幅広い知の探索と既存の知の深化、
その両方を追求する経営を「両利きの経営(Ambidexterity)」と呼び、
アメリカの経営学会でさかんに研究が行われています。
なぜ今、両利きの経営が注目されているかというと、ビジネスの不確実性が高まっており、それに対応するため、企業が不断のイノベーションを迫られているからです。
そのために必要なのは既存の知と知を組み合わせ、新しい知を生み出すこと(探索)と、その知を深掘りすること(深化)、つまり「両利き」の経営です。
そして、多くの企業は「深化」に偏りがちで、「探索」がおろそかになるので、中長期的にイノベーションが生み出せなくなるというリスクを背負いがちです。
この場合の「企業」を「個人」に置き換えてみてください。
今はキャリア形成の不確実性も高まっている時代です。
個人の知はすぐに陳腐化し、資格を取っても安泰ではありません。大企業に入ったところで「寄らば大樹の陰」は通用しなくなってきています。
そこで提案したいのが、この両利きの経営の発想、なかでも「知の探索」を個人のキャリア構築に生かすことです。
具体的にはどうしたらいいのでしょうか。そのヒントになる研究があります。
それはイノベーション研究の大家、ハーバード大学のクレイトン・クリステンセン教授がある学術誌で発表した論文です。この研究でクリステンセン教授は革新的なイノベーションを成し遂げた起業家22人にインタビューして、彼らに共通する4つの思考力を導き出しました。
1つ目はあらゆる常識を疑う力
2つ目は気になった事象を徹底的に観察する力
3つ目は仮説検証を絶え間なく行う力
最後が他人のアイデアを借りる力です
このうち、「知の探索」に関連するのは最後の2つです。
たとえば、アマゾンをつくったジェフ・ベゾスは子供の頃から自宅ガレージを実験室のように使い、疑問に思ったあらゆることを試していたそうです。
疑問に思ったあらゆることに仮説を立てて検証することは、まさに「知の探索」であり、イノベーションを生み出す行為といえます。
さらに、イーベイの創始者、ピエール・オミディアは疑問が浮かんだり、物事に迷ったりした場合、自分の頭で考えるよりも先に、「この問題は誰に聞くべきか」を考えるそうです。前回ウォルマートの例をあげて「模倣こそ知の探索の第一歩」と申し上げましたが、成功した起業家も他人のアイデアを借りることに長けているのです。
これに関連してみなさんに知っていただきたいのが、経営学にあるトランザクティブ・メモリーという概念です。
これは、組織にとって重要なことは、「組織全体が何を知っているか」ではなく、組織の各メンバーが「組織内の誰が何を知っているか」を把握しておくことである、というもの。
Whatではなく、Who knows whatが重要、ということです。これを個人に当てはめると、まさに「誰が何を知っているかを把握し、その知をうまく借りられる力」となります。
この話で思い出すのが、僕の身の回りにいる経営学者、なかでもアメリカで活躍する中国系の学者たちです。僕は典型的な日本人ですから、研究でわからないことがあっても、すべて自分で調べようとしがちです。他方、彼らはちっとも臆せず、電話やメールですぐ人に聞く。そうやって自分が知らないことや弱い部分を尋ねまくって材料を集め、いつのまにかきちんとした論文に仕上げるのが非常にうまい。トランザクティブ・メモリーを地でいっているわけです。
多くのみなさんは、これからの時代に成功するのは、1つの卓越した専門性を備えている人だと考えるのではないでしょうか。
すなわち、「知の深化」を徹底したタイプです。たしかに、こういうわかりやすい専門家も重要です。しかし、不確実性の高い時代に僕があえて注目してほしいのは「一見、どこに強みがあるかわからないのだけれど、なぜか高い業績を上げ続け、いつの間にか出世している人たち」です。
これは学術分析に基づかない私見ですが、実は知の探索力を最も有効活用しているのがこのタイプの人たちなのではないか、と僕は考えています。
その典型例が、実はあのアメリカの大スター、マドンナです。
彼女は1982年に歌手としてデビューして以来、 不確実性のきわめて高い芸能界で四半世紀も人気を保っています。しかし、抜群の歌唱力があるわけではない。ダンスもやりますが、これも超一流とはいえません。女優でもありますが、出演した映画はいずれもコケています。
どれも超一流のスキルはないのに、なぜかスーパースターであり続けているのです。その秘訣は、彼女の「知の探索」を生かした戦略性の高さにあるのではないか、と考えています。
彼女にとって最大の岐路になった環境変化は、MTVの出現でした。それまでの歌手にとって、最大の武器は歌唱力。しかしMTVの出現によって“事業環境”は一変、「歌と映像の組み合わせ」が重要になったのです。それと時期を同じくしてデビューしたマドンナは、まずは歌にセクシーな衣装とセクシーなダンスを「組み合わせる」ことで、一種のイノベーションを起こしました。
さらに彼女の知の探索は続きました。ジョン・ベニテスなど複数の音楽プロデューサーと新しいジャンルの音楽に取り組んだり、一時は映画監督のショーン・ペンやガイ・リッチーと結婚したことも、女優も目指した彼女の探索行為の表れだったのかもしれません。最近、彼女は映画監督業にも進出していますが、その知見の多くはこの2人から得たと公言しています。
ここでは芸能界の話をしましたが、これはみなさんのキャリア構築にも示唆が大きいはずです。不確実性の高い世界では「知を探索して組み合わせること、そのために他者の知を活用すること」が、キャリアを築く武器になります。そして、こういった「知の探索型」の人は何か1つに飛び抜けているわけではないので、周りからは「なぜ成功しているのかわからない」と思われがちなのです。でも、よく考えたらアップルだって、パソコンの会社なのか、音楽配信の会社なのか、携帯電話の会社なのか、よくわからないではないですか。
お金を稼ぐことが目的なのであれば、その手段は何でもいいと思います。何よりも簡単なのは稼いでる人の知を拝借すればいいのです。
僕のように大借金を背負っても、投資家の先輩から学びそこに僕のもつ人脈と他者の知を組み合わせることで競馬投資のイノベーションを起こし成功させています。
日本人はどうしても、はっきりした専門性のある人を評価しがちです。
しかし、「何が専門かわからないけど、いつのまにか成功している」というのは、実は「知の探索」行為の結果であり、そして不確実性の高い時代に求められる1つのキャリア像なのです。
これからの日本人に求められることは知をうまく借りられる力を身につけることです。
他人に知を借りることを恥じらったり、意味不明に不信感を抱いたり、身なりや言動で人を判断したり、自らを過信していたり、、
そんなくだらない小さなプライドはもう持つべき時代ではないのです。
他人の知を借りる事で一人では生み出せない成功を生み出すことができ、大きな金を動かせることに気付いて欲しい。