金剛榛名のLOGBOOK

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いろいろと面白そうなことを書いていく。ただ、それだけ

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昭和二十年八月十五日、戦争は終わった。日本は負けたのだ。
敗戦を告げる玉音放送を聞く皆の表情は様々であった。
私は出撃の際にいつも持ち出している若い女性の移されたスナップ写真を見つめていた。
「悦子さん、あなたの元に辿り着くのはまだ先になりそうです」
気付けば目から涙がこぼれ落ちており、男泣きに泣いた。
それからというものはよく覚えていない。
終戦後、私は久しぶりに里へ帰るも元の面影が無いように感じられた。家族もいない私は墓参りへと赴き、帰ってきたことを報告することにした。墓の前では何か感じられるものがあるように思えたのだが、それは今を生きているものが死んでいる者を弔うから意味があるのであり、生死が曖昧な我心は弔うことを拒んでいるかのようにも思えた。
ふと、名前を呼ばれた気がして振り向けば、先ほどの写真に写っていた若い女性が現れた。
その女性は涙ぐみながら鈴を転がすような声でいう。
「生きておられたのですね…あなたの先に逝くことになった私をお許しください」
私は声をあげて泣きたくなった
「恥ずかしながら…帰って参りました…」
女性は涙ぐみながらも無理に笑顔をつくり「おかえりなさい」
と一言だけいい、煙のように消えた。
わが心は死んではいないことを感じることができた。
そしてもう一度墓の前で手を合わせ、戦争が終わったことと生きて帰ってきたことを伝えた。