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第ニ章 お前は俺の命だ

 

それから程なくして、高沢組組長に呼ばれた。

 

めぐも一緒に連れてこいとのことだった。

 

「めぐ、明日、高沢組組長の屋敷に向かう、一緒に来てくれ」

 

「私もですか」

 

「多分、戸部建設の一件だろう」

 

戸部建設副社長にめぐを諦めるように言ったことで、組長に直接クレームが来たんだろう。

 

でも、俺はめぐを渡す気はさらさらない。

 

俺とめぐは高沢組組長の屋敷に向かった。

 

めぐは車から降りると、固まって動かなくなった。

 

ずらっと、高沢組の組員が、俺を出迎えていたからだ。

 

「若頭、お疲れ様です、組長がお待ちかねです」

 

俺が歩き始めると、めぐが俺を呼び止めた。

 

「鷹見さん」

 

めぐの方に振り向くと、めぐは一歩も動けず、目にいっぱいの涙を浮かべていた。

 

俺はめぐに近づき、ひょいと抱き上げて屋敷の入り口に向かった。

 

めぐは俺にしっかりしがみついて俺の胸に顔を埋めた。

 

「どうした、震えているのか」

 

「だって、怖いんです」

 

「てめえら、めぐが怖がってるじゃねえか、後ろ向け」

 

「失礼しました」

 

高沢組組員は一斉に背中をむけた。

 

「もう大丈夫だ」

 

俺がめぐを下ろそうとするが、めぐは俺から離れようとしない。

 

まるで子供が駄々をこねているみたいに、俺の首に回した手を解こうとはしなかった。

 

俺はそんなめぐが愛おしくて仕方がなかった。

 

そのまま、屋敷の部屋に入った。

 

組長の部屋の前に来た時、流石にこのままめぐを抱いて入ることは出来ず「めぐ、一旦お前を下ろす、聞き分けてくれ」そう言って、めぐを下ろした。

 

どうしよう、私はとんでもないところに来てしまったじゃないだろうか。

 

当たり前だけど、鷹見さんは極道なんだ、高沢組の若頭。

 

これから、高沢組の組長と会うって、私どうなっちゃうの。

 

鷹見さんの車から降りると、ずらっと並んだ高沢組の組員たち。

 

どこからどう見ても極道。

 

しかも半端ない数で、鷹見さんが車から降りると、一斉に頭を下げて「お疲れ様です、若頭」

 

と挨拶した。

 

こいつは誰だ、なんで若頭と一緒にいるんだと言わんばかりに私を睨む。

 

嘘だ、夢なら早く覚めて。

 

でも、これが現実。

 

全ての人が敵に見えてしまう。

 

鷹見さんが唯一味方のような気がして、彼の手をギュッと握った。

 

鷹見さんは、私を見つめて「大丈夫だ、俺から離れるな」そう言ってニッコリ微笑んでくれた。

 

「失礼致します、鷹見です」

 

「入れ」

 

部屋の襖の奥から、低くてどすの効いた声が聞こえてきた。

 

高沢組組長と初顔合わせ。

 

ドキドキ、私の心臓は今にも飛び出してしまいそうなくらいだった。

 

部屋に入ると、目の前に座っていたのは、優しい雰囲気のおじいちゃんと言う感じの老人だった。

 

私を見つめてニッコリ微笑んでくれた。

 

「鷹見、精進しておるか」

 

「はい」

 

「そうか、隣にいるのが、牧瀬めぐみさんかな」

 

「はい、自分の命です」

 

「そうか」

 

命って、鷹見さんはなにを言っちゃってるかな。

 

私、挨拶しないとダメだよね。

 

「はじめまして、牧瀬めぐみと申します」

 

やだ、声がうわずってどうしていいかわからないよ。

「お嬢さんはおいくつかな」

「三十九になります」

 

「ほお、もっと若いかと思ったが、もっとわしのそばに来て顔をよく見せてくれ」

 

私はちょっと組長さんに近づいた。

 

その時、組長さんの手が伸びてきて私の顎をクイっと上げた。

 

その時、鷹見さんがすかさず言葉を発した。

 

「失礼を承知で申し上げます、めぐに触れないで頂きたい」

 

その言葉で当たりの空気がぴーんと張り詰めた。

 

組長さんはスッと手をひいた。

 

「すまん、すまん、あまりにも可愛らしい顔をしていたんでな、つい、年寄りだと思って勘弁してくれ、鷹見、相当熱を上げてるようだが、本気か」

 

組長さんは鷹見さんに問いただした。

 

「はい、本気です」

 

「そうか、実はな、戸部建設副社長からクレームが入ってな、どう言うつもりかとお叱りを受けた」

 

「申し訳ありません」

 

「今後戸部建設の仕事は断る方向でいいかな」

 

「はい、もう一つお願いがございます」

 

「なんだ」

 

「あの、商業施設の仕事を自分が任せて頂いている会社で請け負いたいのですが」

えっ、自分が任せてもらってる会社?

 

鷹見さん社長さんなの?

 

「鷹見建設で請け負うのか」

 

鷹見建設?

 

「問題はないが、交渉が難航しない自信はあるのか」

 

「はい、お任せください」

 

「分かった、それと、ちょっとお嬢さんと二人にしてくれんか」

 

「えっ」

 

「手はつけんから安心せえ」

 

「承知致しました」

 

鷹見さんは部屋を後にした。

 

「さて、お嬢さん、鷹見を好いておるか」

 

私はどう答えていいか迷っていた。

 

「よく、わかりません」

 

「では質問を変えよう、鷹見に抱かれて嫌じゃないか」

 

鷹見さんに抱かれてって、なんでもお見通しってこと。

 

「嫌じゃありません」

 

「鷹見の側にずっといたいか」

なんでこんなに質問攻めなの。

 

側にずっといたいかと言われて、ずっと共にいたいと思い「ずっといたいです」

と答えた。

 

「そうか、そうか」

 

「あのう……」

 

私は鷹見さんが社長かどうか知りたくて組長さんに聞いた。

 

「なんだね」

 

「鷹見さんは鷹見建設の社長なんですか」

 

「そうだ、知らなかったのか」

 

やっぱりそうなんだ。

 

それじゃあ、二つの顔を持ってるってこと。

 

「鷹見さんは高沢組の若頭なんですよね」

 

「表向きは社長、裏では高沢組の若頭だ」

 

そうなんだ、だから戸部建設の商業施設建設に関わっているの?

 

そんなことを考えていると組長さんはまた質問してきた。

 

「鷹見が極道だと言うことに抵抗はないのか」

 

鷹見さんは極道、抵抗はない、普通の男性と変わりない、背中の刺青を除いては。

 

「ありません」