ラヴ KISS MY 書籍

 

 

 

第五章 今晩梨花は俺に抱かれる覚悟をしておけ、俺を大好きなんだろ

 

 

「しょうがねえだろ、愛が冷めたんだからな、いや、俺だけのぼせ上がってたのかもしれないな」

 

梨花は婚姻届にサインし始めた。

 

「私は最上さんが大好きです、絶対に最上さんへの愛は冷めたりしません」

 

「へえ、梨花は俺が大好きなのか」

 

「あのう、今の言葉聞かなかった事にしてください」

 

「もう遅い、しっかり聞いたぞ」

 

どうしよう、最上さんは何かを企んでいるかのような笑みを浮かべた。

 

「よし、今晩梨花は俺に抱かれる覚悟をしておけ、俺を大好きなんだろ」

 

私は大きなため息をついた。

 

もう、どうしよう、大好きだけど、抱かれたいなんて一言も言ってないのに……

 

はじめてだから怖いのに……

 

「そうだ、今日、病院へ来い、足首のレントゲンを撮る、いいな」

 

「はい」

 

最上さんは病院へ向かった。

 

ああ、告白しちゃった、でも最上さんは彼女をまだ好きなんだ、きっと。

 

私は午後二時の予約で病院へ向かった。

 

婚約が発表されて、私は病院中で注目の的になった。

 

それはそうだろう、年上の婚約者、そして何より二十五歳の時の彼女と結婚すると、当時注目を浴びていたからだ。

 

それなのに結婚相手はその彼女では無い。

 

急に現れて最上先生を手玉に取り、将来の医院長夫人の座をまんまと獲得したと……

 

病院の関係者は私をチラチラみる。

 

そんな時、レントゲンの順番を待っていると、看護師がひそひそしゃべっている声が聞こえて来た。

 

「ねえ、今日、最上先生の元彼女が病院へ来ていたんだって」

 

「やっぱりね、あの婚約者じゃ、元彼女の方が魅力的だもんね、こんな事言っちゃ悪いけど、絶対最上先生あの婚約者を抱く気にならないんじゃないの」

 

「そうだよね、怪我して受診しに来たみたいだけど、最上先生と寄りを戻そうと思ってこの病院に来たんじゃないの」

 

最上さんが唯一結婚したかった彼女、立花瑞穂さん。

 

振られたって言ってたから、彼女が寄りを戻すって言ったら、私はどうなるの?

 

借金払えないよ。

 

住むところもない、お金もない、私、最上さんに離婚されたら生きて行けないよ。

 

でも、やっぱり彼女を選ぶよね、それが当たり前。

 

悠長にレントゲン撮ってる場合じゃない。

 

私は病院の出口に向かった。

 

最上さんはタクシーで帰れって言っていたけど、タクシー乗ってる場合じゃない。

 

私は歩いて帰る事にした。

 

その頃、俺は梨花のレントゲンの写真が上がって来ないので、確認の電話を入れた。

 

「おい、最上梨花のレントゲン写真まだか」

 

「今、病院内を呼び出ししているのですが、いらっしゃらなくて」

 

「いない?どう言う事だ」

 

梨花はどこで何をやってるんだ。

 

「最上先生、外来の立花瑞穂さんをお呼びしてもよろしいでしょうか」

 

「外来二番に入って貰ってくれ、俺は急用を思い出した、あと残りの患者さんは鈴木先生に頼む」

 

「最上先生」

 

看護師は慌てて鈴木先生に連絡を入れて外来一番に入って貰った。

 

俺は梨花を探しに病院内を回った。

 

受付を確認した、病院へは来てるんだ、一体どこに行ったんだ。

 

俺は車でマンションへ向かった。

 

部屋へ入るが、梨花は戻っていなかった。

スマホはマナーモードになっており応答が無い。

 

一体どうしたと言うんだ。

私は足首に負担をかけるなと最上さんから言われていた。

 

それなのに無理をして不可をかけすぎて炎症を起こした。

 

少し前から腫れており、最上さんにレントゲンを撮ると言われていた、絶対に無理するなと言われていたのに、自業自得とはこの事だと反省した。

 

なんか具合が悪い、私はマンションの近くの公園までたどり着いていたのに、もう足が動かなくなってベンチに座り込んでしまった。

 

顔が熱って熱が出てきたのかなと思うぐらいに熱くなって来た。

 

この時足首に炎症を起こし熱が出て来たのである。

 

私はそのまま意識を失った。

 

その頃、俺は必死に梨花の行方を探していた。

 

「全く面倒かけやがって、炎症起きるのも時間の問題なのに」

 

俺はなんでこんなに必死になって梨花を探しているんだ。

 

自分で自分の気持ちがわからない。

 

そうだ、俺は外科医だ、患者を心配するのは当たり前だよな。

 

でも勝手にいなくなったんだから、去る者は追わずだ。

俺には関係ない。

 

その頃、私は目を覚ました。

 

えっ、どこ?私どうしたの?

 

おでこをタオルで冷やされて、ちょっと身体が楽になってる。

 

そこにドアが開いて一人の男性が入って来た。

 

「お、目が覚めたか」

 

「あっ、あのう、私……」

 

「公園でぶっ倒れてたから俺の部屋に運んだ、相当足首虐めたな、悲鳴あげてるぞ」

 

「わかってます、担当の先生にレントゲン撮るからって言われて、炎症

起きるのも時間の問題だからって言われたのに、無理したので自業自得です」

 

「そうなんだ、すぐに治療しないとやばいぞ」

 

「えっ」

 

「俺の病院で診てやろうか」

 

「あのう、お医者様なんですか」

 

「自己紹介まだだったな、俺は安藤英人、安藤内科クリニックの医者だ」

 

「あ、私は最上梨花と申します」

 

「最上?俺の知り合いの外科医に最上ってやつがいるんだけど、それがまた、やなやろうなんだ、梨花ちゃんの主治医は誰?」

 

もしかして、安藤さんのしりあいの外科医って最上さんの事?

 

どうしよう。

私の戸惑っている様子で、もうバレバレだったみたいで、安藤さんはスマホを手に電話をかけ始めた。

 

『あ、俺、、久しぶりだな、元気だったか』

 

『英人か、今忙しいんだ、切るぞ』

 

『梨花ちゃんの足首、相当やばいぞ』

 

嘘、誰に電話してるの?

 

『梨花はそこにいるのか』

 

『ああ、主治医の最上先生は嫌いだってよ』

 

『はあ?』

 

『俺が主治医代わろうか』

 

『お前は内科医だろ。今から迎えに行く、お前の病院にいるのか』

 

『いや、俺のマンション』

 

『なんで、梨花はお前のマンションにいるんだ』

 

『俺のベッドで寝てるよ』

 

えっ、そんな言い方したら誤解されちゃう。

 

『今、迎えに行く、お前の住所変わってないな』

 

『待ってるよ』

 

安藤さんはスマホを切った。

 

「安藤さん、そんな言い方したら誤解されちゃいます」

 

「誰に?」

 

「最上さんに」

 

「最上と同じ苗字だけど、どんな関係なの?」

 

「主治医と患者です」

 

「へえ、それだけ?」

 

もう、どうしよう、なんて言えばいいの?

スマホに電話番号が登録させていると言う事は、それなりの知り合いだよね。

 

結婚した事知られると困る場合だってあるし、契約って説明するのもおかしいよね。

 

それからしばらくして、安藤さんの部屋のインターホンが鳴った。

 

「梨花、梨花」

 

最上さんは部屋のドアを開けて、私に近づいて来た。

 

「足、見せろ」

 

「なんでこんな状態になった、説明しろ」

 

私が答えに困っていると、安藤さんが口を挟んできた。

 

「主治医交代したいってさ」

 

「安藤、なんで梨花がお前の部屋にいるんだ」

 

「梨花ちゃんとどう言う関係だよ」

 

「梨花は俺の妻だ」

 

「妻?お前、結婚したのか」

 

安藤さんは凄い驚きの表情を見せた。

 

最上さんが結婚するってそんなに驚く事なんだ。

「梨花は連れて帰る」

 

「ちょっと待て、という事はお前の病院からあの公園まで歩いたって事か」

 

そう言って安藤さんは私を見た。

 

そして大きなため息をついた。

 

「梨花ちゃん、それは無謀ってもんだよ、なんでタクシー使わなかったんだ」

「梨花はどう言うわけだか、俺の言う事に逆らうんだよな」

 

「違います、これ以上借金が増えたら払えないから」

 

「だから借金は返さなくてもいいと言ってるだろう」

 

「だって、彼女と結婚するんですよね」

 

「誰がそんな事言ったんだ」

 

「看護師さん達が噂してました、立花瑞穂さんは最上さんと寄りを戻す為に病院へ来たって」

 

「患者として来ただけだ」

 

「でも最上さんは彼女と結婚したかったんですよね、私と離婚すればすぐに結婚出来るじゃないですか、そしたら私は最上さんに借金返さないと行けないから」

 

「それで治療も受けずにタクシーも使わなかったのか」

 

「だって……」

 

「だってじゃない、梨花は俺の指示に従っていればいいんだ、そうすれば借金は返さなくていいと何回言わせるんだ」

 

「おい」と安藤さんが口を挟んだ。

安藤さんは信じられないと言った表情を見せた。

 

「最上がこんなに言い訳した所ははじめて見たぞ、梨花ちゃんにわかって貰おうと

必死に説得してるんだからな、去る者は追わない主義じゃ無かったのか」

 

「梨花は俺が必要なんだ」

 

「へえ、必要ねえ」

 

「それに、梨花が俺を好きだって言ったんだ、俺は別に」

 

「梨花ちゃん、最上はやめて俺にしなよ、主治医交代、どう?」

 

「駄目に決まってるだろ、お前は内科医なんだからな」

 

「借金は俺が最上に返す、だから梨花ちゃんは何も心配しないで、最上と別れて俺のものになれよ」

 

「駄目だ」

 

「どうしてだよ、元彼女が戻って来たんだろ、最上は彼女とやり直せよ」

 

えっ、どうしよう。

 

このままじゃ、最上さんの側にいられなくなっちゃう。

 

最上さん、まさかそうしようなんて言わないですよね。

 

「梨花はどうなんだ、俺の事好きなんだよな、俺の側にいれば借金無しにしてやる、どうする?」

 

私は最上さんの側にいたい、大好きだから。でも最上さんはどうなんだろう。

 

俺の側にいれば借金無しにしてやるって言ったよね。

 

私は自分の気持ちを伝えようとした時、最上さんが先に口を開いた。