何しろ入院準備なんかしないで入院しちゃったから、メガネも下着もパジャマも何もなし。
この6日の手術~翌7日の昼過ぎまでは何も見えない状態で身体はちょっと傾けることができる程度。脳死の逆みたい。
左肩はだけてるような変な手術着みたいなの着たまんま。苦しくて寝付けない。
隣のお婆ちゃんが叫ぶ。
「お兄ちゃーん、お兄ちゃーん」って。まさか俺が見えているのか?俺はどこにその人がいるのかも見えない。
「お兄ちゃーん」は、朝まで続いた。平均しても20秒に1回くらいは叫んでる。夜消灯してから朝7時くらいまで。ずーっと!ホントにずーっと!
看護師さんが「ん?何々?なんて言ってんの?おにいちゃん?お兄ちゃんはここにはいないよぉ~」っ言ってるのにシカト。「お兄ちゃーん…」
「◯◯さん(お婆ちゃんの名前)は今おいくつ?」
「今……??」
「102歳でしょ?お兄さんはおいくつ?」
「6つ上だ」
「じゃ、お兄ちゃんは108歳だよ。まだいらっしゃるのかしら」
「………お兄ちゃーん!」
僕にはお婆ちゃんがもうダメだ、私はこのまま天国へ行くよ。お兄ちゃん待っててね。と言っているんじゃないかと思ったけど、看護師さんには「元気な婆ちゃんだね」とだけ言っておいた。
今度は聞き覚えのある優しい男の人の声。何度もいうけど、この時点ではコンタクト無しだから見えてないんです。音と雰囲気しかない、夢の世界みたいな感じ。
あ、この声は増井さん(麻酔医)だ。
「まだお兄ちゃんって言ってる!げんきだね~!」って明るい。
それで僕のとこへ来て、どうですか痛みは?なんていう質問もあったけど、このオシッコのパイプがね、嫌でしょ?ね?これは早く取ってあげるからね!と、さすが男!
そして消灯…お兄ちゃーんは続く。だけど、しばらくしたら、お婆ちゃん、2回だけ「私も行くよ~お兄ちゃーん」って言った!行くよって逝くよかな~と。俺の推測たぶん合ってるなと思いつつ、何だかこの部屋自体が天国にやけに近い場所にあるような気がして少し怖くなったですよ。
そしてやっと1日が終わります。
続く
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