ラヴ KISS MY 書籍

 

 

 

第六章 俺の側にいるって言うに決まってる、なあ、梨花

 

「じゃ、梨花帰るぞ」

 

「おい、最上、まだ梨花ちゃんの返事聞いてないぞ」

 

「俺の側にいるって言うに決まってる、なあ、梨花」

 

私は思わず「はい」と返事をしていた。

 

「梨花ちゃん、本当に最上に着いて行っていいのか」

 

最上さんが横から口を出す。

 

「梨花、帰るぞ」

 

そして、私を抱き抱えた。

 

「しっかり、捕まっていろ」

 

私は最上さんの首に手を回し、ギュッと抱きついた。

 

車で最上さんのマンションに着いた。

 

部屋のソファに座らされて「足、見せろ」そう言って、最上さんは私の足を診察した。

 

テーピングをして足を冷やしてくれた。

 

「絶対安静だ、もう動くな」

 

「はい」

 

最上さんに怒鳴られて、本当にやな奴って前は思ったけど、今は一緒にいることが出来て嬉しいと思ってる自分がいた。

 

でも、やっぱり元彼女の事は気になる、いつ離婚されてもおかしくないから、最上さんの側にいていいのは誰ですか?

 

ねえ、最上さん、あなたは私をどう思っているのですか?

 

直接聞くのは怖いから心の中で呟いてみる。

 

「もう一度だけ言う、これが最後だ、いいかよく聞け」

 

私は何を言われるのか最上さんをじっと見つめた。

 

「お前は生涯俺の側で俺の指示に従え、そうすれば何も心配ない生活を保障する」

 

「私はずっと最上さんの側にいていいんですか」

 

「ああ、俺を好きなんだろ?生涯こき使ってやるから覚悟しろ」

 

私はコクリと頷いた。

 

「それから……」

 

最上さんは話を続けた。

 

「いいか、安藤には気をつけろ」

 

安藤さん?どう言う事?

 

「安藤は俺の医学部の同期だ、そして立花瑞穂の浮気相手だ」

 

私は最上さんの言葉に愕然とした。

 

「安藤は俺から立花瑞穂を奪った、その後二人がどうしたのか分からない、しかし、今、一緒にいなのならうまく行かなかったのだろう、でも俺は今更立花瑞穂とやり直す気持ちはさらさら無い、よく覚えておけ」

 

「分かりました」

 

「梨花、気安く男の部屋に行くんじゃない」

 

「気安く行ってなんかいません、気づいたら安藤さんの部屋のベッドに寝ていたんです」

 

「何もされなかったか」

 

「多分」

 

「まっ、梨花じゃ金くれるって言われてもお断りだがな」

 

「もう、ひどい!」

 

私は最上さんの胸をぐーパンチした。

 

最上さんはその手を掴み、私を引き寄せた。

 

「無事で良かった」

 

そう言って私の唇を塞いだ。

 

「ん、ん〜ん」

 

そしてギュッと抱きしめられた。

 

「最上さん」

 

最上さんはいつも意地悪な事を言うけれど、熱烈に私の唇を奪う。

 

でもそこまでで、それ以上先には進まない。

 

それにしてもまさか安藤さんが立花瑞穂さんの浮気相手だったなんてびっくりした。

 

やはり、立花さんは最上さんと寄りを戻そうと病院へやって来たのだろうか。

 

次の日、朝早く最上さんに起こされた。

 

「いつまで寝てるんだ、起きろ、ご主人様の出勤時間だ」

 

私はその時夢を見ていた。

 

最上さんが私にキスする夢。

 

私は最上さんの首に手を回し、チュッとするため唇をとんがらせて、最上さんに迫った。

 

「おい、そんなに俺にキスして欲しいのか」

 

梨花、これ以上お前にキスすると止められなくなる。

 

最上さんは私のおでこにデコピンをくらわした。

 

「痛〜い」

 

「朝からキモい事するからだろう」

 

「えっ」

 

「お前はキス魔か」

 

「ごめんなさい、夢見てたから」

 

「何?俺はお前の夢にまで出てくるのか、相当惚れ込んでるな、抱いて欲しいなら今晩抱いてやるぞ」

 

「結構です」

 

キスならいいけどセックスなんて怖くて無理無理。

 

「何をぶつぶつ言ってるんだ」

 

「なんでもありません、夢に最上さんが出て来たなんて一言も言ってません」

 

最上さんは急に真顔になり、私を引き寄せ抱きしめた。

「俺以外の男の夢なんか見るんじゃない、病院へ行ってくる」

 

「はい」

 

「今日こそタクシーで病院へ来い、レントゲンを撮る、いいか、帰りもタクシー使うんだぞ、分かったな」

 

「はい」

 

ずっと真顔で言われて、はいと返事しか出来なかった。

 

二時の予約で病院へ向かうと、受付に最上さんが仁王立ちしていた。

「遅い、何やってるんだ」

 

「ごめんなさい、トイレ行ってたんです」

 

「本当にお前グズだな」

 

「失礼な、しょうがないじゃないですか、松葉杖だと時間かかるんです、誰も手伝ってくれないし……」

 

私はじっと最上さんを睨んだ。

 

「甘ったれた事言ってるんじゃないぞ」

 

私は頬を膨らませて拗ねて見せた。

 

グッと最上さんの顔が接近して「キスして欲しいのか、残念ながらここは病院だから今晩まで我慢しろ」と私を見つめた。

 

「ち、違います」

 

私は松葉杖を持ち上げて手を左右に振った。

 

当たり前のことだが、バランスを崩して転倒しそうになった。

「きゃっ」

 

最上さんは私を抱き抱えてくれた。

 

「お前はどこまで俺に迷惑掛ければ気が済むんだ」

 

「迷惑かけたくてかけてる訳じゃありません」

 

「お前はよく三十九年間一人で生きてこれたな」

 

「三十九年間一人だった訳じゃありません」

 

「どう言う事だ」

 

「私だってプロポーズされた事くらいありますから」

 

最上さんの顔色が変わった。

 

「男がいたのか」

「二十代の時ですけど……」

 

「なんで結婚しなかったんだ」

 

「なんでだろう、もう忘れました」

 

そこに看護師さんがレントゲンの準備が出来た事を伝えに来た。

 

「よし、行くぞ」

 

そう言って最上さんは私を抱き抱えた。

 

「自分で歩けます」

 

「また、転ばれたら溜まったもんじゃねえからな」

 

そう言って最上さんは私をレントゲン室まで運んでくれた。

 

その様子をじっと見つめていた二つの瞳があった、立花瑞穂さんだった。

 

「なんなの、あの女、丈一郎さんにあんなに親しげに」

 

瑞穂は梨花に対して嫉妬の炎を燃やしていた。

 

丈一郎さんは私のものよ。

 

私は立花瑞穂、七年前丈一郎さんと結婚までの付き合いをしていた。

 

婚姻届にサインをすれば丈一郎さんと夫婦になれるはずだった。

 

丈一郎さんはいつも意地悪な事を言って、私をからかってばかりだった。

 

それに最上総合病院の跡取りで外科医の仕事が忙しい時期だった。

 

既に一緒に暮らしていた私は毎晩帰りが遅い丈一郎に耐えられない寂しさを

 

感じていた。