「ん? 取り込み中か」

 

 

 蓮實淳は目を細めた。特徴ある頭に見覚えはあるものの誰かわからない。男は戸に手を掛けたままだ。

 

 

「じゃ、また来るわ。兄ちゃん、それに、お姉ちゃんも悪かったな。出直すぜ」

 

 

 ん? この話し方は、――そうか。彼は駆け寄って手を取った。うん、やっぱりそうだ。いいとこに来てくれた。

 

 

「おい、なんだよ。どうしたんだ?」

 

 

「いや、帰らないで下さいよ。ご無沙汰してましたね。そんな格好だったから、どなたかすぐにはわかりませんでした」

 

 

 ニヤッと笑い、男は法被の襟を直した。ちょっと得意げなようだ。

 

 

「ま、そうかもな。それにほんと久しぶりだもんな。――そのよ、あんときは悪かったな。俺もちょっと反省っていうかよ、言い過ぎたんじゃねえかって気にしてたんだ」

 

 

「そんなのいいんですよ。――カンナ、お茶をお出ししてくれ。この前は要らないと仰ってましたが、今日は飲んでいって下さるでしょう?」

 

 

「ん? そうかい。そうだな、じゃあ、いただいておくことにすっか」

 

 

 膝を揉みながら男は座った。刑事は固まったままだ。

 

 

「ああ、この男は目白署の刑事でね、山本っていうんです。柏木さんの事件を担当してるんですよ」

 

 

 腰を浮かしかけたものの男は座り直した。彼は唇を歪めてる。ハゲかけてる頭と完全なるハゲ。まるでなにかの使用前使用後みたいだ。

 

 

「そりゃ、ほんとに取り込み中じゃねえか。俺なんかがいていいのかい?」

 

 

「いや、その方がいいんですよ。ちょうどあなたに教えてもらったことを話してたとこなんでね」

 

 

 カンナがお茶を持ってきた。男はきょとんとした表情をしてる。

 

 

「俺が教えたって、なんのことだい?」

 

 

「ほら、柏木さんが身寄りのないお婆さんの葬式まであげてやったと言ってたでしょう。そのことについて他に知ってることがあれば教えていただきたいんです」

 

 

「ああ、平子の婆さんのことか?」

 

 

「そうです。その方のことです」

 

 

 男は隣を窺ってる。額には汗が浮きあがっていた。

 

 

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《雑司ヶ谷に住む猫たちの写真集》

 

 

雑司ヶ谷近辺に住む(あるいは
住んでいた)猫たちの写真集です。

 

ただ、
写真だけ並べても面白くないかなと考え
何匹かの猫にはしゃべってもらってもいます。

 

なにも考えずにさらさらと見ていけるので
暇つぶしにどうぞ。