「いいですか、〈本当の自分〉などというものを追いかけてはいけませんよ」と、スズキ氏は忠告した。
「あなたは今日からサムライです。なりたい自分を探すのではなく、与えられた役目を果たすのです。そうすれば、あなたの悩みは消えるし、成功できるのです」
サムライと名付けられた青年は、神妙な顔付きで肯いた。
これより三時間ほど前のこと。スズキ氏はアメリカ西海岸の空港に降り立った。
Hello! My name is Ichiro Suzuki!
スズキ氏はいつものように腕を広げ、大きな笑顔を作って自己紹介をする。
Oh! Yes! My name is same as the famous major leaguer.
「私の名前は、あの有名なメジャーリーガーと同じです」
このセリフも毎度のことである。
Hello!
Hello!
Hello!
My name is,
My name is,
My name is…
彼は空港に降り立つと、人が変わったように声が大きくなり、飽きることなくこのセリフを繰り返す。
そのたびにアメリカ人たちは目を大袈裟に見開いて、
Oh! Ichiro!
とテレビのアナウンサー同様に「イ」にアクセントを置いて驚きの声をあげる。
まったく、どいつもこいつもそっくりだ。

