「ところで、カンナ」
「はい?」
「キティたちは元気にしてるか?」
「ああ――」
カンナは口許をゆるめた。大勢の猫に詰め寄られたのを思い出していたのだ。
「どうした?」
「ううん、元気よ。ま、一人だけ元気じゃないのがいるけどね。でも、それは後で話すわ。ほんとすごかったんだから。さすがのあなたでも驚くようなことよ」
そう、言いつのってやる。どれだけみんなが心配したか何時間でも話してやる。千春ちゃんだって寝込んだくらいなんだから。でも、いまはアレを訊いておかなきゃ。
「ね、一つだけ知りたいことがあるの」
カンナは首を伸ばした。視線の先には係官がいる。
「なんだ?」
「それはいつのことだったの?」
「それってのは?」
「それはそれよ。いつあったか知りたいの」
目は意味ありそうに光ってる。彼も背後を気にするようにした。
「ああ、なるほど」
「わかったでしょ? 教えて」
うなずきながら彼は立てた指を前に倒した。――いち、にぃ、さん、しぃ、ご。
「うん」
「で、そこから」
彼はまた同じようにした。カンナもうなずきながら、その動作を繰り返した。
「そうだ。合ってる」
「わかった。じゃ、それを『悪霊』のお婆ちゃんに言っとくわ」
「ん? そうなのか?」
「頼まれたの。いつだったか知りたいって」
「ふうん。でも、なんでだ?」
「それはわからないわ」
カンナは立ち上がった。そのままで、じっと見つめてる。
「ああ、カンナ、お願いがあるんだ。ペロ吉にごはんをあげてくれ。クロにもな。それと、元気がないってのはオチョだろ? アイツは女好きだから抱っこしてやってくれ。それに、ゴンザレスとオルフェにはブラッシングしてあげて欲しいな。キティには気をつかってやってくれ。ああ見えて彼女はけっこうな年だからな」
「わかった。あなたほどには出来ないだろうけど、なんとかしてみる」
アクリル板に手をつけ、カンナは微笑んだ。彼も同じようにしてる。体温はわからないものの気持ちだけは落ち着いてきた。
「こういうのって、なんだか二時間ドラマみたいね」
「ああ、ほんとだな」
「じゃ、またね。つぎ会うときは外でよ。わかった?」
「うん、わかった」
目を向けると、カンナは口をすぼめてみせた。そうして、振り返りもせず出ていった。
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