第十章 自分の気持ちに気づかないなんて、俺はなんて鈍感なんだ。⑩-2 最終回
やっぱり、そうなんだ、そうだよね。
私は身体の力が抜ける感じを味わった。
そして気を失い倒れてしまった。
静まり返ったその場所でバタンと何かが倒れた音が響き渡った。
俺は瑞穂の身体を引き離し、その音の方へ確認するため向かった。
我が目を疑った、そこには梨花が倒れていた。
「梨花、梨花」
俺は脈を確認して、救急車を呼んだ。
梨花がどうしてここにいるんだ。
俺は瑞穂を置き去りにして、安藤の病院へ向かうように救急隊員に指示をした。
「俺は最上総合病院の外科医最上丈一郎だ、この患者は最上梨花、俺の妻だ、安藤内科クリニックに入院中だったため、安藤内科クリニックへ向かってくれ」
「かしこまりました」
救急車は安藤内科クリニックへ向かった。
救急車が安藤内科クリニックへ到着すると、安藤はすぐに梨花を処置室へ運び、
診察を始めた。
俺は待合室で待機するしか出来なかった。
静寂の中、時計の針の時刻を刻む音だけが響いていた。
梨花の処置が終わり、安藤は待合室で待機していた俺の元にやってきた。
「どう言うことだ」
「俺が聞きたい」
「梨花ちゃんは夜、姿が見えなくなった、お前に会いに行ったんだろう」
「俺に……」
「何があった」
「俺のマンションの裏手で倒れていたんだ」
「お前、梨花ちゃんを放っておいてどう言うつもりだ、お前に会えなくて寂しいって言ってたぞ、自分はお荷物だとも言っていた」
「梨花がそんな事を……」
「お前に会えないと、食事も残す、全く元気がなくなる、お前は梨花ちゃんにとって薬なんだよ、ちゃんと会いにこい」
「分かった」
俺はもしやと嫌な予感が脳裏を掠めた。
それは瑞穂が俺に抱きついていた瞬間を目視したんじゃないのか。
瑞穂とよりを戻したから自分に会いにこないんだと錯覚したのか。
ショックを受けて、倒れたとも考えられる。
それはしばらくして梨花の意識が戻り、俺に対する態度で明らかになった。
梨花の意識が戻ったと安藤から連絡を受けて病院へ駆けつけた。
「梨花、大丈夫か」
梨花は慌てて目を逸らした。
まず俺は忙しく、会いにこれなかったことを謝った。
「梨花、ごめん、手術が重なり、マンションに戻った時には仮眠を取らずにいられなかった、でも気づくと仮眠じゃなく朝になっていた、すまない」
梨花は全く俺の方を向かない、俺は話を進めた。
「マンションの裏手に倒れていたが、俺に会いにきたのか」
梨花の口元がピクッと動いた。
「なぜ、俺に声をかけなかったんだ」
俺は梨花のベッドに近づき腰を下ろした。
梨花の頬に触れて、俺の方に向かせた。
梨花の目に涙が溢れてこぼれ落ちた。
「瑞穂さんを抱きしめていたから」
「抱きしめていたんじゃない、抱きつかれたんだ」
「瑞穂さんとよりを戻すんですよね」
「梨花、もう一度だけ言う、よく聞いておけ、俺は梨花と離婚しないし、瑞穂とよりを戻したりしない」
「契約だけの妻なら、私じゃなくてもいいんじゃないんですか」
俺は梨花を抱きしめ、そして耳元で囁いた。
「梨花、お前を愛している」
梨花は俺から身体を離してじっと見つめた。
「そんなに見てると金取るぞ」
「いくらでも払います、借金に加算してください」
「そんな事を言っていいのか、払えないだろう」
「払えないからずっと最上さんの側に置いてください」
俺は梨花にキスをした。
「梨花、いいか、安藤の言うことを聞いて早く病気を治せ、そしてマンションに戻ってきたらお前を抱いてやる」
「はい」
私は最上さんを信じてついていく決心をした。
しばらくして、私は退院の許可をもらった。
「いいかい、梨花ちゃん、治ったわけじゃない、薬を続けて、通院しながら様子を見せてくれ」
「分かりました」
退院の日も最上さんは仕事が忙しいと私は一人でマンションに向かった。
一眠りして目を覚ますと、私の顔を最上さんが覗き込んでいた。
「びっくりしました」
「大丈夫か、今日は退院に付き添えなくて悪かったな」
「最上さん、熱でもあるんですか、そんな優しい言葉をかけてくれるなんて」
「ばかやろう、俺だってそれくらいのことは言える」
「ありがとうございます」
梨花はニッコリ微笑んだ。
唇が重なり、甘い吐息が漏れた。
この日の夜、俺は梨花を抱いた。
「梨花、俺以外は知らなくていい、分かったな」
「はい」
梨花の素直な微笑みに俺は溺れた。
END