朝、くだらないことですーさんと大喧嘩。
タバコ吸ったあとの換気扇を消す・消さないでもめた。
絶対つけっぱなしのすーさんが悪いのに、その言い方が腹立つとかいちゃもんつけてきた。
すーさんは何も言わず仕事に行ってしまった。
ワタシは怒りが収まらなかった。
とりあえず子どもたちを保育園につれてゆき、いつものように会社に向かい、仕事をする。
いいのか悪いのか会社の人たちはみんな出払っていて、ワタシは一人で黙々と仕事をしていた。
時々携帯を取り出しては、謝罪のメールや着信がないかどうか見てみる。
でも、なにもない。謝れば許してやるのに。チッ、と思いまた腹を立てる。
理由がくだらないだけに自分から謝ることができない。いや、だってアタシ悪くないよ?
時間は昼になり、一人で朝コンビニで買ったおにぎりを食べていると、携帯が鳴った。
すーさんかなと思って机に置いてた携帯を見ると、そこには意外な人の名前が。
なんと、前彼Kくんだった。
ちょっとびっくりしつつ、極力落ち着こうと携帯を取る。
「もしもし」
「もしもし?今大丈夫?」
「うん。昼休みだし今誰も居ないし」
「出張でこっち帰って来ててさ。久しぶりだし会えないかなと思って」
「あ、そう。仕事2時に終わるから、それからなら」
「うん。じゃあ、駅のところの○○にいるから」
「あのさ、クルマで行くから3時近くになっちゃうけどいい?」
「いいよ。急だけど大丈夫?」
「大丈夫だよ、子どもたち保育園だし」
「じゃあ、あとで。気をつけて」
1分くらいの短い会話だった。
1時から2時までの午後の時間が過ぎ、クルマに乗る。
今日はお世辞抜きにしても綺麗なカッコとはいえないワタシ。
ジーンズも左ひざに大きな穴かあいてるし(仕事に着ていくなよ)服だってそんなにかわいくない。
ま、いいか。
待ち合わせの駅にひとまず向かった。
駅前は駐車禁止なので、とりあえず近くのパーキングに車を停める。
待ち合わせ場所まで雪道を転ばないように走った。
待ち合わせ場所のカフェではもうKくんが待っていた。
ワタシがタバコの煙が苦手なのを知っているので、ワタシが来たのを見てタバコを消している。
久しぶりに見るKくんは、付き合っていた高校のころとそんなに変わっていない。
学ランがスーツになったくらいだろうか。
それに比べてワタシはすっかりおばちゃんで、きったない格好だし。
やっぱりもうちょっとなんとかしてくればよかったと少し後悔。
「ごめんね、待ったしょ」
「うん。でもそんな待ってないよ」
「久しぶりだね、元気だった?東京からこっちだったら寒いしょ?」
「確かに寒いけど、なんか冬は雪がないと寂しい気がする」
「あたしも埼玉に住んでたとき、思った!」
「子どもたちみんな元気?」
「元気元気。今頃保育園で昼寝から起きておやつの時間だよ」
「そっか。○○○さんは?」
「去年病気したけど、今はもう元気」
ひととおり話すと、ちょうど飲み物が来た。
「紅茶で良かったよね?」
「うん。・・・コーヒーだめなの覚えてくれたんだ」
「覚えてるよ」
「すごいねー。昔も数学とか教えてくれたもんね」
「数学なんて今絶対できないけど」
「あたしも。数学どころか算数からやり直しだぁ~」
そう言いながら、ワタシは心のどこかで思っていた。
気を使ってくれない、謝ってくれないすーさんより、Kくんと一緒に居ればよかった。
だって、凄く気を使ってくれる。優しくしてくれる。
「まだこっち帰ってこないの?」
「うん、まだ」
「ちゃんとご飯食べてる?」
「食べてるよ。なんか同い年なのにお母さんみたい、オレの」
「そりゃそうだよ!だって母ちゃんだもん。3人も産んじゃったからさ」
「そっか」
「そうさー。Kくんはあんまり変わらないけど、あたしゃおばちゃんだよ。おばちゃんて呼ばれることに何も抵抗ないし」
Kくんは、昔と同じように笑った。
「オレはまださすがにおじちゃんは嫌だもんな~」
ワタシは紅茶を飲みながら、外を見た。
少し雪が降っている。
高校のときのこと・同級生の話をひととおり話したあとに、Kくんがこう言った。
「時間まだ大丈夫?」
「あー・・・ほんとはもうお迎え行かなきゃだめなんだけど。久しぶりだから、もう少し。保育園に電話するかな」
「じゃあ1回出よう」
お金を払おうとするワタシをさえぎり、Kくんは会計を済ませる。
お店から出て、ワタシは保育園に電話した。
「大丈夫?」
「うん。延長保育までに行けばいいから。保育園に6時まで」
「そっか」
「どこいくの?」
「オレの泊まってるホテル行こう」
「へ?」
「ゆっくり話したくてさ。お店だとゆっくり話できないし」
「いや、そりゃでもさすがにまずくないかなぁ」
「なんで?」
「会社で泊まってるんでしょ?」
「そうだけど、ほかに誰も居ないし」
・・・いくらワタシがKくんの前の彼女とはいえ、一応人妻。
でもさ、あんまり拒むのもなんか変にバリア張って勘違いしてるみたいだし・・・。
ま、いっか。こんな汚いカッコでしかも3児の母を襲うアホはいないでしょう!
「大丈夫なの?ほんとに」
「大丈夫じゃなかったら来いって言わないよ」
「うん。どこホテル?」
「あそこ」
駅からそんなに遠くない、現在地から見えるホテルを指差す。
「じゃあクルマあそこのパーキング入れたんだけど、そのまま置いてくね」
「うん」
雪道で歩きづらい道を、黙々と歩く。
日が落ちて薄暗くなってきた。
・・・すーさんからの着信はない。
ホテルに着き、Kくんがフロントで鍵を受け取って、一緒にエレベーターに乗る。
ワタシはどう見ても汚いかっこうで、ホテルの利用客から浮いてるような気がしてならない。
うちらカップルに見えるのかなぁ。
不釣合いだよな・・・。
そんなことを思いつつ、Kくんのあとをついて部屋に入る。
さすがになんだか緊張する。
「ごめんね」
「なにが?」
「歩かして」
「ううん」
・・・なんだかうまく言葉が出てこない。
少しの沈黙の後、話を切り出したのはワタシ。
「なんかあったの?あそこで話せない話って」
「うん」
ワタシはなんだか座れなくて、窓の外を立って見ていた。
ここからの景色はこんなふうに見えるんだなぁと思った。
「だんなさんとさ」
「うん」
「うまくいってるの?」
「あー・・・うまくいって・・・るのかな。でも朝さ、けんかして」
「うん」
「普段も遅いし。休みしか話せないんだけど、最近けんかばっかりで」
「うん」
・・・てゆーか、なんでこんな話してるんだろう。
話があるって言ったのはKくんだろうに。
「あたしの話はいいよ!あたしが話したら結婚に夢持てなくなっちゃうよ~」
ワタシはずっとKくんの方を向くことができずに、外を見ながら話していた。
後ろにあるベッドにKくんが座ってるのが、窓に映ってるのを見て分かった。
なんでだろう。
ワタシらが付き合っていたのは、もう13年も前で。
付き合いだって4ヶ月に満たなかった。
いつもワタシから誘って、春休みに入って、誘って欲しくて連絡しなかった。
それを境にただの友達に戻ってしまった。
学校の友達はワタシらの付き合いを知らない。つとめて普通に振舞った。
卒業してたまにJRでばったり会うくらいになった。
住所や携帯、メアドは交換してたけど。
Kくんが東京に行ってしまって、偶然会うこともない。
なんでワタシはここにきちゃったんだろう。
恥ずかしくて顔が見れない。
「なんでこっち見ないの?」
「ん?外見てた。だってここに泊まることってないし、こーゆーふうに見えるんだなぁって」
「そか」
「うん」
まさかドキドキしてるから見れません、とはいえない。
「あのさ」
「うん」
「好きな人が居るんだ」
「え?」
・・・そこでワタシはようやくKくんのほうに振り向けた。
なんだ。相談かぁ。一人で照れちゃってバカみたいだ。
逆の意味で少し自分が恥ずかしくなる。
「どんな人?年下?それとも年上?」
「同じ年」
ワタシはすっかり恋愛相談のカウンセラー気取りになり緊張も解け、Kくんの隣に座った。
「ふーん。同じ会社の人?」
「違うよ」
「どんな人?」
「秘密」
「秘密だったら相談に乗りようがないじゃん」
「そっか」
「まあ母ちゃんとしては、息子に彼女ができるなんてちょっと寂しいけどさ」
「うん」
「とにかく気持ちを伝えないと」
「うん」
「Kくんだったら大丈夫だよ。ワタシも今のだんなじゃなくってKくんと結婚したいくらいだもん。優しいし、頭いいしさ、料理も上手だし」
「ほんと?」
「うん」
「じゃあさ」
「うん」
「だんなさんと離婚して、オレと結婚してくれないかな」
・・・は?
少し頭がパニックになってるうちに、抱きしめられる。
「好きなんだ」
えええええええええええええええええ?
「ちょっと待ってよ。あたし、3人子どもが居るんだよ?」
「そんなの関係ないよ。子ども居てもいいよ。オレがお父さんになる」
「だってさ。わからないよ」
「じゃあなんでついてきたの?ここに」
「え?」
「だんなさんとうまくいってないんでしょ?」
「・・・けんかはしたけど。そんなうまくいってないとかじゃないし」
「優しくしてくれないとか、思いやりがないとか思ってるんでしょ?」
うっ、図星。
「オレはそんな思いさせないよ」
・・・ぐらっ。
「いや、あたし実は病気してさ、もう子ども産めないの。Kくんの子どもだって産めないよ?」
「そんなのいいよ」
「いくないよ。お母さんだって悲しむしょ」
「オフクロなんて関係ない」
「だって、なにもあたしじゃなくても。ほかにKくんに合う女の人たくさんいるよ?」
「好きな人じゃなかったら、意味ないんだ」
・・・ぐらぐらっ。
「いやちょっと冷静になりなって。あたし子ども産めないだけじゃなくてきったないかっこだし、実は今ムダ毛のケアもしてないし」
Kくんはすこしの沈黙の後、大笑いしてまたワタシを抱きしめた。
「そういう飾らないところも好きなんだ」
・・・ぐらぐらぐらっ。
気持ちはもうすっかり30歳のワタシから17歳に戻っていた。
13年ぶりのキスをする。
・・・ぐらぐらぐらぐらっ。
そしてゆっくり抱き合いながらベッドに押し倒された。
ガーン!
「・・・え?」
顔に衝撃を受け目が覚める。
どうやら次男に顔を蹴飛ばされたらしい。
そう、これは全部夢だったようだ。
まだ外は薄暗く、隣を見ると次男、長男、長女、すーさんの順に並んで布団に眠っていた。
ま、夢でよかったよかった。
(念のため付け足しておきますが、冒頭から夢ですから)
(多分欲求不満のようですアッヒャッヒャ!ヽ(゚∀゚)ノアッヒャッヒャ!)