　真昼ちゃんは眉間に皺しわを寄せた。彼の持っていた苦しみをそのまま感じてるかのようにだ。温佳はベッドの端に座った。

『あんたたち、それもわかってる？これからずっと苦しむことになるのもわかってる？』

「大丈夫よ、真昼ちゃん。あたしたちわかってるわ」

　興奮のせいか、喉からはまたヒーッ、ヒーッという音が洩れはじめた。それと肺へ空気を送る音だけが聞こえていた。それ以外はなにも――どんな小さな音すら聞こえなかった。

『そう』と書き、真昼ちゃんは目の端を押さえた。

『そうよね。そんなことわかってるわね。いい？私がいま言ったのは本当のことよ。あんたたちは理解されないでしょうし、苦しむことになるわ。でも、あんたたちはそれをわかってるのね？』

「完璧にわかってるとは言えないけど、」

　ベッドの手摺りをつかみ、僕は真昼ちゃんを見つめた。

「これまでずっと話してきたんだ。いろんな可能性も考えた。でも、結論はこれなんだ。変えられないんだよ。自分たちの人生をきちんと感情に寄り添ったものにしたいんだ。真実味のある正しいものにね」

　僕は視線を落とした。シーツが波うっている様は、どこかの地形を立体的に示してるかのようだった。真昼ちゃんはゆっくり考えながらペンを動かした。顔をあげたときには瞳が充血していた。

『それも彼の言葉よね。まったく、あの人は私の子供たちにひどい苦しみを残していったものね』

　僕は温佳を見た。温佳も見返してきた。真昼ちゃんは弱く首を振り、ホワイトボードに向かった。

『いいでしょう。こうなったら私も腹をくくるわ』

　それを見せてから、真昼ちゃんは口許をゆるめた。

『認めるってことよ。でも、そのかわり、ずっとずっと愛しあうのよ。別れるなんて許さないわ。どんなに苦しくても、誰からも理解されなくてもよ』

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