第五章 打ち明けられた真実

 

私は毎日、陸が店に来ることを楽しみにしている自分がいることを自覚していた。

 

いけないと思いながら、陸に惹かれる想いを止めることが出来なかった。

 

そんな私を見て、おばさんはある日真実を打ち明けてくれた。

 

「優里ちゃん、ちょっといいかい」

 

「はい」

 

おばさんはいつも明るくて人懐っこい性格だ。

 

それに大丈夫、大丈夫とあまり物事を深く考えない。

 

そのおばさんが見たこともない真剣な表情で、私を呼んだ。

 

「あのね、よく落ち着いて聞いてね」

 

なんだろうとちょっとドキドキしておばさんの話に耳を傾けた。

 

「実はね、私は優子さんを知ってるの」

 

「えっ、母を?」

 

「これから話す事は墓場まで持っていくつもりだったんだけど、まさか、優里ちゃんが城之内さんの息子さんと結婚を考える仲になるなんて思っても見なかったから……」

 

私はキョトンとして全くなんの事やら皆目見当がつかなかった。

 

「優里ちゃんは城之内さんの娘じゃないのよ」

 

私は目をパチクリさせてしばらく考えがついていけなかった。

 

「優子さんは城之内さんと知り合う前に、ここで働いていたの」

 

「母がおばさんの店で……」

 

「そう、城之内さんが客として現れて、優子さんに一目惚れしたのよ、すぐに城之内さんは優子さんを東京に連れ帰ったんだよ」

 

「そうだったんですか」

 

「それからしばらく一緒に暮らしていたんだけど、城之内さんは仕事が忙しくて、優子さんは寂しくて、他の男性と関係を持ってしまったのよ」

 

私は陸のお父様と事を考えると、母の行動は申し訳ない気持ちでいっぱいになった。

 

でもそのことで私と陸は兄弟ではない事が嬉しかった。

 

「あのう、その男性が私の父なんですね」

 

「そう、でも優子さんは優里ちゃんを身籠った時、城之内さんに真実を告げる事が出来なかったのよ」

 

母の気持ちを考えると一方的に母を責める事は出来ないと思った。

 

「それで優子さんは城之内さんにあなたの子供ですと言ってしまったの」

 

この事実をおばさんはずっと抱えて生きていたんだ。

「優子さんは城之内さんにプロポーズされたんだけど、受ける事は出来なかったって」

 

「母はここにきたんですね」

 

「大きなお腹を抱えて涙ながらに話してくれたんだよ」

 

「そうだったんですか」

 

「優里ちゃん、お母さんはこのことは絶対に城之内さんには言わないでほしいって言ってたの」

 

「そうですね、陸と兄弟ではない事実がわかって嬉しいけど、このことを陸のお父様が知ったら、ショックで、母を許さないでしょうし、私の事も恨むでしょうね、どっちにしても陸とは結婚は出来ない運命なんでしょうか」

 

「彼には真実を話した方がいいかもしれないね、それで城之内さんに話すかどうか、彼の考えだよ」

 

私は城之内さんと親子鑑定をすることを考えた。

 

陸に全てを話して、協力してもらわないといけないから。

 

次の日、陸はいつもの通り店にやってきた。

 

「肉やさい炒め定食を頼む」

 

「はい」

 

私はおばさんに注文を伝えた。

 

そして、陸に話をするために時間を取ってもらうことにした。

「陸、話がしたいの、店が終わったら時間ちょうだい」

 

「ああ、いいよ」

 

陸はちょっと驚いた表情を見せた。

 

それはそうだろう。

 

昨日までなるべく会話を避けてきた私から、話があるなんて。

 

店が終わり、陸がやってきた。

 

「なに?話って」

 

「うん」

私は未だに迷っていた、陸のお父様のこと、母のこと、そして私と陸のこと。

 

中々言い出せずにいた私に、陸が聞いてきた。

 

「俺は二年前、優里に別れを切り出した、そして別れた、でも理由もまたそのことも全く思い出せない、そして二年経って運命に導かれるように優里を愛した、それがまた何かの力で阻まれている、優里、そのことだよな、話って、ちゃんと説明してくれ」

 

私は呼吸を整えて話し始めた。

 

「陸のお父様と私の母は以前恋人同士だったの」

 

陸は驚きの表情を見せた。

 

「そして二人の間に赤ちゃんが産まれた、それが私」

 

「嘘だよな」

 

「最後まで聞いて」

「二年前、陸と私が恋人同士だったことを知ったお父様は猛反対をした、だって陸と私は腹違いの兄弟だから」

 

「それで」

 

陸は頭の回転がいい、取り乱すこともしないでこの話の続きがあると判断した。

 

「二年前、陸のお父様はそのことを陸に話したの、陸は暴言を吐き、暴れて気を失った、気づくとその部分だけ記憶がなかった」

 

「それで、俺は覚えていないのか」

 

「お父様は私を気遣い、心配してくれた、だって娘だから」

 

「でもなんで親父と優里のお袋さんは結婚しなかったんだ」

 

「実は母は他の男性と関係を持ち、妊娠したの、私はお父様の娘ではなかった」

 

「そうだったのか」

 

「でも母はそのことをお父様には言えずに、姿を消した、絶対に陸のお父様には知られたくないと、ただ一人の人に打ち明けて、この世を去った」

 

「ただ一人の人?」

 

「この店のおばさんよ、私に真実を話してくれたの」

 

「優里は知らなかったんだろう、それなのに引き寄せられるようにこの店にきたんだな」

 

「ほんとね」