「監査役等の独立性とは何か-監査役等の立ち位置との関係いかん-」
西 山 芳 喜
1.はじめに
本日は、皆様の前でお話しできる機会を作っていただきありがとうございました。いつもの通り、「監査役等は会社の代替的経営機関である」という私見(代替的経営機関説)に依ってお話しいたしますが、本日は、とくに、「監査役等の独立性とは何か」という問題に焦点を当ててお話しいたします。
「取締役の職務の執行を監査する」という監査役等(監査役・監査役会、監査等委員会、監査委員会)の役割(職務)を果たすに際して、誰に対する関係において、いかなる程度・内容・範囲について、独立性(独立した地位、態度、心得、見識、意思、意見、気概等)が必要なのか、という問題です。
監査役等の皆様のうち多くの方々は、すでに、様々な書籍・論稿などを学ばれ、いわば「理論上(ないし職務の性質上)当然のこと」のように、「監査役等の独立性は重要である」とか「監査役等は独立していなければならない」と認識・理解されているようです。
しかし、それはあまりにも曖昧で、正鵠を射ていない場合が多いように思います。従来の議論では、監査役等の立ち位置や役割、あるいは心得等に関する認識・解釈が示されないまま、また、他の監査制度、とりわけ公認会計士等の監査や内部監査部門による監査との違いさえも明らかにされないまま、さらにいえば、監査と検査・監察等との違いも明確にされないまま、監査役等の独立性が当然のこととして説明されているからです。
端的に言えば、「監査」という文字のみを見て、監査役等は監査機関なんだから、いわば「理論上(ないし職務の性質上)当然のこと」として、より具体的な説明もなしに、監査役等の独立性が必要なのだと説明しようとされています。これでは、監査役等の立ち位置・役割・心得等が曖昧なままなので、正鵠を射るはずはないのではないでしょうか。
すでにお気づきのように、監査役等の独立性を論じるためには、その前提問題として、その立ち位置や役割、あるいは心得等に関する認識ないし解釈が必要になるのです。また、その理解を正確にするためには、他の監査制度との違いも明らかにする必要がありますし、さらには、監査と他の類似の観念との違いもまた明らかにすべきなのです。
本日は、監査役等の立ち位置、役割等に関する私見の要旨を述べた上で、監査役等の役割(職務)を果たすに際して、誰に対する関係において、いかなる程度・内容・範囲について、独立性(独立した地位、態度、心得、見識、意思、意見、気概等)が必要なのかについて、お話しいたしますが、まず、誤解の要因となっている「監査」の観念、また、他の監査制度との違いについて説明することから始めます。
2.監査役等の監査の特性
「監査(audit or auditing)」という語は、語源という意味では、ヨーロッパでは非常に古くから使われていましたが、わが国では、戦後の1948年の証券取引法の制定まではその例がありません。また、監査の活動という意味では、19世紀のイギリスにおける最初の株式会社法の制定と、それに続くイングランド勅許会計士協会による監査業務の独占を図ろうとした歴史を踏まえると、現代的な意味における「監査」は、公認会計士等による会計監査、決算監査ないし財務諸表監査におけるそれを意味するものと思います。
つまり、企業の経営者の作成した財務諸表が、一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に準拠して、企業の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況をすべての重要な点において適正に表示しているかどうかについて、社会的に独立した立場にある監査人が自ら入手した監査証拠を照合し、それに基づいて判断した結果を意見として表明することなのです。その要点は、公認会計士等による「会計記録の照合」を通じた活動であり、かつ、財務諸表の適否に関する意見の表明を目的とするのです。
また、当然のことながら、公認会計士等の監査は、この意見表明に止まり、監査人が財務諸表等の作成者等の行動を「是正」する役割を負うことはありませんし、取締役会等の審議に加わって意見を述べることもありません。
なお、監査と類似する検査という語がありますが、これがより詳細な調査・評価の活動に対する一般的・汎用的な表現であるのに対し、公認会計士等の監査は、監査人の資格、監査目的、監査方法等に専門性があり、用いられる機会が限られます。また同様に、監査という語は、警察行政的な目的を持った行政法上の用語である監察という語とも異なります。
他方、監査役等の監査は、「取締役の職務の執行」という人間の行動を監査の対象としています。しかも、監査役等の権限、とりわけ取締役会等への出席と制限のない意見申述の権限からみると、端的に言えば、個々の取締役の具体的な行動(発言等を含む)に止まらず、「経営」そのものもまた監査の対象となっています。しかも、制限のない調査権や非常時の会社代表権からみると、監査役等の活動の内容は、概括的にいえば、いわば「監視」と「是正」の活動なのです。なお、監視と是正という表現については、誤解のないように後に説明します。
以上のように、監査役等の監査の意義と内容は、公認会計士等の監査とは全く異なるのです。にもかかわらず、わが国では、会計監査、業務監査、監査原則、監査基準、監査品質、監査環境など、公認会計士等のための監査理論が監査役等の監査の説明に流用されることが少なくないのです。これも、監査役等の監査に対する誤解の一因となっています。
また、わが国では、会社内部に比較的多数の経理関係の従業員を確保しているため、その一部を内部監査部門として内部監査を担当させることが少なくありません。もっとも内容的には、イギリスで公認会計士等が担当する照合作業を基礎とする業務監査と同様のものです。その意味では、内部監査部門による内部監査は、いわゆる業務監査なのです。
なお、監査役等の監査を業務監査と解される見解もありますが、照合作業を要しないため、本来の性質が異なるほか、その目的・範囲からすれば、より広範な「経営監査」ないしそれに近いものと解すべきものです。その意味では、監査役等の監査は、監査論にいう監査の観念では説明できないのですが、あえて表現すれば、経営監査と呼ぶことができます。なお、イギリスでは、公認会計士等による照合作業を伴う経営監査も実施されていることを付言します。
3.監査役等の立ち位置・役割等の特性
(1)監査役等の立ち位置・役割の理解
前述のように、監査役等の役割(職務)は、法規定のうえでは、監査でありますが、一般の監査論によって説明することには困難が伴います。監査役等の役割をあえて監査として説明しようとすれば、きわめて特殊な法定の監査であり、いわば「是正機能のある特別な法定の監査」と解すべきものです。そのため、内容的には、経営監査とでも呼ぶべきものであります。
しかし、それだけでは、監査役等の役割を具体的に示すことにはなりません。監査役等の監査は、取締役会への参画等を通じて、会社の経営に資するものであって、個々の取締役等の不正・誤謬の発見などを活動の目的としていません。むしろ取締役会・代表取締役と同様に、「会社の信用を維持し、かつ業績の向上を図る」という共通の経営目的に仕えるものといえます。
むろん、監査役等は、業務執行者ではありません。監査役等は、あくまで、取締役等の職務執行を監視し、必要な場合に是正すべき役割を有しています。ただそれを一般の監査(会計士監査)の観念で説明しようとすることに無理があるのです。それゆえにこそ、監査役等の広範な職務権限がいかなる制度観のもと、また、会社組織上、いかなる立ち位置に立って、さらには、どのような観点から行使されるべきなのかが法解釈として検討される必要があるのです。
なお、私見は、監査役等の立ち位置として、「監査役等は、本来、監査機関ではなく、代替的経営機関であり、会社の経営機関に組み込まれた安定装置(built-in stabilizer)として、また、最上位の監視者・是正者としての立場に立つ」と考えています。
(2)コーポレート・ガバナンスの意味
ここで、前提問題として、コーポレート・ガバナンスとの関連で、監査役等の立ち位置を示します。コーポレート・ガバナンスの問題は、本来、会社の業務執行を担う取締役・役員等を誰がいかなる立場から監督するのかという問題ですが、同時に、どのような観点(経営観・価値観)から、誰のために監督するのかという問題でもあります。
欧米の諸国では、①株主総会の経営介入権を依然として維持する仕組み(英国)、②執行と管理の分離という見地から、取締役会と取締役の任免権を持つ監査役会(大株主会)(わが国の監査役会とは異質の制度)という二層式の経営機関の仕組み(ドイツ・フランス)、③取締役会の超過半数を社外取締役が占め、かつ、彼らが取締役兼CEO等の人事権をもつ仕組み(米国)などがありますが、わが国の監査役等はそのいずれとも異なります。
なお、指名委員会等設置会社の監査委員や監査等委員会設置会社の監査等委員は、取締役として選任されていますが、経営の監視・是正という職務の重要性に鑑みると、社外取締役であると否とを問わず、また、選定委員とされているか否かを問わず、取締役としてではなく、つねに、監査委員・監査等委員としての立ち位置とその判断・活動を優先しなければならないと解すべきであります。
前述のコーポレート・ガバナンスの見地からすれば、法解釈上、社外取締役や監査役等のように、代表取締役(社長)の部下ではないとみなされている者の存在は重要です。取締役会における代表取締役・業務執行取締役等の提案や報告の内容が適切であるか否かは、出席者との質疑応答によって客観的に吟味される必要があるからです。それゆえ、取締役会の場における社外取締役や監査役等の役割に注目する必要があるのです。
(3)社外取締役の立ち位置と役割の理解
ここでは。【資料・1】を参照しつつお話しいたします。
アメリカの大企業では、通例、取締役の8割程度の超過半数(super-majority)が非業務執行者である独立・社外取締役(independent & outside directors)によって構成されています。しかも、社外取締役の中には分析・助言等を担当する各種の専門家が含まれており、主に批判的な意見を述べるため、取締役会に直属する会社秘書役(company secretary)を通じて、各自の専門に応じた会社情報を社内から収集する調査権が認められています。
また、社外取締役のみで構成される指名・報酬委員会が自らのほか、業務執行者である取締役(CEO、CFO)に対する人事(提案)権を有していることから、取締役会は監督権者として、彼らの提案や報告を吟味し、また、報酬を決定するのが主要な役割となっているようです。
これに対し、わが国の大企業の社外取締役は非常に数が少なく、また、非常勤であることが通例であり、かつ、法律上も個別の調査権を有しておりません。それゆえ、取締役会に直属し、社外取締役が具体的な指示を出せる内部統制部門が整備されていないのであれば、結果として、社外取締役が必要と考える会社情報を収集して、会社の実状を把握することが困難な現実があります。また、社外取締役は、通例、会社との間で責任限定契約を結んでおりますが、会社の業務の執行に関わった場合には、社外取締役としての資格を失うとともに(会社法2条15号イ参照)、併せて、当該責任限定契約が失効しますことから(会社法427条2項)、業務執行中の取締役や従業員等と接触することを避ける傾向があります(例外としての利害対立の監督行為(会社法348条の2参照))。その結果、社外取締役が得る会社情報は、取締役会等を通じて、代表取締役等により提供されるものに限られることになるのです。
そうであれば、十分な情報が提供されていない場合に、社外取締役は取締役会で一体何ができるのでしょうか。議題・議案となった経営上の諸問題について、自己の見識・知見に基づいて一応の意見を述べることはできても、代表取締役や業務執行取締役の活動を監視し、監督するというガバナンス上の役割を担うことができるのでしょうか。疑問の余地なしとしません。
むろん、取締役会によるモニタリングの実効性を確保するため、社内の重要な情報がきちんと取締役会へ提供されていく仕組みとしてのリスク管理体制ないし内部統制システムの構築とその整備がますます重要となることは言うまでもありません。
(4)監査役等の立ち位置と役割の理解
これに対し、監査役等は違います。監査役等が取締役会に出席するのは、取締役全員(社外取締役も含めて)の職務の執行の状況を監視(内実としては、見守り)し、必要に応じて、是正(内実としては、説得)すべき「職務」を遂行するためです。
代表取締役等の提案や報告の適否を質疑応答によって客観的に吟味するとともに、会議に参画している取締役に対し、取締役会構成員としての職務の履行を促すことを通じて、取締役会の活性化を図ることもまた、監査役等の主要な役割となっています。つまり、監査役等は、たんなる出席者ではなく、会社の健全な経営を促進する役割を果たすべき存在であるといえます。その意味では、明らかに社外取締役とは立ち位置が異なります。
むろん、監査役等の制度は、会社の管理と執行とを区分するための制度ではありません。つまり、管理者ではなく、また執行者でもないのです。たとい非常勤の社外監査役・選定監査委員・選定監査等委員であっても、いわゆる往査等に参加し、あるいは、監査役会等で情報の共有を図ることによって、業務執行の現状を確実に把握し、そのうえで、必要があると思えば、経営の健全化や安定を図るために積極的に活動(質問・意見・対話・説得等)すべき立場にあるのです。
それゆえ、監査役等は、常勤であると否とを問わず、また、社外監査役・選定監査委員・選定監査等委員であると否とを問わず、基本的な姿勢としては、業務執行取締役等の活動を監視(内実としては、見守り)するため、積極的に実地の調査を行い、その職務執行のありようを確認すべき職責を負っています。その意味で、取締役会の場に活動が限定される社外取締役とは立ち位置ばかりでなく、その役割が異なるのです。
なお、監査委員・監査等委員であっても、選定監査委員・選定監査等委員でない場合がありますが、監査委員会・監査等委員会に参加し、その議事への参画を通じて、他の委員との情報の共有を図ることなどからすれば、たんなる社外取締役とは一線を画する存在であります。それゆえ、彼らは、取締役会の議事(相談・審議等)では、社外取締役としではなく、監査委員・監査等委員としての立ち位置を優先させて、その役割を果たさなければなりません。
また、取締役である監査委員・監査等委員の監査はいわゆる自己監査ではないかとの批判があるようですが、一般の監査と監査役等の監査との違い(監視・是正の活動(対話・説得)の役割)を認識しないものであります。監査役等の立ち位置・責任負担の枠組みに鑑みると、監査の効力に何ら問題はなく、あくまで、監査役等の活動(作為・不作為)に任務懈怠がある場合の責任の有無の問題にすぎないと思います。
4.監査役等の独立性の特性
外形的に見れば、監査役等は、地位および職務の独立性があり、誰の指揮命令・指示も受けず、主体的な活動が許される「重役」であります。しかしながら、広範な職務権限があると認識しても、自らの使命を自覚できなければ、実効的な働きはできないのです。
「監査役等は、本来、監査機関ではなく、代替的経営機関であり、会社の経営機関に組み込まれた安定装置(built-in stabilizer)として、また、最上位の監視者・是正者としての立場に立つ」という私見の立場からすれば、このような困難な職務を遂行するためには「使命」を自覚する必要があります。そのために最も必要なことは、監査役等が活動・あるいは発言の視点・論拠として、「代替的経営観」を持つことであろうと考えています。
ここでは、【資料・2】を参照しつつお話しいたします。
(1)会社本位
市場本位も会社本位もともに、経営観を基礎づける大きな要因です。つまり、市場本位(業績・配当・株価第一の経営理念)の立場も会社本位(信用、財産、人材を育む経営理念)の立場もともに経営観であり、いずれも経営に資する目的を持った観点であって、いずれかが正しいというようなものではありません。
市場本位の立場は、アメリカの大企業にみられるようなコーポレートガバナンス・システムとしての認識(価値観)です。社会的実在としての企業の固有の利益よりも、利害関係者(とりわけ株主)の利益を優先して考え(株主利益の最大化)、また、資本市場との関係から、自らを株主の代理人ないし市場の代弁者と認識するような立場です。それゆえ、その認識(価値観)の優先度は、「会社の信用<従業員<財産<収益<配当<株価」となる傾向があります
他方、わが国では、企業・組織の実在を認識するとともに、その運営にあたっては、「上命下服」によるリーダーシップ(人治主義)ではなく、「上和下睦(かみやわらぎ、しもむつむ)」による「万機公論」型の組織運営を保ってきた長い歴史があります。また、商家の伝統としても、主人と奉公人との関係を保持しつつも、家族主義、法治主義などの継承が認識されています。
すなわち、企業人としての従業員を育み、かつ、従業員たちも、規則・慣例・職掌等に従いつつ、上司・従業員間の実質的な意見交換を深めることで、ある意味で従業員主導の業務執行がなされているといえます(例、課長中心主義)。また、自立性・自律性の保持(勤勉・倹約・正直・自立・敬神・崇仏・始末などの心得)という企業文化の特徴が継承されることが少なくありません。
その意味で、わが国のコーポレートガバナンス・システムの基礎には、営利企業でありつつも、人材を大切に育む経営理念として、また、企業文化・慣習としての労使協調、社会貢献を重視するわが国特有の会社本位の立場が熟成され継承されているのです。それゆえ、その認識(価値観)の優先度は、「会社の信用>従業員>財産>収益>配当>株価」となる傾向があります。
(2)経営観の代替性・選択性
前述のように、取締役と監査役等とは、ともに、経営の受任者として、「会社の信用を維持し、かつ業績の向上を図る」という経営目的を共有します。そのうえで、取締役が市場本位の立場に傾くことがあっても、監査役等は、本来的に、経営の健全化や安定のため、会社本位の立場を保つという選択が可能なのです。それゆえにこそ、会社の経営機関に組み込まれた安定装置としての監査役等の活動により、経営の健全化・安定(バランス)が図られるのです。
もっとも、監査役等の独立性(独立した地位、態度、心得、見識、意思、意見、気概等)は、代替的な経営観によって支えられるとしても、その活動は、誰に対しても同一の役割を果たし、また同一の対応をするわけではありません。監査役等が対応する「人」の特性に応じることになります。
(3)代表取締役(社長)に対する独立性
監査役等と取締役とは、右手と左手の関係のように、「対(つい)」の関係にあります。とくに代表取締役(以下、社長と表現します。)とは、ツートップの関係にあると考えるべきであります。社長と監査役等だけが制限のない調査権と是正権を有し、かつまた代表権を有するからです。
換言すると、監査役等は、社長と同じ経営者・会社代表者としての視点から、また、同等の責任(連帯責任)を負う者として、付かず離れずの距離感を持って、会社全体を見渡す必要があると同時に、国・地域社会の中における「会社自体の立ち位置・役割」にも目を配る必要があります。
個人としてではなく、経営者としての視点、代表者としての視点から、なにを見るべきなのでしょうか。諸見解があると思いますが、私見では、個人の思想信条とは別に、「日本」あるいは「世界」の企業社会の倫理観・道徳観・宗教観などの有り様であろうと思います。企業は、それらを無視して勝手な活動はできないからです。
一例を挙げれば、ある企業において、いわゆる反社との関係などのほか、児童虐待や人権侵害が行われていることが判明すれば、自社は、そのような企業と取引関係を続けることはできないのです。それゆえ、監査役等は、そのような企業との関係を絶つ対応をとるように、毅然とした態度を示しつつ、社長等と協議すべきすべきなのです。
他方で、職務権限の側面から見れば、監査役等は、社長に対しても監視(内実としては、見守り)・是正(内実としては、説得)すべき「最上位の是正者」であります。それゆえ、社長の側に、監査役等の立ち位置や役割について誤解(自らの地位を脅かすのではないかという疑念)を生じることも少なくないと思います。そのような誤解が生じたままでは、監査役等の活動に支障が生じますし、本来の役割(会社の経営の健全性・安定性を図る安定装置としての役割)が果たせません。それではどうするのか。
解決の可能性があるのは、社長との協働であります。独立性が損なわれるとの非難があるかもしれませんが、監査役等の制度設計上、そのようなリスクは予定されていると思います。それが連帯責任という仕組みです。監査役等には、社長を監視せず、また、是正もしないという選択肢はないのです。そのため、他の取締役と比しても、社長との距離感はむしろ近くならざるを得ないのです。その際の出処進退は、監査役等の使命の自覚いかんによります。
それゆえにこそ、発想の転換が必要となります。つまり、社長の部下である業務執行取締役よりも社長の近くに位置し、その擁護者・育成者としての立ち位置を認識すると同時に、社長と連帯して責任を負い、運命を共にするという覚悟が必要になるのです。
監査役等は、社長の不正の発見・摘発を役割としておりません。また、社長の後継を望む者でもありません。むしろ、監査役等は、孤立しがちな社長のいわばパートナーとして信頼されるべきであります。そして、その信頼を基礎として、社長がその職務を全うできるように、また、社内融和を図り、役職員のやる気を生みださせるため、社長が自ら「上和下睦」の精神を徹底して社内業務組織の活性化を図るよう、社長を応援し、また育む役割があります。その意味で、監査役等は、経営の健全化や安定を図るため、付かず離れずの距離感を持って、社長の判断・活動を「補完」し、社長と積極的に「協働」すべき立場にあるのです。
もっとも、経営の十全を図るためには、社長の経営観に異論なく同調することはできません。むしろ、異なるパラダイムの観点から代替的な経営観を持つべきであります。監査役等が、経営の安定装置としての役割を果たすため、会社全体の大局的な見地から、会社の運営や業務の執行に関わる意見を直言することに制限はないからです。ただ、実際には、「ものの言い様」という問題はあるので、常日頃から、監査役等がみずからの立ち位置や役割を社長に説明することで信頼を得る努力をすることが肝要でありましょう。また、監査役等が社内の秩序を損なうことなく、社内の現状を容易に把握するための活動を促進するためにも、社長の理解と信頼を得ることが必須であり、そのための努力はなすべき職務であると認識すべきです。
(4)支配株主・親会社に対する独立性
会社にいわゆるオーナー(支配株主・親会社)がいる場合、監査役等は、業務執行者としての取締役の「お目付役」として選任されているようです。もっとも、ここで重要なことは、オーナーの認識としては、取締役よりも監査役等への信頼が厚いということです。監査役等は、そのことをきちんと認識すべきであります。そのうえで、監査役等として、オーナーの信頼にどう応えるべきかを考える必要があります。
もっとも、オーナーの意向に沿って活動するとしても、自らの経営責任(対会社責任・対第三者責任)に鑑みると、監査役等としての本来の役割を放棄することはできないのです。それゆえ、是々非々の判断を怠りなく行い、経営の安定装置としての監査役等の役割を全うする必要があります。そのため、時に、オーナーを説得するという活動も必要となりましょう。
また、オーナーの意向が判明しない場合であれば、監査役等の側から、頻繁に面談を求め、直接に、また、事前に、その意向を知る努力をすべきでありましょう。これは、経営者としての視点から、私心なく、会社の健全性や安定を図るという会社本位の判断・行動をするためであります。むろん、このような監査役等の認識や役割について、オーナーに説明し、理解を求める努力も必須のことであります。
このように、オーナーが社長を兼ねる場合であっても、その立ち位置や役割が変わることはありません。通例の社長との関係に比して、むしろ、オーナー兼社長の信頼が厚いことから、頻繁に面談し、直接に、また事前に、その意向を把握することができましょう。
そのうえで、オーナー兼社長の経営方針、施策等について、会社の伝統や文化・慣行等のほか、経済的合理性、あるいは、会社の健全化・安定への影響等について検討し、会社にとって大局的な利益を損なうことのないように、私心なく、直言する必要があります。なお、関係がより深いため、自主性をなくすことなく、一定の距離感覚を持って、自らを律して、行動・発言することに留意する必要があります。
(5)取締役会・業務執行取締役に対する独立性
重要なポイントは、「なぜ、取締役会に出席するのか」、「なぜ、発言するのか」、「どの様な視点で発言すべきなのか」、「なぜ、取締役の活性化を図るのか」、などについて、経営の安定装置としての自らの立ち位置と役割を思い起こし、強い自覚・意欲を持つことであります。
わが国では、個々の取締役には、固有の調査権や是正権はなく、また、取締役会の監督機能は実際上、十全とはいい難いことや、社長の部下である取締役に対して、従業員気質から脱皮し、経営者としての自覚を持つように促す者は、監査役等以外にはないことにも留意する必要があります。
また、監査役等は、取締役会の審議事項・報告事項等について、場合により、取締役と連帯して法律上の責任を負うべき立場にあることから、予測可能な事態(損失・リスクの発生)に対処すべき善管注意義務があります。そのため、情に流されず、独立自尊の思いをもって、独立した立場から冷静に合理的な判断をする必要があります。
(6)会計監査人に対する独立性
会計監査における監査役等の役割は何でしょうか。会計監査人が設置されていない場合には、会計監査ではなく、決算の手続が適切かどうかを検査し、確認するに止まることになります(決算手続の検査)。他方、会計監査人が設置されている場合には、監査役等には、会計監査の協力者として、独立した立場から、いわゆる非会計情報の会計監査人への提供という役割があります。
他方で、監査役等は、会計監査人に対し、報告を求め、かつ報告を受ける立場にあり(会社法397条)、会計監査人に対するいわば唯一の質問者であることからすれば、期中監査等の報告を受ける際に、つねに、独立した立場から、「何か問題はありませんか」という質問をする必要があります。なお、会計監査の「遅れ」、「問題発生」等について、監査役等には、最終的責任者としての立場がありますので、年間を通じて、月次監査の報告会などを開催し、会計監査人との緊密な関係の保持が必要となります。
(7)社外取締役に対する独立性
前述のように、構造的な側面では、監査役等が裁量権を認められた株主の受任者であるのに対し、社外取締役は、株主の代弁者としての立ち位置があります。また、機能的な側面では、役割や権限(調査権限等)の違いが顕著であります。
前述のように、わが国の社外取締役は、固有の調査権・是正権を有しないので、社外の視点をもって取締役会に出席し、意見を述べるとしても、業務執行の現場を見ることはなく、また、従業員等と対話することも求められていません。また、その任期が短いため(短期的視点)、地位に拘泥するおそれがあります。
しかしながら、監査役等からみれば、監査(監視・是正)の対象者でもあっても、実際には、代表取締役等への監視(内実としては、見守り)・是正(提案、説得)、あるいは取締役会の活性化への支持と協力を求める必要があり、そのための連携を積極的に図るべきであります
(8)従業員に対する独立性
監査役等は、経営者としての視点からすれば、社内の融和のため、代表取締役等と同様に、自ら「和む」(なごむ)努力をする必要があります。そのため、経営者としては当然のことですが、監査役等の側から、従業員に「挨拶」をし、「感謝」の気持ちを表わすことなど、日頃からのコミュニケーションを絶やさないことが肝要です。また、従業員の信頼を得るため、監査役等の立ち位置や役割等のほか、自らの経営観(人材育成、労使協調、社会貢献、健康経営、環境保護等)を積極的に説明する必要があります。
もっとも、従業員の声を聞き、会社の実状を把握するため活動には、工夫が必要となりましょう。つまり、社内の内部規律(上下関係)を尊重する必要があることから、業務執行組織の最上位者としての社長との事前の交渉・相談により、その了解のもとで、透明性のある活動をするべきです。そのうえで、法律上の権限の行使としてではなく、対話による調査と説得による是正に心がける必要があります。
(9)株主・機関投資家に対する独立性
今後、監査役等にも、社外の利害関係者に対しても、応接の精神と技量が求められることになります。監査役等は、取締役と連帯責任を負うべき経営者としての立場あることのほか、取締役等とはパラダイムが異なる代替的経営観を持って、二元的価値観(市場本位と会社本位)の均衡を図ることを通じて、健全な経営を保持し、もって、経営の安定装置としての役割を果たすことを示すべきであります。
とりわけ、監査役等は、「人」の活性化を促すことで、生産性の向上を意図し、もって、業績の向上に寄与するものであること、また、独立した立場に立って、代替的経営観に基づく活動ないし発言は、株価や収益ではなく、むしろ、信用の保持、人材の育成、健康経営、労使協調、社会貢献等の促進にあると考えていることを説明すべきです。
なお、外国人の株主等に対しては、日本監査役協会が推奨する英文名称だけではなく、監査役等の訳語として、独立した立場を示すため、supervisory director(指導取締役) も用い、また、役割については、会社のBuilt-in stabilizer (企業の安定装置)の語を用いて説明すべきです。
5.監査役等への期待
現在、国の内外の機関投資家等から、監査役等の信頼性と有用性に関する厳しい批判や疑問が寄せられています。むろん、これらの批判や疑問に対しては、すべて反論の余地があると思いますが、これらに直接、対峙し、自らの信頼性と有用性を主張できるのは監査役等の皆様ご自身の自覚・覚悟以外にありません。
監査役等としての立ち位置やその役割、あるいはその独立性(独立した地位、態度、心得、見識、意思、意見、気概等)について、監査役自身が冷静に点検・評価し、自ら、制度の原点に立ち戻って自己変革を続けるよりほかに途はないのです。持続的な成長をめざす経営の健全化や安定のために設置された監査役等の意義や仕組みを冷静に見つめ直すとき、自ずから、監査役等には、なぜ使いこなせないほどの広範な権限が付与されているのかという疑問が生まれることになります。そして、このような疑問に思い至ったときにこそ、監査役等の立ち位置や役割・使命を自ら悟られるものと思います
監査役等の活動について、私が最も重要と考えておりますのは、「人」を育ててきたわが国の商家の伝統・文化・慣例等の継承です。そのためにも、監査役等の皆様が、「人」を重視する経営観を持たれることを祈念しています。
役員や従業員を「人」として尊重し、自ら「和む」ことが肝要であります。そのためには、彼らへの感謝によって、その思いが表現されるべきであります。
また、その上でなすべきことは、①「人」を守ること(役員・従業員の健康・安全/健康経営、環境経営など)、②「人」を育てること(役員・従業員の企業人としての教育・研修)、③「人」を活かすこと(役員・従業員の自主性・やる気)であり、つねに役職員の動向に対する「センサー」を働かせて、役職員の本音を知り、なし得ることをなすという全力投球の精神を持つことが肝要であります。
このように、監査役等の皆様には、「人」を生かす日本型企業統治システムの継承を図るとともに、その「要」を担う気概を強く持っていただきたいのです。そして、その成果として、監査役等の信頼性と有用性を実証していただくことを心から希望しております。
【資料・1】 (略)日米の会社組織・社外取締役制度の異同(通例)
【資料・2】 (略)監査役等の経営観の代替性・選択性
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