「いいんだよ。コイツは痛い目にあわないとわからないようだからね。オチョ、この子はあんたと違って責任ってのを心得てるよ。ま、命令に従わなかったのは腹も立つが、それでもちゃんとした理由があってのことさ。それはわかってる。でも、あんたはどうなんだい?」
近寄られるとオチョは前肢をぴんと張るようにした。上体はのけ反ってる。圧力に抗しきれないのだ。
「アタシはねぇ、遠くへ行くからってんで、あんたに任せたんだよ。ほら、こたえな。なんで離れた?」
「その、毎日毎日同じ場所で爺さんの見張りをしてて、とくに変わったことも起きないし、」
「それで?」
「あの日もなにも起きなくて、その――」
顔がずいっと近づくと、オチョは後退った。そのとき濁声が上がった。ゴンザレスのものだ。
「はっきり言っちまいなよ。あんた、往生際が悪いよ」
キティは一度首を引き、息を整えた。目はゴンザレスの方へ向いている。
「キティさん、オチョはねぇ、また覗きに行ってたのさ。ほら、路地の向こう側の家。あそこに大学生のお姉ちゃんがいるだろ? その子はいつも六時くらいに帰ってきて着替えるんだ。それを覗きに行ってたのさ。私と一緒のときだってそうだったんだからね」
猫たちは顔を見合わせ、口許をゆるめていた。ひそひそ声も聞こえてる。
「それにねぇ、不倫相手を探してるときだってそうだったんだよ。ホテルを見張ってるときも私を置いて覗きに行ってたんだ」
オチョはそっと首を曲げた。なにもそんな昔のことまで持ち出さなくていいだろ? という顔つきだ。ただ、それはすぐ苦悶に変わった。頭を踏まれ、耳に噛みつかれたからだった。
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