　僕と温佳は字を追っていた。真昼ちゃんは考えながら書き、しばらくペンを止め、また書いた。

『本当の初恋は、まだ私が小さかった頃のことだったわ。

　私には二つ上の兄がいたの。亮一って兄がね。兄はなんでもできたの。成績も優秀で、スポーツマンで、背も高かったのよ。

　私、兄のことが好きだった。どうしようもないほど好きだったの。それに気づいたのは小学五年生くらいだったかしら？まあ、それくらいの頃よ。

　苦しかったわ。だって、その頃の私は自分が女だって気づいてなかったんだもの。違和感はあったわよ。女の子とばかり遊んでたし、たまに男の子たちと一緒になるとすごく嫌な感じがしたのよ』

　真昼ちゃんは顔をあげた。あまりにも黙ってるので気になったという表情だった。機械のたてる音がいやに耳についた。

『うちって、父親はほとんど帰ってこなかったし、母さんも会合だなんだでいなかったりしたから、兄がよく面倒みてくれてたの。

　あるとき、お風呂からあがった兄が身体を拭きながら近寄ってきたの。まあ、兄弟なんだからあたりまえよね。きっと宿題は終わったのかとか言いにきたんだと思うわ。

　そのときわかったの。自分が女だって。

　そして、女として兄を愛してるんだってこともわかったの。それから、もっと苦しくなったわ。どうしようもないじゃない。私は男として生まれちゃったのに、女として兄を愛したのよ。こんなの誰にも理解できない話でしょ？私自身が理解できなかったくらいだもの』

　そこでペンを止め、真昼ちゃんは顎を固くさせた。

『その兄は、私が高校生のときに死んでしまったわ。突然によ。事故だってことになってるけど、本当のとこはわからないわ。

　草介と同じよ。自殺する理由は見あたらない。遺書もない。事故ともいいきれない。そんな感じだったわ。でも、父親が事故にしてもらったの。理事長様の息子が自殺したってんじゃ体てい裁さいが悪いからよ』

　真昼ちゃんは天井を見あげた。首につけられたホースは伸びきり、青い直線となった。

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