ドアが開き、ビデオカメラを持った警官がスーツ姿の男に話しかけた。井田隆徳が近づいていって、三人でなにかしていた。若いのと中年警官はヘルメット頭をもとの椅子に座りなおさせた。
「見てただろ! このオカマを捕まえるんだよ! そして、俺の――」
中年警官はスーツの男をちらっと見た。スーツの男はうなずいた。
「そうですなぁ、このロープは外さなきゃなりませんなぁ」
中年警官は両手を擦りあわせながらそう言った。
「でも、すぐに違うもの――手錠っていうんですがね、それをあんたに嵌めなきゃならんのですよ。いやぁ、残念でなりませんなぁ。あんたがね、このお宅にね、火をつけとるところが全部カメラに映っとったしだいでしてな。これは、まあ、逃れようがありませんなぁ」
ヘルメット頭の顔はこれ以上ないくらい歪んだ。スーツの男が押さえつけ若い警官がロープを外すと、中年警官はカチャカチャと音をさせて手錠を取りだした。そして、それを男の手にかけた。
「ええと、零時三十三分。櫻井邸放火犯、確保」
ごく事務的にそう言い、中年警官はヘルメット頭の顔を覗きこんだ。
「と、まあ、こうなるってわけですな」
「こいつらが俺を殴ったのはどうなるんだ」
ヘルメット頭の声はそれまでと違っていた。哀願するような調子だった。
「たった今もこのオカマが俺を殴っただろ? それは、あんたたちも見てたはずだ」
中年警官は確認するようにスーツの男と若い警官を見つめ、
「はて、そんなことがありましたかな?」と言った。
若い警官は笑っていた。スーツの男は苦々しい表情をしていたものの、なにも言わなかった。
「自分で転んだのを人のせいにしてはなりませんなぁ」
中年警官はヘルメット頭に顔を近づけた。
「罪を犯した人間は、よく魔がさしたとか言うもんでしてな。ま、ちょっと転んだようなもんだと思っとるんでしょう。なにしろ生きるってのは足場の悪い道を歩いてるようなもんですからな。転ぶのも、ある程度ならしょうがないかもしれませんよ。でもですな、転んだのを人のせいにしとったら起き上がるのも億劫でしょう。違いますかな?」
ヘルメット頭は中年警官の顔をじっと見返した。唇がぴくぴく動いてるのが離れていてもわかった。「やれやれ」といったように中年警官が肩をすくめると、ヘルメット頭は突然手錠のかけられた腕を大きく上へあげた。
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