その日は疲れが出たのか、
不安ながらも、まとまった睡眠を取れた気がしました。


2月17日(金)

10時過ぎ頃。
診察に呼ばれました。

子宮口、開いているかな・・
すごく緊張しました。

内診台に座り、ラミナリアが外されました。
その後、容赦ない内診。
「ゆっくり深呼吸していてくださいね」と看護師さんに言われ、
痛みに耐えながら必死で呼吸を整えました。

その後、「子宮口2cmくらい開いてるから、陣痛つけるお薬を入れましょう。」と言われ、
膣に薬を入れられました。

薬を入れて、すぐに陣痛が来る人もいれば、
1日2日かかる人もいるそうです。
こない場合は、3時間ごとに薬を入れます、と言われました。

先生から、「羊水ほとんど残っていない」と話があり、
ああ、やっぱり奇跡は起こらなかった、と妙に落ち着いて話しを聞いている自分がいました。

願うことはただ一つ。
どうか赤ちゃんが苦しまずに生まれてきてくれますように。



部屋に戻ると、ひどい生理痛のような痛みがありました。
内診があったためだと思います。

ベッドに横になって、ちょっと気持ちを落ちつけよう、と思い、布団に入りましたが、
恐怖のせいか、なかなか痛みが治まらなくて。
気持ちはどんどん不安になっていきました。

しばらくして助産師さんが点滴に来てくれました。
昨日の21時から禁食のため、補液を点滴するとのことです。

そして、「痛みが来だしたら、ナースコールしてくださいね」と言われました。


陣痛がどんな痛みだったか。
覚えていたつもりだったけど、いざとなってみると、よく分からなくなってしまって。

波が来ても、これが本当に陣痛なのか自信が持てず、
まだまだこんなもんじゃないはず、とか考えたり、
ナースコールをしていい痛みなのか、なかなか決心がつかなかった。

ただ、怖かったのか、痛かったのか、足の震えが止まりませんでした。
痛みよりも、この震えのほうが怖かった。

テレビに集中しようとしても、美咲の写真やムービーを観ても、
パパに電話しても、母さんに電話しても、
全然止まらなかった。

おかげで、恐怖心はどんどん大きくなっていきました。


痛みよりも恐怖心に耐えきれなくなって助産師さんを呼ぶと、
「ちょっと内診してみるね」と。

診てもらうと、
「進んできているから、分娩室の近くの部屋に移動しましょう」と言われました。

進んでいるとは思わなかったので、びっくりしました。
まだまだ痛みはピークではなかったし、
時間も全然経っていなかったから。

震える足で車いすに乗りました。

「二人目なのに、なんでこんなに怖いんだろう」と助産師さんに言うと、
「みんな怖いよ。大丈夫だよ。」と言ってくれました。


その後、大部屋の一番奥のベッドに連れていかれました。

「トイレに行きたい」と言うと、
「赤ちゃん降りてきているから、そう感じるのかもしれない。
トイレで赤ちゃんが出ちゃうかもしれないから、我慢できるかな?」と言われました。

もうそんな状況なのか・・・とびっくりしつつ、うなづく。
「もし我慢できない時は呼んでね。一人で行かないでね。」
「何かあったらすぐに呼んでね」など言われ、
一人になった。

久しぶりの陣痛。
美咲の時、どれくらいの痛みだったのか、
今の痛みは、美咲の時のどの時点の痛みと同じなのか・・・
そんなことを考えた。

ほんとのところはどうか分からないけど、
「美咲の時は、まだまだこんなもんじゃなかったはず」と考えながら、ひたすら耐えていました。

でもやっぱり、痛かった。
波がくるのが怖くてしょうがなかった。
波がくると逃げ出したい気持ちに駆られた。
でも逃げられなくてパニックになりそうになった。

点滴の棒につかまりながら、必死に耐えた。

一人になるのが怖くて、
「水が飲みたい」とか言ってみた。
「うがいならいいよ」と言われ、お水を持ってきてもらう。

水が冷たくて、気持ちよくて、口に含むだけでも満たされました。

その後も、かわるがわる看護師さんたちが様子を見にきてくれたので、
あまり一人で耐えた時間はなかったような気がします。

今回意識したのは、
痛みが来ている時にお腹の力を抜くこと。
助産師さんに言われて、意識してみた。
その方が早く進むなら・・・と思い、ちょっと辛かったけど、
赤ちゃんが降りてくるのをイメージしながら、力を抜いてみた。

波がおさまると、吐き気がした。
「気持ち悪い」と看護師さんに訴え、洗面器のようなものをもらう。
再び波が来たので、力を抜いて耐えていると、
ズルズルッ・・・と何かが降りてくるのを感じた。
そして、オムツに落ちるのが分かった。

「あ!!なんか!でた!!赤ちゃんかも!!!」と必死で訴えると、
そのまま内診になる。

「出血だったよ」と言われるが、
分娩室に移動しましょう、ということになり、再び車いすへ。

起き上がると、再び吐き気が・・・。
目の前が真っ暗になり、「貧血かも」と言うと、
「顔真っ白だね」と言われる。

分娩台に横になると、不思議なことに痛みはそんなに感じなくなっていた。
さっきまで感じていたいきみも、ほとんどなくなっていました。
「あれ、陣痛おさまっちゃった?」って思ったほど。

だけど、お産は着々と進められていき、
「次に痛みが来たらいきんでみて」などと言われる。

あ、痛いかも、と思った時、いきんでみるけれど、
いきみがないから、そんなに力強くいきめない。

すると先生が、おもむろに手を入れました。

それはもう・・・・地獄のような瞬間でした。

思わず抵抗したところ、
「だめだめ!足の力抜いて!!」と言われましたが、
そんなこと無理だよ!!!と言いたかった・・・

どうやら先生は、赤ちゃんの向きを変えていたようです。
お腹の中で横になっていたようなので。
「こうやって誘導してあげなくちゃ」と助産師さんに説明をしていました。

なんて強引な誘導なんだろう・・・と思いました。

その後、何回かいきんだ後、
「赤ちゃんもう膣のところまで来てる。もう少しだからね」と言われました。

いきみ方がちょっと分かってきたので、
股間の方に力を入れて、必死でいきみました。

美咲の時と違って、赤ちゃんが降りてくるのがはっきり分かりました。
陣痛の時間も短かったし、まだまだ色んな感覚を感じる力が残っていたのかもしれない。

そしてついに、出産の瞬間。
力を振り絞って、長くいきんだ後、
つるっという感じで赤ちゃんが出てくるのが分かりました。

産声も何もなかったけど、
私は、「出産した」という気持ちでいっぱいになりました。

この「出産した」という気持ちは、今でも私を支えてくれています。
陣痛を感じて、力いっぱいいきんで、赤ちゃんが出てくるのを感じて。

抱っこはできなかったけど、でも、あなたを産んだ、という感覚を、
全身に植え付けることができた。

ありがとう。
産ませてくれて、ありがとう。って心から思いました。


その後、胎盤を出しました。
お腹を押されて、力を抜いて、ようやく出てきた胎盤は、
すごく大きかったように感じました。
見ていないので分からないけど。

胎盤を見た先生は、「あなたの場合は血腫が原因ね」と言っていました。

胎盤に大きな血腫の跡が、まだあったそうです。
「固くなってはいるけれど」と。

「赤ちゃん、苦しんでいませんでしたか?」と聞くと、
「うん!背中向けていたけど、私が誘導したら、くるって回って足を向けてくれて、
とってもおりこうさんだったよ」と言ってくれました。

また必ず妊娠できるから。
表に出さないだけで、こういう思いをしている妊婦さんも中にはいるから。
あなただけじゃないから。

先生は私に声をかけてくれました。

泣きながら、うなづくしかできなかった。
一つ一つの言葉が温かくて胸にしみました。


その後、30分、分娩台の上で休むように言われました。

静かになった分娩室で、助産師さんが、
「ママ、泣きごと言わずによく頑張った」って褒めてくれました。
涙が止まりませんでした。
赤ちゃんの苦しみを考えたら、泣きごとなんて言っちゃいけないけれど、
本当はすごく怖かった。
臆病な母親で、赤ちゃんに申し訳なかった。
見損なったよね。
本当にごめんね。


部屋に戻ると、パパが待っていてくれました。
顔を見て、すごく安心しました。


看護師さんが、
陣痛が早く始まったこと、あっという間に出産まで進んだこと、
「親孝行な子だねー」って言ってくれました。

その後、助産師さんが赤ちゃんを連れてきてくれました。
胸が苦しくなったけど、会えて本当に、本当に良かった。
私たちの家族だもん。
これからもずっと、私たちの子だもん。


性別を聞いてみたら、
「男の子だったんじゃないかな」と言われました。
6ヵ月目だと、まだ性別が決まる途中みたいで、
はっきりとは分からなかったみたいです。
でも、おちんちんらしきものが付いていました、と。



夕飯を食べていたら、
お世話になった看護師さんが、お別れを言いに来てくれました。

手術の時と、今回、本当にお世話になった看護師さんでした。
不安や苦しみを分かってくれて、いつも安心させてくれる看護師さんでした。
今回も会えてよかった。
出産の時にいてくれて本当に嬉しかった。

「今度また、赤ちゃんが戻ってきてくれたとき、
健診で会えるの待っているから!」と言ってくれました。

辛い入院生活だったけど、
先生や看護師さん、助産師さん達が支えてくれたこと、本当に嬉しかったです。
ずっと忘れません。
みなさんの言葉や気遣いに、どんなに助けられたことか。

すごく辛い体験だったけれど、
いい出会いに恵まれたな、って、そんな風に思います。
そしてそれが、今の私の支えにもなっています。


お世話になりました。
ありがとうございました。

赤ちゃんが教えてくれた、命の重さ。
ずっと忘れません。
私たちの元に来てくれた美咲にも、改めてありがとうです。
これからもっと、たくさんの愛情を注いでいきたいと思います。

そして、そばにいてくれる家族、友達にも。
感謝して、大切にしていきたいと思います。