加藤君と21匹のネコ4
最近、深夜の闇下がり…闇下がりとは昼下がりの夜バージョンみたいなもので
夜中の3時過ぎ。レストランの朝食用の準備を終えてぽっかり空いた時間に私のサロンでお客様に出そうと思ってたが大量に余ってしまっていたハーブティーを入れて二人でお茶を楽しむようになった。
二人とはやはり私と加藤君なんだけど。
この前の話で私はだいぶ加藤君を見る目が変わったんだけど
相変わらず加藤君んちは悲壮を極めててなのに加藤君はのらりくらりと過ごして見える。
いいんだ。僕は小説にでもなれれば。
そんなことを言ってたから加藤君は小説家を夢見る文学青年であるわけなのだが、
私からみるとそこがどうも危機感の足りないお坊っちゃんにも見える。
けどきっと私のわからない部分もたくさんあるんだろいなとも思ってる。
それはこの前、加藤君はスープ鍋をこぼして台無しにした話を私に聞かせ
だから間違えても大丈夫だよ。みんな失敗してるから
と、私が何かミスしたときにそう励ましてくれた。
けど、この前入れ替わりで会った若い元気のいい女の子が何気なく加藤君の話題に触れて言ってたのは
加藤さんて優しいけど頼りがいありますよね?
私この前スープ鍋ひっくり返しちゃって…そしたら加藤さんが
大丈夫。大したことじゃないからまずは落ち着いて。他のことをやればいいよ
って。私パニクってたから加藤さんが素早く片付けてくれてホント助かりましたぁ
って話してた。
ひょっとしてスープ鍋をひっくり返したのは加藤君と思ってたけど…
それに私はこんな風におおざっぱな性格だからミスしたってパニクったりしないんだけど
(歳の項とも言うわね。そしてね、私は私の歳を言うつもりありませんからね。年齢を口にしたとたん、女って老けてくんだから。)
ミスした後に休憩中でもやたら加藤君はくだらない話を私にしてくるの。私は休んでるのに。
加藤君はとなりでタバコを吸って。
初めは随分人なつこい人だなぁって思ってたけどこの前、新人教育で新しい男の子が加藤君に教わってるのを見てわかっちゃった。
私と同じ、レジ計算で躓いて時間を無駄にして結局、加藤君が決着つけた。
その時も加藤君は彼の休憩中も横に行ってくだらない話をしてた。
こんな私だけどなんとなく気付いたわ。
ミスばかりで落ち込んでるかもしれないからくだらない話をして大したことじゃないって安心させるためにわざわざ話てるのかもしれないなって。
励ますではなく、くだらないおしゃべりをする。
すごくさり気ない…けどすごく大人の気遣いができる。
ネコを21匹になるまで増やしてしまい翻弄されてばかりの母親の子どもとばかり思ってたけど…
立派な青年に育てた素晴らしい母親ではないか。
よく考えれば初め加藤君を見て幸せそうに育ちやがってと見えていた自体、彼女が心を込めて育てたんだと伺えるではないか。
なぜそんな素晴らしい母親が21匹のネコに働かされ、自分の実の息子にもひどい仕打ちをされてるんだろう??
そこには何かある。何かあるだろうと聞きたいけど、そこまで聞いたらなんか引き返せない何かがありそうで怖い気もして躊躇している。
気がつくと、加藤君はお茶請けにモノポリーの必勝法なんていうまたくだらない話をしてて
外にはざぁっと大雨が落ちてきてた。
からんがらんとレストランの入り口のドアが開く。
加藤君はモノポリーの話を止めてお願いします。と目を合わせずに言うとカップを素早く片して厨房へと消えていく。
私がいけって訳か。
男は襟の立ったスリムなジャケットを着こなし、坊主でサングラスの下はかなりの男前の雰囲気だったが、先の雨でずぶ濡れだ。
長身の体をめんどくさそうに端に持っていき、憎いであろう雨が見える窓側の席へわざわざ座った。
小さくなりちょこんと座った。
可哀想に。凍えてるんだわ。
急いでオーダーを取りに行く。
こんばんわ。ご注文は?
こんばんわ。
…営業あいさつに律儀にあいさつが返ってくるなんて。不意をつかれた。
アイスコーヒーを下さい。
は??更にまたで私は思わず聞き返してしまった。今だって目の前で肩をすぼめてる人なのにアイスコーヒー??納得がいかない私は、
本当にアイス…コーヒーですか?
アイスを強調するようにコーヒーですか?は早口で言った。
アイスコーヒーで。
…あ、僕は猫舌なんで。
そう言うと男は申し訳なさそうににこりとした。
猫舌って言っても…やっぱり理解しがたかったがにこりと笑う男を見ているうちにチャーミングに思えてきて思わず私も笑ってしまった。
…じゃぁ、暖かいのに氷を入れるのは?アイスコーヒーじゃあんまりだもの。
私が打開策を出すと男はああ!!それだ!!とわかりやすい表情をしてはいと言ってまた笑った。
変な客が来たよ?
厨房に言って加藤君に密告をする。
正確には世間話。
この雨だからせいぜいいさせてあげた方がいい。
加藤君は言った。そして厨房から客席を眺めてさらに
僕んちのネコも濡れてないかなぁ…
とぽつり・心配そうにつぶやいた。
万物に憐れみを示されます加藤様。
21匹のうち1匹が濡れても私はどうでもいいように思うけど、そうではないみたい。
加藤君はアイスコーヒーを手にして私がコーヒーに氷を入れてるのを見て
アイスコーヒーじゃないの??
と言ったから、猫舌が凍えてるからこうしたの。とカップに氷の入ったホットを見せながら言った。
なんというか…山中さんらしい発想だね。
ああ!!それか!!とわかりやすい表情をして加藤君が言った。
きびすを返し、加藤君の表情に少し笑いながら、心で少しチャーミングな彼に浮かれていた。
加藤君は客席を見てネコを心配したけど
実際はその先の外を見てたんだな…
ふとそんな風に思った
彼にコーヒーを差し出す。
彼は確かめるようにカップに口を恐る恐る近づけ、確かめるように一口。
次にひまわりのような笑みで私に何度も頷いた。
ある幸せな新婚夫婦の朝の一コマみたい。
でも彼もこの街のどこかに住んでいて、雨がやんだら自分の生活に戻っていくんだな。
雨はまだ降り続く。
雨の音を聞き続けてるとみんなに家があるのすら不思議に思えてきた。
雨が降ってる間は一番ここが居心地いいから
私たちはここから出ない。
でも外が晴れてれば?
加藤君んちの周りはいつも土砂降りの雨なんだろう。だからネコが出て行かない。
ここもずっと土砂降りだといいのに。
雨の音は案の定激しくなっていく。
あぁ…と絶望を漏らす窓辺の彼に絹江はニヤリと笑う
はぁ…私どうかしてる。
この雨で心配する場所なんか私にはない。
せめて私にもネコがいるならば。
…いや、きっと今は外にでて戦うことに疲れてるんだ。
そんな私の巻き添えにしてはいけないな。
絹江が厨房を横切りロッカーへ向かうと加藤君がすかさず
どうしたの?
と聞いてくる。
置き傘…余ってなかったかなって。
ホラ、加藤君も帰りまで降ってたら使いな?
私は傘を手渡して心の中で言う。
21匹。きちんと数えるんだぞ。
土砂降りでも外に出たがる人もいるから。
私はもうひとつの傘を持って客席の窓辺に座る彼の元へ向う。
続く
夜中の3時過ぎ。レストランの朝食用の準備を終えてぽっかり空いた時間に私のサロンでお客様に出そうと思ってたが大量に余ってしまっていたハーブティーを入れて二人でお茶を楽しむようになった。
二人とはやはり私と加藤君なんだけど。
この前の話で私はだいぶ加藤君を見る目が変わったんだけど
相変わらず加藤君んちは悲壮を極めててなのに加藤君はのらりくらりと過ごして見える。
いいんだ。僕は小説にでもなれれば。
そんなことを言ってたから加藤君は小説家を夢見る文学青年であるわけなのだが、
私からみるとそこがどうも危機感の足りないお坊っちゃんにも見える。
けどきっと私のわからない部分もたくさんあるんだろいなとも思ってる。
それはこの前、加藤君はスープ鍋をこぼして台無しにした話を私に聞かせ
だから間違えても大丈夫だよ。みんな失敗してるから
と、私が何かミスしたときにそう励ましてくれた。
けど、この前入れ替わりで会った若い元気のいい女の子が何気なく加藤君の話題に触れて言ってたのは
加藤さんて優しいけど頼りがいありますよね?
私この前スープ鍋ひっくり返しちゃって…そしたら加藤さんが
大丈夫。大したことじゃないからまずは落ち着いて。他のことをやればいいよ
って。私パニクってたから加藤さんが素早く片付けてくれてホント助かりましたぁ
って話してた。
ひょっとしてスープ鍋をひっくり返したのは加藤君と思ってたけど…
それに私はこんな風におおざっぱな性格だからミスしたってパニクったりしないんだけど
(歳の項とも言うわね。そしてね、私は私の歳を言うつもりありませんからね。年齢を口にしたとたん、女って老けてくんだから。)
ミスした後に休憩中でもやたら加藤君はくだらない話を私にしてくるの。私は休んでるのに。
加藤君はとなりでタバコを吸って。
初めは随分人なつこい人だなぁって思ってたけどこの前、新人教育で新しい男の子が加藤君に教わってるのを見てわかっちゃった。
私と同じ、レジ計算で躓いて時間を無駄にして結局、加藤君が決着つけた。
その時も加藤君は彼の休憩中も横に行ってくだらない話をしてた。
こんな私だけどなんとなく気付いたわ。
ミスばかりで落ち込んでるかもしれないからくだらない話をして大したことじゃないって安心させるためにわざわざ話てるのかもしれないなって。
励ますではなく、くだらないおしゃべりをする。
すごくさり気ない…けどすごく大人の気遣いができる。
ネコを21匹になるまで増やしてしまい翻弄されてばかりの母親の子どもとばかり思ってたけど…
立派な青年に育てた素晴らしい母親ではないか。
よく考えれば初め加藤君を見て幸せそうに育ちやがってと見えていた自体、彼女が心を込めて育てたんだと伺えるではないか。
なぜそんな素晴らしい母親が21匹のネコに働かされ、自分の実の息子にもひどい仕打ちをされてるんだろう??
そこには何かある。何かあるだろうと聞きたいけど、そこまで聞いたらなんか引き返せない何かがありそうで怖い気もして躊躇している。
気がつくと、加藤君はお茶請けにモノポリーの必勝法なんていうまたくだらない話をしてて
外にはざぁっと大雨が落ちてきてた。
からんがらんとレストランの入り口のドアが開く。
加藤君はモノポリーの話を止めてお願いします。と目を合わせずに言うとカップを素早く片して厨房へと消えていく。
私がいけって訳か。
男は襟の立ったスリムなジャケットを着こなし、坊主でサングラスの下はかなりの男前の雰囲気だったが、先の雨でずぶ濡れだ。
長身の体をめんどくさそうに端に持っていき、憎いであろう雨が見える窓側の席へわざわざ座った。
小さくなりちょこんと座った。
可哀想に。凍えてるんだわ。
急いでオーダーを取りに行く。
こんばんわ。ご注文は?
こんばんわ。
…営業あいさつに律儀にあいさつが返ってくるなんて。不意をつかれた。
アイスコーヒーを下さい。
は??更にまたで私は思わず聞き返してしまった。今だって目の前で肩をすぼめてる人なのにアイスコーヒー??納得がいかない私は、
本当にアイス…コーヒーですか?
アイスを強調するようにコーヒーですか?は早口で言った。
アイスコーヒーで。
…あ、僕は猫舌なんで。
そう言うと男は申し訳なさそうににこりとした。
猫舌って言っても…やっぱり理解しがたかったがにこりと笑う男を見ているうちにチャーミングに思えてきて思わず私も笑ってしまった。
…じゃぁ、暖かいのに氷を入れるのは?アイスコーヒーじゃあんまりだもの。
私が打開策を出すと男はああ!!それだ!!とわかりやすい表情をしてはいと言ってまた笑った。
変な客が来たよ?
厨房に言って加藤君に密告をする。
正確には世間話。
この雨だからせいぜいいさせてあげた方がいい。
加藤君は言った。そして厨房から客席を眺めてさらに
僕んちのネコも濡れてないかなぁ…
とぽつり・心配そうにつぶやいた。
万物に憐れみを示されます加藤様。
21匹のうち1匹が濡れても私はどうでもいいように思うけど、そうではないみたい。
加藤君はアイスコーヒーを手にして私がコーヒーに氷を入れてるのを見て
アイスコーヒーじゃないの??
と言ったから、猫舌が凍えてるからこうしたの。とカップに氷の入ったホットを見せながら言った。
なんというか…山中さんらしい発想だね。
ああ!!それか!!とわかりやすい表情をして加藤君が言った。
きびすを返し、加藤君の表情に少し笑いながら、心で少しチャーミングな彼に浮かれていた。
加藤君は客席を見てネコを心配したけど
実際はその先の外を見てたんだな…
ふとそんな風に思った
彼にコーヒーを差し出す。
彼は確かめるようにカップに口を恐る恐る近づけ、確かめるように一口。
次にひまわりのような笑みで私に何度も頷いた。
ある幸せな新婚夫婦の朝の一コマみたい。
でも彼もこの街のどこかに住んでいて、雨がやんだら自分の生活に戻っていくんだな。
雨はまだ降り続く。
雨の音を聞き続けてるとみんなに家があるのすら不思議に思えてきた。
雨が降ってる間は一番ここが居心地いいから
私たちはここから出ない。
でも外が晴れてれば?
加藤君んちの周りはいつも土砂降りの雨なんだろう。だからネコが出て行かない。
ここもずっと土砂降りだといいのに。
雨の音は案の定激しくなっていく。
あぁ…と絶望を漏らす窓辺の彼に絹江はニヤリと笑う
はぁ…私どうかしてる。
この雨で心配する場所なんか私にはない。
せめて私にもネコがいるならば。
…いや、きっと今は外にでて戦うことに疲れてるんだ。
そんな私の巻き添えにしてはいけないな。
絹江が厨房を横切りロッカーへ向かうと加藤君がすかさず
どうしたの?
と聞いてくる。
置き傘…余ってなかったかなって。
ホラ、加藤君も帰りまで降ってたら使いな?
私は傘を手渡して心の中で言う。
21匹。きちんと数えるんだぞ。
土砂降りでも外に出たがる人もいるから。
私はもうひとつの傘を持って客席の窓辺に座る彼の元へ向う。
続く