「いいかい?今日が運命の日だ」
太陽が半分以上沈んだ景色を背景に、一人の男が言った。
男の前には男と女が2人ずつバラバラに座っている。
全員、顔はよく見えない。
窓が西向きで逆光、そしてあと少しで完全に日が落ちるのだ。電気をつけなければ十分な光は得られない。
にも拘らず、誰一人として動こうとしない。
皆知っているのだ。
この話が終われば、すぐにコトを起こす事を。
コトを起こすために、この部室から出ていく事を。
そして、話はすぐに終わる事を。
「まず始めに・・・みんな、今日まで色々とありがとう。」
ゆっくりと、演技がかった仕草で男は深く礼をする。
「おかげで僕らはここまで―――」「桐生<きりゅう>部長」
謝礼を述べようとしていた男・・・桐生は、セーラー服を着た女生徒に遮られた。
「手短にお願いします。」
「・・・そうだね、その通りだ蘭木<あららぎ>。じゃあ本題だけ言うよ」
薄暗い教室に、緊張が走る。
「ターゲットは 『県立 藤戸木高校』 の 『1-B教室内』 に現れる 『藤戸木高校』 の 『女子生徒』 」
「特徴は 女子生徒は 『黒髪』 。それ以外は排除しろ」
「なお、廊下にいる 『眼鏡を掛けた女子生徒』 は 『コチラ側』 の者だ。勘違いするなよ」
ここまで言って、何か質問は?、と桐生は目線で訴えかける。
無反応を返事と受け取り、桐生は 「それじゃ後はヨロシク」 と話を締めくくった。
「りょーかーいっす」
「っし!一丁やったりますか」
「・・・サポートします」
「遠那センパイ、勝手はやめて下さいね?」
【そーよ!シワ寄せが全部コッチに来るのよ!?】
「うるさい電話」
先ほどまでのシンとした空気をぶち壊す勢いで、皆は一斉に話し出した。
唯一喋っていないのは桐生ぐらいである。
ゾロゾロと昇降口へと向かう彼らを、桐生は優しく微笑みながら見つめていた。
(さて、――― )
桐生は全員が教室から出たのを確認して、戸締りをする。
その動作はゆったりとしていて、まるで何かを懐かしむかのように見える。
(・・・長いようで、短かったな)
最後に『部長席』と呼ばれていた机を優しく撫でて、上に置かれていた教室の鍵を手に取る。
目印で付けられたキーホルダーの鈴が、チリンと手の中で音を鳴らす。
(思い出が、たくさん出来てしまった・・・)
ガチャン、と閉めた音は、静まり返った廊下に物々しく響く。
いつもは職員室へ鍵を返すのだが、桐生はそのまま昇降口へ向かう。
(ようやく帰れる・・・僕の故郷に)
西日も消え、深い紫暗が廊下を侵す。
ふと、故郷の様子を考えて、無意識に空を見上げた。
( Astoliaに )
空には、一番星が瞬いていた。