　いつだったろうか、公民館のカラオケ教室で「この歌は唄いや

すいヨ」と教えてもらったのが「無錫旅情」という演歌であった。

　そんなことがあってしばらくしたある日、上海・蘇州・無錫に杭

州を加えた江南４都市を巡るツアーの案内状が届いた。見ると

まるで「・・・上海、蘇州を汽車に乗り、太湖のほとり無錫の街へ

・・・」というカラオケで習った歌の文句に合わせてつくったような

コースが眼に飛び込んできた。

　私は何のためらいもなくその場で申し込んでしまった。汽車に

乗る機会はなかったが、いつもの旅とはちょっと違った旅を経験

することが出来た。

　それではこれから演歌の世界の旅にご案内しましょう・・・

まず私たちは成田から上海に向かい、そこからバスで「杭州」に

入り旅を始めた。

★杭州

　「上に天堂（天国）あれば、下に蘇杭あり・・・」と詠われているよ

　うに、蘇州や杭州をはじめとする江南の地は、温暖な気候風土

　に恵まれている。

　そうしたことから、杭州は１２世紀には宋の都が置かれるなど、

　早くから文化や政治経済の中心地として歴史の舞台に登場し、

　今は浙江省（日本の都道府県）の省都として栄えている。

●西湖遊覧

　杭州の市街地からほど近い杭州第一の観光地。

　ここ西湖は近くを流れる銭塘江（川）の一部だったが、奇観

　として知られる海水の逆流現象で堰き止められた淡水湖。

　西湖には「西湖十景」という景勝地が点在し遊覧船で見て

　廻ることができる。

　①花港観魚（牡丹・緋鯉）　　②南屏晩鐘（鐘の響き）

　③雷峰夕照（夕陽）　　　　　　④三譚印月（月）

　⑤柳浪聞鶯（柳と鶯）　　　　　⑥断橋残雪（橋と雪）

　⑦平湖秋月（秋の月）　　　　　⑧双峰挿雲（霧と雲）

　⑨曲院風荷（蓮の花）　　　　　⑩蘇堤春曉（堤・柳・桃）

▲蘇堤春曉

▲花港観魚（牡丹園）

▲平湖秋月（観月台）

▲遊覧船

●西冷印社

　印刻と書画を研究している学術団体

●六和塔

　すぐ下を流れるあばれ川で知られる銭塘江を鎮めるため

　、宋の時代（９７０年）に建てられた塔。

　外観では１３階に見えるが内部は７階建てで最上部は展

　望台になっている。

　挑戦してみては・・・と言われたが断わってしまった。今思

　えば残念・・・

●銭塘江

　杭州の町の南側を流れる大河で、毎年旧暦の中旬の

　満月の夜、引力で海水の逆流現象が発生する。

　この逆流現象は、「だいかいしょう」と言って時速は約

　３０ｋｍにも及び、波の高さは３０ｍにもなるという。こ

　れは河口がラッパ状に極端に狭いからだと言われて

　いる。

銭塘江と六和塔を観て杭州の観光を終えて杭州を去る

が、唐代の７７２～８４６年に杭州長官として赴任した

白居易（白楽天）が杭州を去る時、次のような言葉を残

している。

　　＜西湖留別＞

所々、頭を廻らせるば尽く恋うるに堪えたり、就中、

別れ難きは是れ湖辺

（振り返ればいろいろなことがあり、別れるに忍びないが

中でも一番つらいのは西湖である）

私たちもこの言葉を胸に次の目的地「無錫」に向かった。

★無錫

　ここ無錫は、長江（揚子江）の下流に位置し、中国五大

　湖の一つ「太湖」、風光明媚な「恵山」・「錫山」を持つ

　江南屈指の水郷地帯である。

　無錫の歴史は古く、今から３２００年前に「周」がここに

　都を置いたことに始まる。それ以来錫山は多くの錫を

　産出したが次第に掘りつくされたため、今の名になった

　という。よって無錫の本名は「有錫」と言えるかも・・・

▲太湖の畔のプラタナスの並木

　この日は太湖は深い霧につつまれ、…太湖のほとり、

　無錫の街へ・・・と演歌の文句にある太湖は見ることは

　出来なかった。残念・・・

●錫恵公園

　恵山（３２９ｍ）と錫山（８０ｍ）の２峰にまたがる４４万㎡の

　広大な公園。

　園内には、龍光寺、恵山寺などの名刹、１０ケ所の名泉や

　太湖石を利用した名園がある。

▲恵山寺

▲太湖石を使った庭園

▲天下第二泉と言われた「龍眼泉」

▲龍の塀

　寺院や家屋の周りは龍の彫刻で囲まれていることがあ

　る。その胴体が長ければ長いほど格式が高く権力が

　強いことを意味しているという。

▲恵山の泥人形

　ここ恵山は錫の他に良質の土がとれることから焼き物

　が盛んで、おもに茶道具の生産が多い。

　また、福を招くという土人形は「恵山の泥人形」として

　人気がある。

★蘇州

　「地上の楽園」と詠われたここ蘇州は、今から２５００年

　前「呉国」がここに都を置いた時に歴史に登場する。

　そしてここは長江の下流にあるため水をはじめ多くの

　恵みを受け農業と絹織物が盛んになった。

　それに景観の良さも手伝って、宋以降は官僚・地主・

　文人たちの憧れの町になり、２００以上の庭園があった

　という記録もある。

「蘇」という文字の由来は・・・？

　江南にあるこの地は、縦横に運河が走り、その水により

　魚介類（魚）や米をはじめとする農産物（禾）がとれ、豊

　かな恵みを受けてきた。

　「蘇」と言う文字はこうした背景から生まれたのである。

▲蘇州の風景（パンフレットからの転載）

▲虎丘

　蘇州の郊外にある高さ３６ｍの小山。

　紀元前５世紀、呉王が父をこの地に埋葬したところ、白虎

　が現われ墓を護ったという伝説からこの名がある。

▲虎丘斜塔

　北西に１５度傾いていることから、イタリアのピサの斜塔

　に因んで東洋のピサの斜塔の異名がある。

　では何故傾斜しているのか・・・？

　理由は２つある。　１つは強い北西からの風に対応する

　　　　　　　　　　　　　　ため初めから傾斜して建てられた。

　　　　　　　　　　　　　もう１つは設計・工事のミス

　私は２つ目の設計・工事のミスだと思うが、いかがか・・・

▲雲岩寺

　栃木県黒羽町の雲厳寺（旧称雲岩寺）は、この雲岩寺

　の景観に似ていることから名づけられたと縁起に記され

　ている。

　ではどうして景観が似ていることが判ったのだろうか？

▲寒山寺

　梁の時代（建国は５０２年）に建立された古刹。

　元の名は妙利普明塔院と言ったが、唐代の高僧寒山が

　長く住んでいたことから寒山寺と改められた。

　もともとはあまり大きな寺でなかったが、唐代の詩人張

　継が「楓橋夜泊」（ふうきょうやはく）の中で、寒山寺を詠

　んだことから世界中に知られるようになった。

　　　　　　　　　　楓橋夜泊

　月落鳥啼霜満天　　　江楓漁火對愁眠

　姑蘇城外寒山寺　　　夜半鐘声到客船

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　張継

　　　楓橋（蘇州郊外の橋名）に泊まって

・　月が落ちて鳥が啼いている。そして霜の気が天に

　満ちている

・　江楓（岸辺の楓）や漁火などの旅愁にとらわれて

　　熟睡できない

・　そして姑蘇（蘇州の旧称）城の外には、寒山寺が建

　　っている

・　夜半鐘の音が（作者が泊っている）客船まで聞こえ

　　てくる

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　張継

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　生没年は不明

▲楓橋

▲楓橋夜泊の拓本碑

　掛け軸を一幅買い求めた

▲シルク工場見学

　　　呉服屋さん

ここ蘇州は２５００年ほど前の呉国の都であった頃から

絹織物の生産が盛んで、明や清の時代には日本からも

多くの人たちがその技術を習いにきた。

こんないきさつから、日本では着物のことを「呉服」（呉の

国の技術で織られた着物）というようになり、それを商う

店のことを呉服屋さんと言うようになった。

▲▼留園

　太湖石を使って造られた庭園。

　太湖石とは江南地方でよく採れる石で、風化作用を受け

　易く年月が経つにつれていろいろ変化するので庭園など

　によく使われた。

★上海

　１３００万人の人口を擁する中国最大の都市。

　かつては、フランス、イギリス、日本などの列強の租界に

　分断され暗く厳しい歴史の波にもまれ続けてきた。

　外灘にヨーロッパ風の建物があるかと思えば、ちょっと露

　地に入ると中国本来の生活が息づいている不思議な街

　である。

▲玉仏寺

　建立の歴史は浅いが、ビルマから贈られた「白玉の仏像

　」に人気がある

▲▼豫園

　明代に造られた中国屈指の名園の一つ。

　かつては５万㎡にも及ぶ大庭園だったが、戦争や内乱

　などによって破壊され今残っているのは２万㎡だけであ

　るが造作は極めて細かく多彩で見ていて飽きがこない。

▲ランタンがいかにも中国という感じ・・・

▲豫園の中心「点春堂」

　清代の１８５３年、革命集団が蜂起した時ここが本部と

　なった

▲▼豫園商場

　豫園に隣接するショッピングセンター

▲▼外灘の夜景

　外灘は上海市内を南北に流れる黄浦江（川）に沿った

　一角をいう。

　かつてここは葦の茂る湿地帯だったが、列強各国が物

　資の流通拠点を作ったのがはじまり。

　こんな背景から上海は、中国であるが中国でない顔を持

　っている。

　外灘の夜景が綺麗だ、というので出掛けたがちょっと

　期待外れだった。

　というのは、夜景と言えば神戸や函館のように民家の

　灯りが集まったものをいうが、ここ上海の夜景はライト

　アップされたもので、９時になると電気が消され真っ暗

　になってしまった。

▲上海雑技を見る

　これを最後に中国江南の旅を終え、帰国の途についた。

　上海を去るにあたりクイズを一つ・・・

　上の写真はいったい何でしょうか？わかりますか・・・

　　中国江南の旅（完）

中国「江南」の旅