先日、司法試験の合格発表がありました。


無事に、合格することができました。


親をはじめとして、自分に関わってくれた全ての方のおかげです。


これからは司法修習生として努力していきたいと思います。


平成二十五年九月十二日
2011年度 京大ロー入試 刑法第2問
【簡単な答案構成】
第2問
1 万引き目的で入店した行為について
 建造物侵入罪

2 紙パックの日本酒を盗んだ行為
(1)詐欺罪か窃盗罪か
 処分行為に基づく占有移転があるか否か。
 →占有移転を基礎づける外形的事実を被害者が認識していることが必要。
 ⇒ 本問では、店員には認識ない
  詐欺罪×。
(2)紙パックの日本酒をコートの下に隠して店外に出る行為は、占有者の意思に反した占有移転として、「窃取」に当たる。
(3)そして、紙パックという比較的小さいものをコートの下に隠して、点害に出た時点で、その占有は、甲に移転したといえるから既遂に達していると解する。
 よって窃盗罪が成立する。

3 では、窃盗たる甲が逮捕を免れるためにCに行った行為に事後強盗罪が成立するか
(1)事後強盗罪は、強盗として評価されるものである(238条)から同罪の暴行脅迫の程度は、相手方の反抗を抑圧する程度のものであることが必要である。そして、かかる判断は、構成要件該当性の問題であるから、客観的にかつ一般人を基準として判断するべきである。
 本件についてみると、甲はライターをかざしているだけである。確かにライターは火をつけることができ、人を傷害せしめるおそれはある。しかし、かかるおそれはさほど大きくはなく、Cの身体に接触するような近距離でかざしたものでもなく、またその他の燃焼物や爆発物と併せて示したわけではない。そうすると、殺すぞという言葉と併せてではあるものの、ライターをかざしたことを客観的にみる限り、一般人が反抗を抑圧されるほどの暴行・脅迫があったとは言えない。よって、事後強盗罪は成立しないと考える。
 なお、Cがナイフと誤信している等の事情は、Cの主観的な事情であるから、かかる暴行脅迫の判断においては考慮されない。
(2)また、甲が見つかったら脅して逃げるという意図のもと、ナイフを用意していたことについては、事後強盗罪の予備罪が成立すると解する。この点、事後強盗罪には予備罪が成立しないとする見解もあるが、事後強盗は強盗を持って論ずるものである以上、事後強盗罪についても予備罪は成立しうる。

3 さらに、逃げる甲を追跡する過程でCがDに衝突しDが怪我を負っていることについて何らかの罪が成立しないかが問題となるも、成立しないと解する。DにぶつかったのはCであり、甲ではないこと、甲に追跡者が他の人間とぶつからないようにする刑法上の注意義務は認められないからである。
 
4 窃盗罪と事後強盗予備罪が成立する。

(※ 事後強盗罪の成立を認めた場合には、窃盗の機会性の認定(軽く)、さらにDが負傷していることについて強盗の機会に当たるか(否定すべきか)、を検討する必要がある。強盗の機会を肯定した場合には、軽い打撲傷でも同条の「傷害」にあたるかを検討する必要がある。)
京大ロー入試 2011年度 刑法第1問

【簡単な答案構成】
第1問
第1 甲
1 A宅に侵入した行為
  ⇒ 住居侵入罪が成立する。
2 金庫を見つけた行為について
 窃盗罪の実行の着手が認められる。
  ⇒ 窃盗未遂罪成立
3 Bを縛り上げた行為
(1)猿ぐつわをつけて縛り上げる行為は、反抗を抑圧するに足りる行為といえる。⇒ 暴行ok
(2)その上で、1000万円を奪っているから、強盗既遂罪成立。
強取している=強盗罪成立
4 ①住居侵入罪、②窃盗未遂罪、③強盗罪、が成立する。
 ②は③に吸収される。これらは、①と牽連犯の関係になる。

(なお、Bを縛り上げ、その部屋のドアを閉めた行為について、逮捕監禁罪一罪を成立させることも可能である。かかる場合には、強盗罪と観念的競合になる。)

第2  乙
1 住居侵入罪の共同正犯
2 では、甲が行った犯行につき、乙に共謀共同正犯が成立するか。
(1)共謀共同正犯の成立のためには①意思連絡と②正犯性が必要。
 ①乙と甲は窃盗行為の意思連絡がある。
 ②乙は金庫の解錠技術という犯行に必要な技術を有すること、乙は分け前の4割という大きな利益を受けること、から、自己の犯罪として関与したといえる。
(2)では、強盗行為についてまで、共謀共同正犯が成立するか。
 強盗行為についても当初の窃盗の目的を遂げるための手段としてなされたものであるから、共謀の射程の範囲内に含まれる。
(3)乙は、嘘をついて帰るように頼んで犯行現場から立ち去っているた
め、共謀から離脱したといえないか。
 → 心理的物理的因果性が切断されたか否か。
 ⇒ たしかに、金庫を開けずに立ち去っている。しかし、器械をおいたまま帰っており、物理的に強い因果性を残している。
 ⇒ 離脱×
(4)もっとも、乙は、主観的には、強盗行為について認識・認容していなかったことから、強盗罪については犯罪は成立しない。そこで、窃盗罪の主観に対応した犯罪は成立しないか。
 → 抽象的錯誤。重なり合う限度で軽い罪が成立する。
 ⇒ 窃盗罪の限度で犯罪が成立する。
(5)そして、共同正犯の成立範囲についても、保護法益・行為態様の点で、構成要件間に実質的な重なり合いが認められる場合には、重なり合う軽い罪の限度では、同一の犯罪を共同して行ったと言えるので、軽い罪の限度で、共同正犯が成立する。 
 ⇒ 窃盗罪の限度で共同正犯が成立する。

4  甲との間で①住居侵入罪の共同正犯、②窃盗罪の共同正犯、が成立する。両者は牽連犯。

(なお、甲との関係で逮捕監禁罪を成立させた場合、これについても乙との共同正犯が成立するかが問題となるも、少なくとも故意は認められず、窃盗罪との実質的な重なり合いも認められないから、共同正犯は成立しないと考えられる。)

第3 丙
1 まず、甲との間で住居侵入罪の共同正犯
2 1000万円奪った行為
  承継的共同正犯の成否
 → 丙は自己の犯罪として積極的にBの犯行抑圧状態を利用した
 ⇒ ok
 ⇒ 強盗罪成立

3 甲と住居侵入罪の共同正犯、強盗罪の共同正犯 ⇒牽連犯
(なお、甲について逮捕監禁罪を成立させた場合には、丙との関係で、これについても共同正犯の成否を検討する必要がある。監禁罪については、継続犯であることから、丙が参加した時点から、監禁罪の共同正犯が成立する。)
2012 京大ロー入試過去問 刑法第1問

【簡単な答案構成】
第1 甲
1 まず、201号室に入った行為について
 住居侵入罪が成立する。
2 馬乗りになって…命じた行為
 強姦罪の成否
(1)上記行為、男性たる乙に対して行なっているが、強姦罪の実行行為の着手が認められるか。未遂犯と不能犯の区別。
 →行為当時に一般人が予見し得た事情及び行為者が特に認識していた事情を基礎に構成要件的結果発生の現実的危険性が認められるか。
 ⇒ 甲は女性であるAが寝ているとの認識で、モデルガンを突きつけるという行為をしている以上、強姦罪の実行行為が認められる。
(2) しかし、結果は発生していない。
 ⇒ 強姦未遂罪にとどまる。
3 モデルガンを乙の顔に投げつけた行為
 → 傷害罪が成立する。

第2 乙
1甲に対する罪
(1)モデルガンを投げつけた行為は、不法な有形力の行使であり、暴行罪に該当する。
(2)もっとも、結果が発生していないから、傷害罪は成立しない。
2 Aに対する罪
(1)モデルガンを投げつけた行為は不法な有形力の行使であり、かかる行為により、Aが傷害の結果を負っている。
 → 傷害罪が成立する。
(2)but乙は、甲に向けて投げており、Aについて未必の故意は認められない。そこで、方法の錯誤が問題。
 ア 法定的符合説、数故意犯
 イ 故意肯定
(3)もっとも、違法性が阻却されないか。
 ア 正当防衛 
  不正な侵害への防衛行為とは言えない。
 イ 緊急避難 
  モデルガンを投げる行為が唯一の手段とはいえず、補充性が認められない。
  ⇒ 違法性阻却されない。
(4)それでも、誤想防衛として責任故意が阻却されないか。
 ア 違法性阻却事由に錯誤があれば規範の問題に直面し得ない。
  ⇒ 責任故意が阻却される。
 イ 本件でも、乙は正当防衛の認識しかないから、責任故意が阻却
(5)もっとも、乙には、不用意にモデルガンという危険なものを投げたという過失があるから、過失傷害罪が成立する。

3 罪数
①暴行罪、②過失傷害罪が成立。両者は観念的競合。
 
2013 京都大学ロー入試 民事訴訟法

【簡単な答案構成】
問1 
1 Xの陳述が、裁判上の自白(179条)に該当すれば、裁判所はかかる事実について拘束され、証拠調べが不要となる。
2 裁判上の自白とは、口頭弁論又は弁論受日期日における、相手方の主張する自己に不利益な事実に関する陳述と一致する陳述のことをいう。そして、不利益なとは、基準の明確性から相手方に証明責任のあるということをさす。また事実とは、自由心証主義との関係から、主要事実をさすと解する。
3 弁済の事実は、相手方であるYに証明責任のある主要事実であるから、かかる陳述は、裁判上の自白となりうる。
4 しかし、本件では、未だYがかかる弁済の事実について陳述を行っていない。この場合、かかるXの陳述は不利益陳述に該当し、Yがこれを援用することで、先行自白が成立する。
5 本件では、Yがかかる弁済の事実について援用していないから、先行自白は成立しない。したがって、裁判所は、証拠調べをする必要がある。

問2
1 確定判決の効力としての既判力(114条)は後訴にどのように及ぶか。
2 既判力の客観的範囲。
(1)原則:主文
(2) 例外:相殺の抗弁
 → この場合相殺の抗弁のどの部分に既判力が生じるか。
 相殺の抗弁についての既判力は、「相殺をもって対抗した額」について生じる。反対債権として主張した額の一部しか存在が認められなかった場合でも、もともとの対抗した額全額に既判力が生じる。具体的には、自働債権の存在を主張しその存在が認められた部分は、相殺が認められて消滅したという既判力が、主張したが存在を認められなかった部分は、請求棄却の既判力が生じる。
3 本件についてみると、相殺の受動債権は1000万円であるから、自働債権1500万円のうち、1000万円が、相殺をもって対抗した額といえる。そして、裁判所によれば200万についてのみ自働債権の存在が認められていたのであるから、200万円については、相殺により消滅したこと、残りの800万円については、そもそも不存在であるとして請求棄却の既判力が生じる。対抗した額を超える500万円の部分については、既判力は生じない。
4 そして、後訴における訴訟物は、前訴の相殺の自働債権と同一のものであるから、上記相殺の抗弁について生じた既判力が誤訴において作用するといえる。このように、前訴確定判決の効力は後訴に及ぶ。

※(以下は全くの私見かつ単なる思いつきである)
(なお500万については一切の効力はないのかという疑問がある。この点については、信義則による遮断も考えられる。一部請求で一部認容or全部棄却の判決を受けた場合の判例理論を応用するのである。自働債権については結局のところ前訴で全体について審理されているはずであるから、後訴で争わせるのは紛争の不当な蒸し返しであり、信義則による拘束力が及ぶべきである、と考えることはあり得ると思われる。)
2012年度 京大ロー入試 商法第1問

【簡単な答案構成】
問1
1(1)について
 本件決議について、831条1項各号に該当し、取消すことができないか。
(1) PがAに議決権を行使させたことが、124条に反し「決議方法が法令違反」(1号)とならないか。
 基準日後に株主になった者は、当該基準日に係る権利を行使できないのが原則である。ただ、株式会社は基準日後に株式を取得した者について、その権利行使ができる者と定めることができる(124条4項)。
 しかし、基準日後に他の株主から株式を譲り受けた者の議決権行使を会社が認めることは、基準日時点の株主の権利を害するため、許されない(同項ただし書参照)と解する。
 本件でも、基準日以後に株式を譲り受けたAに議決権の行使を認めたことは、124条4項にあたり許されない。
 そして、124条4項は、基準日前の株主の利益の保護のための重要な規定であるから、重大な瑕疵がある。
 ⇒ 取消事由あり。

(2) Bの妻の代理権行使は決議方法が「定款に違反する」(1号)のではないか。
 代理人の資格を株主のみに限定する定款の有効性が310条との関係で問題となる。 
 かかる制限は、株主以外の第三者が総会に参加することにより議事がかく乱されるのを防止し、会社の利益を保護するためのものであり、合理的理由に基づく相当程度の制限である。したがって、定款の定め自体は適法である(最判昭43.1.1、34事件)。
 もっとも、代理人による議決権行使は、株主に議決権行使を容易にし、その機会を保障するという観点から重要な権利であるから、その制限は限定的にすべき。
 そこで、①株主総会がかく乱される恐れがなく、②議決権の代理行使を認めなければ株主の議決権行使の機会が奪われるような場合には、当該定款規定の効力は及ばず、会社は、当該代理人の議決権行使を拒めないと解すべきである。
 本件では、定款の規定は有効であるものの、Bの妻には株主総会を撹乱するおそれは認められず、B自身は交通事故で大けがをして入院を余儀なくされていることから代理行使を認めなければその機会が奪われるものといえる。
 よって、代理行使ok 定款違反なし。

2 (2)について
(1)決議①について 
ア まず、取締役の報酬の総額のみ決議して、その配分を取締役会に一任することが、361条に反しないか。
 これについては、全取締役に対する報酬の総額の最高限度額を株主総会決議で定められている以上、361条に反せず、有効であると考える。
 なぜなら、総額や上限を決定すれば、お手盛りは防止できるからである。
イ 次に、監査役全員が受ける報酬の総額を定めたことが、387条に反しないか。
 これについては、かかる決議は、387条に反する。
 なぜなら、同条の趣旨は、監査役の独立性の確保にあるところ、監査役の報酬の合計額について取締役に一任するとすれば、総額を不当に低額にすることで、監査役の職務の独立性を害する可能性があるからである。
 そして、決議内容の法令違反として、決議無効事由がある。

(2)決議②について
 かかる決議は、399条に反しないか。
 同条の趣旨は、監査を受ける側の会社経営者には、会計監査人が会社に対して十分な質・量の役務を提供することが困難な低い水準の報酬にとどめるというインセンティブが存在することに鑑みて、会計監査人に十分な報酬を確保する点にある。
 そうだとすれば、上限額について株主総会で決定されており、その具体的な金額決定については方の定めの通り監査役の同意が必要とされている以上、その法の趣旨に反するものではない。
 よって、399条に反しない。
2013年 京都大学ロー入試 刑法第1問

【簡単な答案構成】

1 乙の罪責
 Xを昏睡させて、車のトランクに入れ運ぶ行為について、殺人罪が成立するか。
(1)殺人罪の実行の着手はあるか。
 → 実行の着手の規範+クロロホルムの3要素
 ⇒ ok
(2)追突事故という介在事情があるが、因果関係は肯定されるか。
 → 危険の現実化説
 ⇒ 介在事情(追突)の結果への寄与度が強い。But 人をトランクに入れて路肩に車を停車させる行為には、かかる追突によりトランクという耐久性に優れていない場所にいる人間が死亡する危険性が含まれているといえるから、異常性は低い。
 ⇒ 実行行為に含まれる危険性が、介在事情を通じて間接的に現実化したといえる。⇒ ok
(3)故意あり。
 因果関係の錯誤が問題。
 → 相当因果関係の範囲内で符合していればok
 ⇒ ok
(4)殺人罪成立。

2 甲の罪責
 殺人罪の共謀共同正犯の成否。
(1)共謀共同正犯の成立のためには、①意思の連絡と②正犯性が必要。
 ア ①
 → 甲は乙から話を聞いた上で、協力を承諾。
 ⇒ 意思連絡ok
 イ ②
  甲は常日頃から、奥さんが死ねば良いなどと乙に言い聞かせていたこと、本件犯行にも進んで協力していること、Xが死亡すれば乙と結婚できるなど、甲にとってのメリットは大きいこと、自殺を装うのも甲がいることで容易になると予想されること
 → 甲は自己の犯罪として、本件犯罪に参加しているといえ、正犯性が認められる。
(2)もっとも、甲は乙が実行行為を行った後に参加してきていることから、その参加前の行為による責任を負うか。承継的共同正犯が問題。
 → 先行者の行為とそれによる結果を、自己の犯罪遂行の手段として積極的に利用した場合には、ok
 ⇒ 甲は当初から、Xに殺意を抱いており、自己の犯罪の遂行手段として、乙の作り出した状況を利用している。
 ⇒ ok
(3)殺人罪の共同正犯が成立する。
○ 医療過誤

1 被侵害利益
(1)生命
(2)適切な診療を受けることへの期待権(期待利益)
 副作用の大きいβではなく、たとえ治療効果が期待できなかったとしてもαを用いての治療を受けることをAが期待しており、その期待が保護に値するということになる。
 ⇒ 財産的損害はなく、慰謝料請求にとどまる。
(3)延命利益(生存可能性):最判平12年9月22日民集54巻7号2574頁
 生命を維持することは、人にとって最も基本的な利益であって、その可能性は法によって保護される利益であり、医師が過失により医療水準にかなった医療を行わないことによって患者の法益が侵害されたものということができる。医療過誤がなければ生きていた時点に、医療過誤のため生存していない、このような場合には延命利益が侵害されたということになる。単に期待を裏切られたわけではなく、命を長らえるという法益の侵害であるので、財産的損害もありえる。ただし、判例は慰謝料請求しか認めていない。
(4)検討の順序:
  生命侵害→延命利益侵害→期待権侵害の順で考える。

2 過失
 診療行為における医師の過失が問題となる場合には、患者の生命・身体・健康を管理するというその職務の性質に鑑みて、高度の注意義務が要求されることもやむを得ず、具体的には、危険防止のために実験上必要とされる最善の注意義務を尽くすことが要求される。
 そして、その注意義務の基準となるものは、一般的には、過失の判断基準時である、診療当時のいわゆる臨床医学の実践における医療水準である(最判昭和57年3月30日判時1039-66)。また、臨床医学の実践における医療水準は、全国一律に絶対的な基準であると考えるべきものではなく、診療にあたった当該医師の専門分野、所属する診療機関の性格、その所在する地域の医療環境の特性等の諸般の事情を考慮して類型的に決せられると解する(最判平成7年6月9日民集49-6-1499)。

3 因果関係
 因果関係の証明度については、当該過失行為から患者の生命・身体・健康への侵害という結果が生じたことが通常人が疑いを差し挟まない程度の高度の蓋然性をもって証明されれば足り、自然科学的に一点の疑義もない証明である必要はない(最判昭50.10.24民集29-9-1417:東大病院ルンバールショック事件)。
 不作為の因果関係の判断については、作為義務を観念した上で、当該作為義務が尽くされていれば当該結果は生じなかったかで判断する。判例も「医師が注意義務を尽くして診療行為を行っていたならば患者がその死亡の時点においてなお生存していたであろうことを是認し得る高度の蓋然性が証明されれば、石の右不作為と患者の死亡との間の因果関係は肯定される」としている(最判平11.2.25民集53-2-235)。

4 説明義務違反
(1)説明義務の内容
 医師は、たとえある治療措置が当該患者にとって適切であると判断したからといって、あるいはそもそも医療水準に即した措置として当該措置が確立しているからといって、患者の同意(承諾)がなければその措置を行うことはできない(専断的医療行為の禁止)。同意なしに行えば、自己決定権侵害を理由とする不法行為を構成する。
 そしてその同意を得るための前提として、医師には説明義務がある。つまり、医師としては形式的に同意を得ればよいというわけではなく、患者に対して十分な情報を与えたうえでの有効な同意(informed consent)が必要となる。
 では、説明義務の対象として、医師は医療水準に適った行為のみの説明義務を負うのか、それとも新規療法などであるいは医薬品の投与について疑いが生じているような状況があれば、そうしたことまで含めて説明する義務があるのか。
 この点判例は、かつては説明義務の対象は医療水準として確立した行為であることを要する旨を判示(最判昭61.5.30判時1196-107)。ところが最近、最高裁は、一般的には医療水準として未確立の療法について医師は常に説明義務を負うわけではない、としつつも、未確立の療法ではあっても、「当該療法が少なからぬ医療機関において実施されており、相当数の実施例があり、これを実施した医師の間で積極的な評価もされているものについては、患者が当該療法の適応である可能性があり、かつ患者が当該療法の自己への適応の有無、実施可能性について強い関心を有していることを医師が知った場合などにおいては、たとえ意医師自身が当該療法について消極的な評価をしており、自らはそれを実施する意思を有していないときであっても、なお患者に対して、医師の知っている範囲で、当該療法を実施している医療機関の名称や所在などを説明すべき義務があるというべきである」とした(最判平13.11.27)。
(2)説明の相手方
 医療措置の説明は、原則自己決定権を持つ患者本人に対してしなければならない。
 もっとも、例外的に①患者が未成年ないし高齢で説明の意味を理解できない状態である場合(自己決定のために必要とされる能力が欠如している場合)や、②患者が非常に重篤な症状にかかっていて、本人に告知するのが適当ではない場合は本人に説明しなくても許される。
京大ロー入試 2012年 刑法第2問

第1 甲の罪責
1 乙に対する行為
 売却代金を使った行為に横領罪に成立するか。
(1)「物」
 拳銃、実弾は禁制品ではないか。そこで禁制品の財物性。
 → 法は所定の手続を経ないと没収できないと規定していることから、その限度において、所有権の対象となることを認めていると解される。
 ⇒ ok
(2)「他人の」
 売却代金は他人の物か。
 → 刑法上は、所有と占有の一致はない。
 → 売却代金は未だ乙の所有。
 ⇒ 他人の物ok
(3)「占有」
 乙からの委託による占有あり。
 なお、不法原因給付の可能性があるが、財産秩序保護のために、刑法上は保護されると考える。
(4)「横領」
 費消行為は、不法領得の意思の発現たる行為といえる。
(5)横領罪成立。

2 Xに対する行為
 Xに乙へ60万円を渡させた行為について
(1)偽罔行為というためには、取引の相手方が真実を知っていれば財産的処分行為を行わないような重要な事実を偽ることをいう。
 本件では、Xは生真面目な性格でありかつ甲の父親であるから、自分の息子が交通事故を起こし相手方に修理代を負担する必要があると聞けば、父である自分がその修理代を代わりに負担しようと考えることも容易に想定できる。一方で、甲自身が勝手に物品を売却しその代金を費消したという事実を聞けば、その代金相当額を負担することはないともいえる。そうすると、甲がどのような経緯で60万を支払う必要がでたのかという事実は重要な事実といえる。そして、甲はかかる事実を偽っている。
 したがって、甲の行為は、偽罔行為といえる。
(2)そして、かかる甲の偽罔行為により、Xは錯誤に陥り、乙に60万を支払うという処分行為を行っている。
 もっとも、本件のように、第三者が利得を得た場合にそれを処罰することができるか(交付行為・処分行為といえるか)。1項詐欺には、第三者利得を処罰する文言がないことから問題となる。
 これについては、偽罔行為によって第三者に財物を交付させた場合も、利益の移転が認められると解する。もっとも、第三者は偽罔行為者と特別な関係を有している必要がある。そのような関係が認められる限りで、偽罔行為者に財物が交付されたものと同視できるからである。
 本件でも、甲と乙は、横領行為者とその被害者という特別な関係があり、甲は乙に債務を負っているところ、Xが支払うことにより甲はその債務を免れるのであるから、偽罔行為者である甲に60万円が交付されたのと同視できる。
 よって、処分行為が認められる。
(4)そして、Xには、60万円の損害が生じている。よって、詐欺罪が成立する。
(5)もっとも、親族相盗例(251条、244条)により、刑が免除されないか。
  同条は法は家庭に入らずという政策的配慮から設けられた規定であるから、244条の適用のためには、全ての関係者間で親族関係が必要になる。詐欺罪においては、偽罔者と被偽罔者の間に親族関係が必要となる。
 本件では、偽罔者と被偽罔者は親族関係にあるから、これが適用され、刑が免除される。
 
3 横領罪と詐欺罪が成立し、併合罪となる。ただし、詐欺罪については刑が免除される。

第2 乙の罪責について
1 甲に対する罪
 恐喝罪が成立しないか。
(1)脅迫というためには、相手方を畏怖するに足りる害悪の告知である必要がある。本件では、勤務先までとりたてに来られることは、甲にとって会社との関係が悪化する可能性のある行為であり、畏怖するに足りるものといえる。よって、脅迫といえる。
(2)もっとも、甲はXを通じて60万円を乙に支払っていることから、かかる場合にも恐喝罪は成立するか(三角恐喝)。
 これについてみると、被恐喝者と財産上の被害者は一致する必要はないが、被恐喝者と処分行為者は一致しなければならない。なぜなら、恐喝罪の本質的要素である畏怖による処分行為が欠けることになるからである。
 そして、被恐喝者と処分行為者が一致しているというためには、財産上の被害者の財産を処分しうる地位権能があれば足りると解する。
 本件についてみると、Xは甲の父ではあるものの、それだけにすぎず、Xの財産を処分できるような地位や権能が甲に与えられていたとは考えにくい。
 したがって、恐喝罪は成立しないと解する。
(3)なお、乙が甲を脅した行為について脅迫罪が成立する。

※ なお、本件において、甲に対する恐喝罪の成立を認めた場合には、①正当な権利行使による違法性阻却の可能性と、②Xに対する詐欺罪と甲に対する恐喝罪の双方を成立させることの可否とその罪数関係(平成15年12月9日参照)が問題となる。
 まず、①については、恐喝行為が、①権利の範囲内にあり、②手段として社会的相当性が認められる場合には、違法性が阻却される場合があり得る。本件では、乙の脅迫の内容をどのように評価するかが問題となる。
 次に、②については、上記のように乙を被害者とする詐欺罪と甲を被害者とする恐喝罪の双方を成立させることは、60万円という同一の金銭の移転を二重に評価することになり、妥当でないとも考えられる。しかし、両罪の被害者は別個の法益主体であって、それぞれ別個に損害が生じており、それがたまたま同一の金銭として現れたにすぎず、法益侵害は2つ生じていると考えられることから、両者は矛盾しないと考えられる。
 そして、両罪の関係については、2個の法益侵害があり、偽罔行為自体には行為の重なりがないことなどから、併合罪とするのが相当であると考える。

2 Xに対する行為
 詐欺罪の共同正犯は成立しない。
 なぜなら、共謀がないからである。

3 脅迫罪一罪。
【まとめ】請負における目的物の滅失。

1 工事完成前(予定の工程が終了する以前)
(1)給付危険
ア.履行がなお可能な場合
 注文者は目的物の完成を目指して仕事をするように請求できる。
 請負人は、増加費用を負担して仕事を完成させなければならない。仕事の完成が債務だからである。
 もっとも、契約時に基礎としていた事情が著しく変更したときには、事業変更の原則から、再交渉請求権や報酬増額請求権が認められる可能性がある。 
イ.遅延損害金
 予定の期日に遅れるものの完成は可能な場合の遅延損害はどちらが負担するか?
 これについては、請負人が負担する。仕事の完成が債務である以上、請負人の責めに帰すことの出来ない事由によるものでない限り、請負人が負担するべきだからである。
ウ.完成が不可能
 履行請求権は消滅する。請負人に帰責性がある場合には、損害賠償請求権に転化する。
 そうでない場合は、対価危険の問題へ。
(2)対価危険
 報酬請求権の帰趨。請負人に帰責性がなく、履行請求権が消滅した場合に反対債務たる報酬請求権が消滅するのかという問題。
ア.原則として、民法536条1項により請負人が負担し、報酬請求権を失う。
イ.例外的に、履行不能になったことにつき注文者に帰責性がある場合には。536条2項により注文者が負担する。報酬請求権は存続する。
 ただし、この場合には、残債務を免れたことにより得た利益を償還する必要(536条2項後段)。

2 工事完成後
(1)給付危険
 完成前と変わらない。
(2)対価危険
 この場合にも、完成前と同様に536条の適用が問題になるにすぎない。
 この点、完成した特定物の引渡しを目的とする債務の債務不履行の問題と捉えて534条1項の適用を主張する見解がある。しかし、請負の本質は仕事の完成であり、引渡しはあくまでもその一部である。したがって、引渡しの部分だけを取り出して534条を適用するのは妥当ではない。