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グラウンド外のベンチに座るイイジマも、もう部員の練習など目には言っておらず、この快走に息を呑んでいた。
この頃になると、保険の先生が、ケースケの安全を配慮するために、スポーツドリンクや、クールダウン用の水をケースケに渡し始める姿が見受けられるようになった。
ケースケは既に汗まみれで重くなったTシャツを脱ぎ捨て、上半身裸になって、ペットボトルの水を、走りながら頭に被った。
その絞られた体は、女顔に似合わず男性的で、ギャラリーの女性も釘付けになった。キャー、という声も聞こえた。
80周をクリアした頃には、さすがのケースケもペースを落とし始めたが、ギャラリーの精神状態も気が気ではなかった。
楽にお金がもらえると思っていたのに、これでは話が違う、とローレックス
今まで冗談半分だったギャラリーが、途端ヒートアップしていた。
誰もが、サクライケースケという男の可能性に飲まれていた。
俺も、ジュンイチも、胸にこもる熱いものに気付き、椅子から立ち上がり、固唾を呑んで、それを見守っていた。
あんな冗談半分なふっかけに、ここまでひたむきにやってくれる。このサクライケースケという男の、愚直なまでのひたむきさに。澱んだ流れの奥にある、宝石より輝く光に。
ガリ勉達は屈折しているのか、「もう頑張らないでいいよ」と、愚痴や、ひどいのになると野次を飛ばすのもいた。
しかし、それでももう、ケースケの頑張りに心打たれて、失敗に賭けているのに、ケースケを応援しているような、そんな奴もいるのは救いだった。
ケースケは辛そうだが、それでも普段の仏頂面を崩さないように努力しているように見えた。野次も歓声も全てお構いなしに、周回を重ねていく,crocs。
そして、ケースケが遂に100周のゴールに達した時、グラウンドのギャラリー、および校舎の窓から窺っていた生徒全員が、スタンディングオベーションした。
俺とジュンイチも、手を取り合った。
ケースケは、赤土のグラウンドに裸で倒れこんだ。
その時俺達は、同じ思いを感じていた。
途端に体の力がへなへなと抜け、俺達はグラウンド外のアスファルトにへたり込んだ。
「こ……恐かったぁ…ロレックス ミルガウス
…これで負けたら、300万の借金だったからなぁ」
「あ、あぁ……ダメだ俺、腰が抜けた……」
そうしてへたり込んだ相手の姿がとても可笑しくて……
気がつくと俺とジュンイチは、大笑いしていた。
恐いような、狂的な遊びを経て、俺達は狂ったように笑ったんだ。
男友達と、こんなに笑い合ったのは、初めてだった。
こんなに誰かと、沢山の人を巻き込んで、馬鹿な事をやったのも初めてだった。
この瞬間だけで、俺はもう、何年も昔から、こいつの事を知っているような――心のつながりを感じた。
本当に楽しくて、可笑しくて、心の底が震えるような心の高揚を確かに感じた。
そして、俺達はおのおのにメガホンを取って、揃って叫んだ。
「えー、ご覧のとおり、結果は、成功でーす!」
Another story ~ロレックス レプリカ
1-10(最終話)
成功に賭けた人間は、10人にも満たなかったので、ギャラリーが多くても、換金はすぐに済んだ。
むしろ、「俺は成功に賭けた!」と、言いがかりをつける連中の対応の方が大変だった。割符は、俺のへたくそな絵の他に、クラスの女の子から借りた、おもちゃのスタンプを押していたから、一つも偽装は通らなかったけれど。
そんな喧騒もどこ吹く風で、体中泥まみれになったケースケが校舎内に引き上げてくる。
グラウンドを出る際に、保険の先生に問診されたり、拍手を受けたりと、一日でヒーロー扱いだった
