仙台から義母を呼んで、目の前で別れたいと告げられた日から数日。
「なにかいうことない?」
「…」
「ピル飲んでるんでしょ」
おれは、その時は、子供を産みたくないのか、生理が重くて辛くて仕方ないのかって思ってた。
「ごめんなさい。一回だけだよ…」
青天の霹靂。
まさかそんなことを言ってくるとは思ってもみなかった。
つまりは、そういうことだ。
不倫
「誰と?どこで?なんで?え?どういうこと?」
もう頭の中はパニックだった。
「誰かは言えない、場所は車で、みんなでBBQして、その流れで…」
もう、聞きたくなかった。言葉も返せなかった。
「わたしが、どんだけ不安だったかわかる?!
子供できちゃうかもしれないって、毎日不安だったんだよ!生理きてやっと安心して…」
なにを、言ってるんだ、こいつは。
ただこの言葉しか口に出せなかった。
「…気持ち悪い」
本当に吐きそうになって、頭の中パニックで、どうしたらいいか、わからなくて。
「音楽も辞めて、仕事も転々として、私がどんな気持ちだったか分かる!?将来も考えられなくなって…」
だとしても…
していいことと、悪いことがあるよ。
君は…俺が出稼ぎで一生懸命働いている間
つまりは、やることやりまくっていて
その方が楽しくなって
あの時、義母を呼んで、別れを切り出したんだよね
全てを俺のせいにして、別れようと。
けど、不倫してたことが明るみになって
出てきた言葉は、仕方なかった、不安で辛かった…
なんだろ、もうその時には完全に離婚をしなきゃダメだって思ったよ。
けど、悔しかったんだよ。
好きなことをして、やることやって、人のせいにして逃げるやつの言いなりになるのが。
できる限り目の前で苦しんで、償ってもらいたくて
別れは選択しなかった。
けど、やっぱり吐き気は常に襲ってくるし
どっちみち出稼ぎで離れ離れになるし
じゃあ、一旦時間をかけて考えようと。
そんな話になった。
数日が経って。
君から、抱えきれないと。
これ以上続けられないと。
そう、告げられた。
また。捨てられた。
別れを告げられ、不倫され、また別れを告げられ
何度も、何度も、心を抉られた。
君に会うのが最後になるかもしれないと思うと心が張り裂けそうになるのに
君に対して気持ち悪いと思う気持ちが込み上げてくる。
この、ぐちゃぐちゃな気持ちをどうしたらいいか分からなかった。
ただ、未練がましく。
最後に君を抱き寄せて、さよなら、と告げた。
それから、埼玉の大宮駅に着いて
何度も何度も電車が過ぎるのを見送った。
「次、電車が来たら終わりにしよう。」
何度も心の中でそう決意し続けた。
何度か駅員さんに声を掛けられたが
明るさを装って「友達を待っているんです」と返した。
俺の貼り付けたような笑顔がやけにおかしくて、次はちゃんと飛び込めるって思った。
「自分を癒すことだけを考えて」
姉の言葉だけを胸に、息だけをしていた。
心も、思い出も、意思も、なにもなかった。
ふと、鳴った電話。
ひろしさんから「とりあえず帰ってこい」と言われたこと。
言葉にならない想いが溢れ出して、嗚咽をしながら泣いたこと。
そうだ、俺は。
まだ、ちゃんと泣けてなかったんだ。
ちゃんと悲しめてなかったんだ。
そう、思い知った。
それから、東京の友達に会ってから、北海道に帰った。
今、俺には新たに家族が出来て、幸せな日々を過ごしている。
しかし、やはり。
まだまだ薄れもしないし、思い出す度、気持ち悪さが込み上げてくる。
カーセのエロ動画は見れないし
あごにホクロがある人を見ると思い出してしまう。
いつ、忘れられるのか。
言葉にして、向き合うと救われることもあるかと思って、綴ったけど。
まだまだ薄れてゆく記憶に抱えた悲しみは比例しない。