その日はそのまま留置場へ戻された。
「九十九番、食事の時間だ」
「へい! ありがとうごぜえやす!」
担当官はうんざりした顔で去っていった。――っつーか、バリエーションを持たせろよ。がんもどきがシューマイに変わっただけじゃないか。ほんと飽き飽きしたわ。
食事が終わると、九時の消灯までは考える時間だ。ただ、頭はぼんやりしてる。腹が減ってるのだ。あんだけじゃ足りないんだよ。それに、すべてが薄味過ぎて、まるで糖尿病患者に出されるものみたいだもんな。しかも――と、股間を掻いた。シャワーは毎日使わせてくれ。
うん、こうなったら政治家を目指すしかないか。留置場改革を掲げて立候補するんだ。清潔さを保つため、シャワーは毎日使用できるようにする。それに、サウナもあるといいな。食事は高カロリーなもので、たまに焼肉や寿司も食える。もちろん、夕食にはビールだ。一缶だけでいいから飲みたい。――いや、そうじゃない。髪を掻きむしり、彼は腕を組んだ。留置場の快適さを望むってのはしばらくいる前提だもんな。こんなとこすぐ出てってやる。
「ふむ」
薄い布団に横たわり、彼は天井を見つめた。柏木伊久男は脅迫者だった。それが殺されたってなると犯人は――
「ま、単純に考えればそうなっちまうよな。でも、」
天井には様々な顔が浮かんでる。それだけじゃなく占いで見たものも浮かんだ。もやもやしたガスのような存在。ほんと、あの爺さんは何者なんだ? あらゆる行動がちぐはぐで、つかみどころがない。だいいち、怯えた振りして追い込もうとしてたなら、なぜ謝罪を求めた? いや、本当に謝罪を求めてたのか? なにか他に意図があったんじゃないか? じゃあ、それはなんだ? それはいったい――
気がつくと朝になっていた。ブザーが鳴り響き、見馴れた顔が覗きこんでくる。
「九十九番? ――ああ、いるな」
「へい! 旦那! 九十九番はおりますとも!」
変わり映えのない朝食、軽い運動、暇な時間とつづき、そのまま昼食になった。パッサパサのコッペパンに齧りつきながら彼はずっと考えている。他にやることがないのだ。――今日はお呼びがかからないな。どうしたっていうんだ? ま、取り調べなんて無いにこしたことないけど。そう思ってるところに声がかかった。
「九十九番、お呼びだ。行くぞ」
「へい! 九十九番はお供もうします!」
「っていうか、そういうのやめてよ。あんた、ふざけすぎだって」
「いえ、旦那! 九十九番はふざけてなどないであります!」
担当官は頭を振っている。それを見て、彼は笑った。
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