8月30日に発売される新刊

「サ終ゲームに転生したら推し聖騎士様との熱愛イベントが止まらない」

におさまらなかったエピソードをお見せしますね

転生したアビゲイルが記憶を取り戻していくシーンです。

あとがきに「王女と宰相のエピソード」と書きましたが

それはまた後日アップしますね。

今回はヒロインが推しのエドワードを

愛でているシーンです。

 

……

次に、私は書棚から本を数冊取り出し、その奥の隠し棚にある在庫を確認した。

魔石が十数個、現金は187マウロ(こちらの世界の通貨単位である。

魔法のマとユーロを融合したらしい)。それから大量の風呂のポーションと、

治癒のポーション、伝令のポーション、回帰のポーションが数個。

身代わりポーションなどというものもあるが、使い道はわからない。

マウロは親から与えられる小遣い(前世では課金にあたる)が少々と、

イケメンの従者を連れて出かけると、知らないうちに従者が行きずりの女性から

マウロをもらっていることがあり、それも私の懐に入るのだ。

このシステムは、プレイヤーがあるエピソードをクリアするときに入手できる、

美麗な背景と従者のスチルをアプリ内の掲示板に投稿すると、他のプレイヤーから

「いいよ」がタップされ、その分マウロ収入が入ってくるという仕組みだ。

 こちらの世界では、掲示板に投稿するのは大広間などに

肖像画を飾るというアクションになっているらしい。

「もっとポーションを作っておかなくちゃ」

 私の独り言を聞きつけて、侍女のミアが言った。

「お嬢様、まだ安静になさってくださいとお医者様がおっしゃいましたよ」

「錬成ぐらいいいじゃない?」

「いけません。ベッドにお戻りください」

「退屈で死んじゃうわよ、ミア」

「でしたら……お座りになって、カメラスコープでもご覧になったら

よろしいんじゃないですか? エドワードさんの映像なら気晴らしになりますでしょう」

ミアはそう言って、机を指さした。

錬金窯の横の机には、カメラスコープが置かれている。

ブリキ製のアンティークなイメージの箱型の魔道具で、レンズがついている。

これは前世でいうと動画や静止画を撮影し、保存したり投影したりできる機械だ。

机の引き出しにはそれらのデータを封じ込めた短冊型のメモリがきちんと並んでいて、

私は暇を見つけてはエドワードの動画を鑑賞していたのだ。

これは推し活以外の何物でもない。

「まあ、そうね」

「ではスクリーンを下ろしますね」

ミアはそう言って、壁の天井近くに巻いてある

白いタペストリーのようなものをするすると引き下ろした。

さらに、肘掛け椅子の前に足台とひざ掛けを運んできた。

「ミアも一緒に見ましょうよ」

「私は何度も見せていただきましたから。あとでお茶とお菓子もお持ちしますね。

くれぐれも、錬成はおやめくださいませ」

「わかったわ」

私はカメラスコープにメモリを差し込み、

ミアが下ろしてくれた白いスクリーンに向けて投影を始めた。

タイトルに『アビゲイル、三歳』と書いてあるので、お父様かお母様が記録したものだろう。

エドワードの魅力に気づいてから、私がそれをねだって自分のメモリ一覧に加えたのだ。

場所は裏庭のキメラ撃ち練習場の前だ。

森番のボブソンが、お父様の前にエドワードを連れてきて話しかけている。

「旦那様、この坊主を森で拾ってから何年か鍛えてみましたが、

どうにも森番としては使い物になりません。どうぞ、下男なり何なりと使ってやってください」

――ボブソンさん、若いなあ! あ、お父様の陰に私もいる!

ひらひらしたピンクのドレスを着た、いかにも世間知らずのお嬢様風情のアビゲイル。

三歳だった私は、エドワードを見て「くちゃい、このこ、くちゃいわ」と騒いでいる。

デリカシーの欠片もない。幼いとはいえ、黒歴史だ。

ゲーム設定でもエドワードの初期の姿は薄汚く、顔もよく見えないため、

前世でゲームを始めたばかりのプレイヤーからは従者に選ばれにくかった。

前世の私自身、外見に捉われて最後まで攻略せずにいたことをとても後悔している。

お風呂ポーションを初めて使った時に顔が見えるようになるという、

実にそそられるイベントが発生すると知っていたら、いち早く従者にしていただろうに。

とにかく、それは私が初めてエドワードを認識した時の貴重な記録だ。

  

次のシーンでは、そのエドワードがお風呂に入れられていた。

撮っているのは執事か使用人の誰かだろう。

――こんなものを撮影していいの? そして見てもいいの?

前世の記憶を取り戻した私は、ハラスメントという言葉が頭を過ったが、

投影を止めることはできなかった。

保護された猫のように怯え、丸洗いされた少年が、今まさに身なりを整え、

前髪をおかっぱに切ってもらって衝立の陰から使用人たちの前に姿を現した。

エドワードの顔が見えた時、召使いたちがみな驚きの声を上げた。

他の小姓のおさがりであろう、大きめの白いシャツと黒いズボンをはいたエドワード。

黒曜石のように濁りのない黒い目、まだ子どもなので顔に占める目の大きさ、黒目の大きさ。

そこから、すぐに彼に持たせる身分証明ペンデュラムの魔石は黒曜石と決まった。

きりっと結んだ唇は知的で、今と違ってか細い首筋は頼りない。

「今日からおまえはお館様の下で小姓になるのだ。身分証明のために撮影するから、

このカメラスコープを見て、名前と年、出身地を言いなさい」

という執事の声が聞こえ、エドワードは怯えた顔ながらも、背筋を伸ばして正面を見た。

「エドワード、九歳、です。しゅっしんちは……」

「ああ、出身地はいい」と執事が言った。

映像は全身像の次に、胸から上、そして顔のアップへと切り替わる。

最後に横顔。後頭部の丸み、おでこ、鼻から顎へのライン――全てが理想的な形だ。

彼の美しさに感動したメイドたちだろうか、パラパラと拍手する音が聞こえる。

――汚い少年を風呂に入れるとキラキラの美少年になるというお約束どおりね。

ボブソンさんは、森番として役に立たないというよりは、

この美貌が宮廷に出しても恥ずかしくないという意味でお父様にエドワードを託したのかもしれない。

 

「次は……このメモリは何だったっけ」

私はまた別のメモリを取り出して、カメラスコープに差し込んだ。

タイトルは特に書いてないが、小姓の鍛錬場が映っている。

十歳前後の少年が八人、二人ずつ組んで剣の打ち合いをしている。

エドワードの稽古シーンを盗み撮りしたものだ。

その証拠に、端に藪が写っているし、執事が公式に撮ったのと違って手ブレが多い。

――前世でいうとまるでパパラッチじゃない? いけないわ……。

モラル意識をアップデートしなくてはいけないと、私はつくづく反省した。

しかし、反省しながらも目が離せない。

幼い頃のエドワードの姿は貴重映像なのだと、前世を思い出した今ならわかる。

少年たちは、何度か組み合わせを変えて、稽古をしていたが、

エドワードは概ね勝利していた。魔術攻撃ではなく物理攻撃で、

こちらのほうはエドワードの得意分野だったのだ。

――次は、キリアンとエドワードの勝負だわ。

キリアンは二つ年上で、少年期の二歳差は大きかったと思うが、

それでもエドワードは圧勝し、監督騎士に褒められていた。

キリアンは悔しそうに顔を真っ赤にしている。

しかし、監督騎士がいなくなった後、キリアンは他の仲間と一緒になって

キリアンをいたぶり始めた。まず、一発殴ってエドワードに尻餅をつかせる。

そこに、他の少年が三人がかりでエドワードに飛びかかり、馬乗りになって殴り始めた。

キリアンは立ったまま、腕組みをして笑いながらその様子を見下ろしている。

カメラがぐらぐら揺れて、その先は一瞬視界がかすんで何が起こっているかわからない。

幼かった私は、カメラを放り投げて駆け出していたのだ。

視界の乱れが収まると画面下半分が草むらになり、その向こうに私の後ろ姿が映っていた。

スカートを翻し、ドロワーズが丸見えなのも構わず、エドワードのほうへ走っていく。

彼に殴りかかっていた少年たちがこちらを見て、一瞬動きを止めた。

「やめて、やめてよ!」と小さなアビゲイルが叫んでいる。

「女は関係ない、あっちへ行ってろ」と言って、キリアンは続きを促す。

「エディをいじめたらダメ!」とアビゲイルは言い、少年たちに体当たりした。

さすがに伯爵の愛娘に暴力を働く小姓はいない。

彼らはしぶしぶ立ち上がり、エドワードから離れた。

「今日はここまでにしといてやる。女にかばわれてなっさけねえやつめ」

と、キリアンが言いながら、エドワードのお腹に一発蹴りを入れた。

エドワードは小さく呻き、私は自分が蹴られたように悲鳴を上げた。

キリアンはようやく他の少年たちを引き連れて去っていき、エドワードはゆっくりと起き上がった。

白いシャツは土で汚れ、頬が腫れていたし、唇も少し切れて血がにじんでいた。

「エディ、いたいの?」と私が聞いたが、彼は首を振って笑った。

「お嬢さんが泣くことはありません。おれはなんともないですよ」

彼はそう言って、ポケットをあちこち探ったが、ハンカチを持ち合わせていなかったからか、

自分の白いリネンのシャツの袖口で、アビゲイルの涙をそっと拭ってくれた。

「だって、くやしくないの?」と私はしゃくりあげながら尋ねる。

エドワードは、本当に何でもないことのように笑って

「おれは、監督騎士のいる前で堂々と勝ってるから、

くやしくなんかありません、お嬢さん」と言うのだった。

「でも、ひきょうだもの。おとうさまに、いいつけてやるわ」

「こんなくだらないことでお館様を煩わせてはだめですよ、

おれたち小姓はこうやって強くなるのが仕事ですから。さあ、

もう泣かないで。おれはなんともないですから」

実際、彼なら本気でやり返すこともできないことはなかったと思う。

だが、キリアンを始め、他の小姓たちも、それなりの家柄の子息だ。

素性のわからないエドワードがそうした名門の子弟に対し、

プライベートに手を出すことは禁忌だったと、後でだんだんわかってきた。

私は、ふだん小さな傷を治すために使う癒しのポーションをあげると言ったが、

律儀というか頑固というかエドワードは

「自分のようなものにもったいない」と言って受け取らなかった。

あの美しい顔に傷がつくなんて絶対嫌だったのに。

以後も、彼の生傷は絶えなかったから、私は幼いなりに知恵を絞った。

お風呂ポーションにこっそり癒し薬を混ぜて、毎日必ずお風呂に入りなさいと命じた。

 

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※本編には性的な描写があります。ご注意ください