんです。
そして、夕方。
「おい、ラスベガス行くぞ」
・・・(゜Д゜) ハア??
あーあ、ヤケになっちゃったよ。
撮影は完全にキャンセル。
撮影のために借りたキャンピングカーに乗って、いざ行かん、ラスベガス。
べガスでは、みんなもうやけくそになってスロットやりまくりました。
特に、ジェン、私、ロイは、バカな男どもを尻目に、次から次へとマシンを渡り歩く。
最終的に私は、約100ドル弱の儲けとなりました。


写真は、ホテル・ニューヨークニューヨークと、スロットにふけるロイ氏。
酒、たばこの規制が厳しいLAと違い、完全にフリーダムのべガス。
ビール片手にたばこを吸いながら、夜更けまでカジノを渡り歩いたのでした。
**********
翌日。
LAへ帰ることになりました。
来たときのように、ジープ、キャンピングカー、トラックの3台連なり、帰路へつきます。
しばらく走ると、人里へたどり着き、信号のない交差点へと差し掛かりました。
そこは、ただ一旦停止をして右折をすればいいだけのとこなんです。
アメリカは右側通行なんで、右折はまったくめんどくさいことじゃないんです。
なのに、先頭を行くマークのジープが、突然、曲がり角にあるお店の駐車場の中へとショートカットしました。
駐車場の手前には、そこのお店の屋根が大きく突き出ています。
ジープはもちろん高さは余裕だけど、続くキャンピングカーは大丈夫なのか?!
私は最後尾でじっと見守っていました。
そろりそろりと行くキャンピングカー。
あ、大丈夫みたい・・・。
トラックも同じ高さなので、私も続こうとアクセルを踏み込んだ瞬間。
ガンッ・・・メリメリメリ・・・
ガガガガッッッ・・・・・・ドォォォォォン
ものすごい轟音とともに
キャンピングカーの上から
謎の白くてデカイ、四角い物体が
もげて
落ちたよ・・・・・・
一瞬何かわからず、私は状況がよく飲み込めなかったけど。
次の瞬間、ものすごい笑いが、体の中からこみ上げてきました。
何あの白いの?!
つーか、いったいどこから落ちてきたんだ?!
もう、何が何だかよくわからないことがおかしかった。
もげて落ちる瞬間の光景も、ものすごいツボにはまってしまって。
トラックの中で、ひとりで大爆笑してました。
けど、青ざめた顔をして降りてくるみんなを見て、やばいと思いました。
トラックを端によせ、笑いの神様になんとかして去ってもらい、とりあえず顔だけ取り繕って降りました。
いろんなコードや金属片が飛び出て無惨になった、その白い四角い物体は・・・
キャンピングカーの空調設備。
背の高いキャンピングカーの上に突き出ていたため、誰もそれがあることに気づかなかったんです。

写真は、衝撃で内側がへこんだお店の屋根。
大して事件も起こらなそうなカリフォルニアの田舎町。
人が集まってくる集まってくる。
そして、ビルの持ち主という韓国系の老婆が登場。
さて。
ここで更なる問題発生です。
キャンピングカーの登録ドライバーは誰だ?!
・・・私です。
覚えてらっしゃるでしょうか。
ロサンゼルスを出発した当日、私とジェンが入れ替わったことを。
なぜか、みんなの視線が私の方へ。
そしてなぜか、私が運転してたことにする流れになってる!!
ちょっと待て、おい、待て!!
マークの方を睨みつけると、
「これだから女に運転させるのは嫌だったんだ!!」
とか言ってるし。
え、つーか、私とジェンは一度はっきり断ったのに、お前がむりやり運転させたんだろ。
本当にどこまでもつかえない男だな!!
もう肚を決めて、私がやりました、と、老婆に言いました。
そして、私の免許を老婆に渡し、キャンピングカーの中から書類をつかんで戻ってきました。
あ、そうだ、免許証渡したままだった。
私 「私の免許証どこですか?」
老婆 「は? 私は免許証なんて持ってないわよ。近眼で、免許が取れなかったのよ」
私 「違う、あなたが私の免許証を持ってるか聞いてるんです」
老婆 「そんなもの知らないわよ」
私 「あなたに手渡したでしょ。そこまでは覚えてるんですよ」
キャンピングカーの中を始め、思い当たるところを探したけども、痕跡まったくなし。
・・・・・・かなり嫌な予感がする。
老婆に渡したところまでは覚えてる。
でも、返してもらった記憶はない。
最初は申し訳ないなぁと思いながら、控えめに聞いていたけども、
そのババア(既にババア呼ばわり)、すっごく楽しそうな顔しながら、
「免許証は見つかったか~い、あら、まだなの。
私は取ってないわよ、こんなおばあさんが取るわけないじゃない」
などと、癪に触ることを言ってくるので、さすがにキレ気味になってきました。
だいたいそのババア、英語はたどたどしいわ、言ってるそばから忘れて聞き返してくるわ、
ものすごい近眼で、1cmの距離まで近寄らないとものが見えないわ・・・
ぜったいにお前がなくしたに違いない。
コナンでなくてもわかる。
しかも、ババアはそれだけでは物足りないらしく、ドタバタに乗じて警察呼んでたんです。
示談で済まそうとしてるこっちの努力皆無。
しかもその理由が、
「あんな大事故なのに、ケーサツ呼ばなきゃだめでしょ」
待ってよ、大事故ってあんた、お宅の被害はあのボロい屋根のかすり傷でしょ。
こっちはもげたんだよ、レンタカーの空調設備が!!
どっちかっていうとこっちのが被害のがデカイじゃない!!
しかし、時既に遅し。
ポリスが来ました。
しかし、ポリスはポリスでも、ハイウェイパトロールの彼は困り顔。
それでもひとしきり、クルマの保険や登録を調べる気のいいポリス。
「おばあさん、人身事故じゃないんで、僕たちにはどうすることもできないんですよ。とりあえず、このビルの保険登録証を見せてもらってもいいですか」
「いや、今日はね、ここのお店のオーナーがお休みなもんで、どうにもできないのよ」
「その人は関係ないです、このビルの持ち主はあなたでしょう。保険、入ってるでしょう」
「そうなの? たぶん、家にあると思うんだけどね、家には滅多に帰らないのよ」
「でも、それがないと、僕にはこれ以上どうすることもできないんですよ。取りに帰ってもらったりすることって、できますか?」
「私もこんな年寄りだしねぇ・・・それはちょっと」
さっきまでの、トラブルに食いつく(ピラニアのような)威勢はどこへやら。
急に年寄りぶるババア。本当ムカつく。
だいたい、こっちは、ポリスが到着する前に一度、レンタカーの会社の名前と住所、保険会社の名前と住所、登録ナンバーや私たちの名前と免許証番号(さらには私の免許証そのものまで)すべて書き出して渡して説明したというのに、
「で、私が連絡しないといけない保険会社はどれなんだい?」
と、しゃあしゃあとポリスに言ってのけるババア。
・・・モーロクしてるにもほどがあるぜ、ばあさんよ。
気のいいポリスがすべて説明し直してくれたあと、
「じゃ、運転していたきみ、免許証を見せてくれるかな」
「ないです。あ、学生証ならありますけど、見ます?」
「は?」
「そのばあさんに渡して、ちょっと目を離したすきになくなったんです」
みんなも、その通りだ、と同意してくれる。
ポリスはすっかり面食らって、呆れ顔の困り顔。
そしてババアは再び、私は触ってもないだの、彼女は信じてくれないだのと騒ぎ始めました。
マークは疲れきってて放心状態、ジェンはショックのあまり放心状態。
私は、起こしてもない事故で免許証もなくして、ああ、なんでこんなことに・・・。
頭を抱える私。
イーーーーーーーーーーっとなってきて、癇癪を起こしそうになりました。
ふと顔を上げると、ロイがいて、ぎゅっと抱きしめてくれました。
思わず緊張が解け、私、何もしてないのに、というと、
うん、わかってるよ、大丈夫だから、と何度も言ってくれました。
ロイは他の男の人に比べたらずっと細身ですが、それでも私よりはがっしりしていて、彼の優しい香水の匂いと、温かい腕のおかげで、私は正気を取り戻すことができました。
しかし、彼の腕の中で、私は、
ああでも、私は永遠にこの人のストライクゾーンの外なんだ。
と気づいて、何だかトホホな気分になりました。
ゲイの彼に恋をしても、発展する余地はまったくありません。
それは、砂漠に降った雨でできた水たまりのように、あっさりと蒸発してしまいました。
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夜8時。
珍道中もやっと終わりを告げました。
LAまで生きて帰って来れたのが、奇跡のように感じました。
デスバレーという名前はまんざらウソでもないようです、いろんな意味で。
でも、あの空調設備が落下したシーンは、思い出すだけで笑いがこみ上げてきます。
てか、この一連の出来事すべてがコントみたいですよね、よく考えたら。
キャンピングカー破壊、コリアンババア、免許紛失、ゲイに恋をしかけた私・・・。
どう考えてもネタですよこれ!!
ほぼ一年前の出来事なのに、ものすごく鮮明に思い出せます。
これほどまでにネタが満載だった旅行は、他にありません。
しかし、デスバレーの星空、夜明けは、本当にものすごいものを感じました。
地球の上で生かされているって思いました。
私の人生観を変えた星空でした。
トラブルメーカーのマークのおかげでデスバレーへ行けたことは、感謝しないといけないのかも・・・。
長文を、読んでいただいてありがとうございました。
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