第十章 命をかけて守る

 

「分かりました、小出氏との契約は切れましたが、自分がまりえを放っておくことが出来ないので、まりえを守ります」

 

俺はその場を後にした。

 

それから、俺はまりえのボディーガードを極秘で続けることにした。

 

そんなある日、私は見合いをすることになった。

 

「まりえ、お前は見合い相手と結婚して、仕事を辞めて、専業主婦になるんだ、家から一歩も出る事は許さん、いいね、真山くんを思っているならわしの言うことを聞くんだ、わかるね」

 

「はい、お父様」

 

私はお父様の言う通りにするしか選択肢はなかった。

 

亮を守りたい、私は結婚しても亮以外の男性とは身体を重ねない、そう決意していた。

 

そしてお見合い相手との約束の場所に向かった。

 

高級な料亭の入り口に私の乗った車は停まった。

 

後部座席のドアを運転手が開けてくれた。

 

私は車から降りて料亭の入り口に入ろうとしたその時、物影に隠れていた男が刃物を振りかざして私に向かってきた。

 

「きゃあ」

 

私は身体が固まったかのように、身動きが取れなくなった。

 

運転手はボディーガードではない、危険を察知してその場から逃げ出した。

 

私は目をつぶり観念した。

 

その時、私をからだを盾にして守ってくれたのが亮だった。

 

亮の腹部に刃物が突き刺さり、おびただしい血が流れた。

 

一瞬の出来事に何が起きたのか分からなかった。

 

亮は自分が刺されたにも関わらず、犯人の男を取り押さえて、拘束バンドで男の身を動けないようにした。

 

私は亮が倒れた音でやっと気づいた、亮が私を命がけで守ってくれたことを……

 

「亮」

 

私は気が動転して、どうすることも出来なかった。

 

料亭のスタッフが救急車と警察に連絡をしてくれた。

 

男は警察に連行され、亮は救急車で病院へ運ばれた。

 

俺は傷が思ったより深く、生死を彷徨った。

 

遠くに聞こえる声はまりえの声だった。

 

泣きながら俺の名前を呼んでいる。

 

俺は死んだのか、いや、まりえを残して死ぬわけにはいかない。

 

俺は必死にまりえの声がする方へ向かった。

 

なんだ、腹が痛い、目を開けるとまりえが俺の顔を覗き込んでいた。

「亮、亮、分かる、まりえよ」

 

俺は自分の手をまりえの頬にあてて、必死に頷いた。

 

「だ い じ ょ う ぶ か」

 

「私は大丈夫よ」

 

俺は眠りについた。

 

どれ位眠ったんだろうか。

 

目が覚めた時、まりえが俺の手をギュッと握りしめてベッドに寝ていた。

 

「まりえ、まりえ」

 

まりえは目を覚まして、俺を見つめた。

 

「亮、良かった、ずっと目覚めないかと心配したんだよ」

 

「ごめんな、心配かけて」

 

「謝るのは私の方だよ、私のために亮は命を落としそうになったんだから」

 

「まりえが無事で良かった、俺はボディーガードだからな、お前を守れないなら意味がない」

 

「亮」

 

私は亮の側を片時も離れなかった。

 

この事件を機に私は自分の気持ちが分かった、亮の側を離れる事はもう出来ないと。

 

「まりえ、犯人が捕まってもまだ油断出来ないから、十分気をつけろ」

 

「大丈夫よ」

 

しばらくして俺の病室に小出氏が現れた。

 

小出氏は深々と頭を下げて、俺に謝った。

「真山くん、済まなかった、君がまりえを守ってくれなかったら、今頃まりえはこの世にいなかったかもしれない」

 

「頭を上げてください、まりえさんが無事で本当によかったです」

 

「警察に行って犯人のことを聞いてきたよ、わしを恨んでいた男だった、ずっとまりえを付け狙っていたが真山くんの存在に一旦はまりえを付け狙うのを断念したが、君のボディーガードが手薄になったのをきっかけに今回の犯行に及んだと言うことらしい」

 

「そうでしたか、自分の責任です」

 

「いや、わしがまりえから君を引き離したんだからな、そのバチが当たったんだろう、まりえには君以外の男と結婚させる事は無理のようだな、退院したらまたまりえのボディーガードの依頼を引き受けてくれるか」

 

「はい、もちろんです」

 

俺は無事退院することが出来た。

 

まりえは俺のマンションに引っ越してきた。

 

そして久崎社長の元で働いた。

 

俺はまりえのボディーガードとして、ずっとまりえの側にいる。

 

この先もまりえを愛し続ける。

まりえの仕事が終わり、入り口に車を回す。

 

まりえを助手席にエスコートする。

 

「まりえ、シートベルト閉めて」

 

「亮、お願い」

 

「しょうがないな」

 

「まりえさん、失礼します」

 

俺はシートベルトに手を伸ばし、まりえと唇が接近すると、チュッとキスをする。

 

これが俺とまりえの毎日の日課となった。

 

「亮、ずっと私を守ってね」

 

「俺の側にずっといろ、生涯お前を守る」

 

 

                 END