今回から未発表の句を掲げることにする。これまでと大きく変わるのは、同一のテ－マないし関連事項をまとめて作句していくつもりである。
　第一回は沖縄本島である。沖縄本島は二度訪れている。正確には三度だが、初回は現役時代の一回で、先輩とともに出張。いわば用務のために訪れたもの。なので、観光で訪れたのは二度。１９９８年１１月と２００２年５月の二回。

第２０７句は次の通りである。
あの首里が焼けたと知りて月さむし（桐山芳夫）
　私が沖縄本島を訪れたのは２３年前。その中で印象に残っているのは琉球王国の居城だった首里城。あの美麗な首里城が焼けたとは。一昨年（令和元年）の１０月末。テレビで大々的に報じられ、信じられない思いに駆られた。

第２０８句は次の通りである。
　　晩秋か首里城映ゆる人まばら（桐山芳夫）
　人気の首里城は観光客でいっぱい。正殿前はごったがえしているだろうなと思っていた。ところが、意外にも人影はまばらだった。これはきっと、私が首里城の坂をあがっていったのが確か晩秋だったためだろう。「晩秋か」は「晩秋のせいか」のつもりである。琉球王朝が成立する前には、あの沖縄には色々な王朝があったような気がする。

第２０９句は次の通りである。
　　早くも日落ちる気配ぞ首里正殿（桐山芳夫）
　実際に晩秋の落日を覚えた記憶はない。が、さすがに早々に落日の気配を感じとっていたと思う。ともかく、あの美麗な首里城の正殿前には観光客は少なく、私にとってはゆっくり首里城を拝めて好都合だった。

第２１０句は次の通りである。
　　晩秋の長城に似し今帰仁城（桐山芳夫）
　今帰仁城は「なきじんじょう」または「なきぐすく」と読む。琉球王朝の首里城が成立する前にあった北の王朝。城はなく、城跡である。私は万里の長城に行ったことはないが、今帰仁城は中国の万里の長城を思わせる城跡。多分その長城の影響を受けて造られた城跡と私は思っている。「魏志倭人伝」に登場する倭人の卑弥呼はこの場所ではないかと思っている。

第２１１句は次の通りである。
　　　晩秋の石門に女王卑弥呼あり（桐山芳夫）
　今帰仁城の石門の向こうに三世紀に生きた女王卑弥呼の世界が見えるような気がする。中国の「魏志倭人伝」は、拙著「真正面からの魏志倭人伝」（碧天舎刊）に書いたように、方位も距離も正確に読めば、沖縄本島しかあり得ない。いくら古代でも大海に乗り出すのに方位不明では不可能。

（２０２１年２月１５日）

桐山芳夫44